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大腸がんの腹膜播種に対する治療のトピックス

大腸がんの腹膜播種に対する治療のトピックス
合田 良政 先生

国立国際医療研究センター病院 外科

合田 良政 先生

目次
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大腸がん腹膜播種(ふくまくはしゅ)は、従来は治療の難しい状態であると考えられてきました。しかし、昨年発表された『大腸癌治療ガイドライン2019年版』では、軽い腹膜播種の場合には完全切除することが強く推奨されるなど、治療の方針が変化しています(2020年3月時点)。

今回は、大腸がんの腹膜播種に対する腹膜切除が適応される基準や、治療のトピックスについて、国立国際医療研究センター病院の合田(ごうだ) 良政(よしまさ)先生に伺いました。

大腸がんの腹膜播種に対する治療——腹膜切除と術中腹腔内温熱化学療法(HIPEC)について』でも述べたように、大腸がんの腹膜播種に対する標準治療は抗がん剤治療です。日本の『大腸癌治療ガイドライン』でも、これまで切除に関してはあまり積極的ではありませんでした。

しかし、2019年版からは、腹膜を切除して治療できる場合は切除することが推奨されています。

腹膜切除が可能な場合は実施することを推奨

『大腸癌治療ガイドライン2019年版』では、大腸がんから遠い部分の腹膜にたくさんの播種があるという“P3”に分類される患者さんに対し、腹膜切除の効果は確立されていないと記載されています。

しかし、欧米のガイドラインには、患者さんの状態を的確に診断し、日本でいうP3の患者さんであっても場合により腹膜切除も考慮することがあると記載されています。

大腸がんの腹膜播種に対する腹膜切除は、腹膜播種にのみ効果があるものです。肝転移や肺転移などの遠隔転移がある場合には効果がなく、適応となりません。たとえば、腹膜播種と肝転移が同時にある患者さんは切除の適応となりません。ほかの部分に遠隔転移がなくて、腹膜播種だけにとどまっている場合にのみ適応となります。

ただし、どのような患者さんが腹膜播種だけにとどまるかは分かっていません。腹膜切除により播種は切除できたけれど、数年後に肝臓や肺への転移が出てきたという患者さんもいらっしゃいます。

患者さんにとって体への負担の大きい手術ということもあり、腹膜切除の適応は慎重に検討すべきだと考えています。

2018年4月の特定臨床研究法の施行、そして後述する“PRODIGE 7 trial”の結果を踏まえ、現在は腹膜切除のみで大腸がんの腹膜播種の治癒を目指しています(2020年3月時点)。

当院で腹膜切除の適応となる方は、以下のとおりです。

  • 年齢が20歳以上75歳以下の方
  • P分類1または2、もしくはPeritoneal Cancer Index(PCI)score(以下、PCIスコア)≦15の方
  • 臨床的に大腸がん腹膜転移であることが証明されている、もしくは疑わしい方
  • 現在腹膜播種以外の遠隔転移(肝臓・肺・リンパ節)がない方
  • 腹膜播種の発生時期(同時性、異時性)は問わない
  • 原発巣切除の有無は問わない
  • 大腸がんに対して放射線療法を未施行の方
  • 前化学療法の有無は問わないが、有害事象から回復している方
  • Performance Status(ECOGの基準)が0〜1の方

たとえば、20~75歳というのは、腹膜切除が患者さんにとって負担の大きい手術である点から、若年の方や体力が衰えた方には実施しないということです。P分類のP1またはP2、もしくはPCIスコアで15点以下とは、腹膜播種の程度が軽度から中等度の方を対象とするということです。

2018年の米国臨床腫瘍学会年次集会(American Society of Clinical Oncology 2018 Annual Meeting) において、腹膜播種を伴う切除不能な進行・再発大腸がんに対する術中腹腔内温熱化学療法(Hyperthermic Intraperitoneal Chemotherapy : HIPEC)の有用性を検討した、第III相試験(PRODIGE 7 trial)の結果が報告されました。

