大腸がんは大腸にできるがんで、1年間で15万人程度が罹患しており、男女共にかかる人が多いがんの1つです(2019年時点)。大腸は部位によって結腸および直腸と呼ばれることもあり、がんができる部位によって結腸がんや直腸がんに分けられます。
主な自覚症状は血便、下痢、便秘、便が細くなるなどの消化器症状が中心です。ただし、早期の大腸がんでは自覚症状はほとんどなく、がんが進行してから何らかの症状が現れることが多くあります。
治療の基本は内視鏡治療または手術によるがんの切除で、切除が難しい場合は薬物治療や放射線治療などが考慮されます。
本記事では、大腸がんの治療法の詳細について解説します。
大腸がんの治療法は、大きく分けて内視鏡治療、手術、放射線治療、薬物治療などがあります。これらいずれかの方法、または複数の方法を組み合わせて治療が行われます。どのような治療を行うかは患者さんの症状、年齢、生活スタイル、希望などを踏まえて決定されますが、治療ガイドラインで参考とされる基準は大腸がんの病期(ステージ)です。大腸がんのステージは、がんの深さやリンパ節、多臓器への転移の有無によって0期~IV期まであります。
精密検査によってがんの詳しい部位や広がりの程度を調べ、がんのステージを決定し治療法を検討します。一般的にIII期まではがんの切除を目指し、内視鏡治療又は外科治療が考慮され、必要に応じて薬物療法(補助化学療法)を行います。IV期や、III期までであっても切除が難しい場合は薬物療法を中心に行い、必要に応じて症状を和らげるための放射線治療や対症療法を行います。ただし、上記の治療法はあくまで目安であり、患者さんごとの症状や年齢、ほかの合併症、希望、生活スタイルに応じて治療法が選択されます。
大腸がんの主な治療には内視鏡治療、手術、放射線治療、薬物治療があります。
内視鏡と呼ばれる細い器具を使ってがんを切除する治療法です。0期~I期の早期の大腸がんの場合に考慮され、手術と比べて体の負担が少ないことがメリットです。
大腸がんで用いられる内視鏡治療には内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)、内視鏡的粘膜切除術(EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)と呼ばれる方法があります。
I期の中でもがんの広がりが大きい場合や、II期以上の場合、すなわちがんがある程度進行しており、内視鏡治療ではがんが取り切れない場合や、リンパ節転移の可能性がある場合などに考慮されます。手術の場合、通常は周りのリンパ節も含めて切除を行いますが、ほかの臓器に広がっている場合は周りの臓器も切除することがあります。手術法には、開腹だけでなくお腹に数か所の穴を開けて行う腹腔鏡下手術や、手術支援ロボットを使って行うロボット支援手術もあります。お腹を切り開くよりも患者さんの負担が少なく済みますが、病気の状態などによって難易度が変わるため、医師とよく相談するとよいでしょう。
がんがある部位に放射線を照射する治療です。大腸がんで行われる放射線治療には補助放射線治療と緩和的放射線治療の2つがあります。補助放射線治療は、切除が可能ながんに対して再発を予防したり、がんの切除範囲を小さくしたりするために行われます。緩和的放射線治療では、がんによる痛みや出血などの症状を和らげるために行われます。現時点では放射線だけで治療することは難しいですが、