この試験は、フランスの17施設からの報告で、大腸がんの腹膜播種265症例において、腹膜切除にHIPECを組み合わせた場合と、組み合わせなかった場合との治療成績を比較したものです。

対象は、年齢が18~70歳までで、腹膜以外の臓器への遠隔転移がなく、PCIスコアが25点以下、切除不能な進行・再発大腸がんの患者さんです。腹膜切除とHIPECを併用したグループ(133例)、腹膜切除のみでHIPECを併用しなかったグループ(132例)で治療成績が比較されました。

臨床試験の結果、腹膜切除とHIPECを併用したグループと併用しなかったグループで、治療成績は変わりませんでした。つまり、HIPECを併用することの上乗せ効果が認められなかったことになります。むしろ、腹膜切除とHIPECを併用したグループのほうが、合併症を起こす確率が高いという結果でした。

ただし、本臨床試験にはさまざまな問題があると考えられます。

1)腹膜切除のみでHIPECを併用しなかったグループの治療成績が予想以上に良好であったこと

2)HIPECに使用した薬剤であるオキサリプラチンの妥当性(耐性の問題)

3)多施設における手術手技・周術期管理のQuality Control

特に3)にあるように、手術を行った施設ごとに手技や術前・術中・術後を通した患者さんの全身管理(周術期管理)の仕方に違いがあり、また手術の質にもばらつきがあったと考えられます。2)についても、点滴でオキサリプラチンを投与しながらHIPECを行うため、オキサリプラチンの効果が低かった可能性もあると解釈できます。ただし、PCIスコアが11~15点、日本でいうP2分類程度の患者さんには、HIPECの上乗せ効果がある可能性も示唆されています。

いずれにせよ、HIPECの併用の有無にかかわらず、腹膜切除を行った患者さんは5年生存率が40%近く得られています。腹膜播種を伴う切除不能進行・再発大腸がんに対する積極的切除が有効であることが、本試験により確認されたともいえます。

この試験は、本治療法を行っている医師にとっては意外な結果でした。しかし、解釈は慎重にすべきであり、新たな臨床試験を設定する必要があると考えています。

当院では、前任の矢野(やの) 秀朗(ひであき)医師が中心となり、大腸がんの腹膜転移(腹膜播種)と診断された患者さんに対し、2010年9月~2016年12月までに腹膜切除+HIPECを38例行いました。その結果、3年全生存率は55%、3年無再発生存率は25%、肉眼で腫瘍(しゅよう)の残存がみられない状態(CC-0)を達成した27例の3年無再発生存率は34%でした。

大腸がんの腹膜播種に対する治療では、当院がこれまでに実施してきた腹膜偽粘液腫*に対する治療と同じ方法を用います。経験を重ねるとともに、技術面ではさらに合併症を減らすよう取り組んでいます。大がかりな手術ですが、術後合併症をいかに抑えるか、もしくは早期発見して対応できるかが重要ですので、各科と連携を取りながら、引き続き治療に力を注いでまいります。また、私の恩師である矢野 秀朗医師が、現在英国で外科医として活躍されています。先述したPRODIGE 7 trial の結果を踏まえた欧米での最新情報も入手しつつ、少しでも治療成績が向上するように努めたいと考えています。

*腹膜偽粘液腫:主に虫垂にできた腫瘍が破裂し、お腹の中にゼリー状の粘液が散らばる病気。

本記事を読まれている方の中には腹膜播種であることが判明して「これからどのような治療ができるのだろうか」とお困りの方もいらっしゃるかと思います。抗がん剤による治療は標準治療ですから、施行することはもちろん問題ありません。しかし、患者さんの中には、切除により治癒し得る方もいらっしゃいます。主治医とご相談のうえ、セカンドオピニオンとして私に診療情報をお送りいただければ、治療の適応となり得るか否かを判断いたします。また、手術が難しいと考えられる場合でも、さまざまな手段を講じられるかどうかなど、患者さん一人ひとりに合わせて詳しくご説明させていただきます。

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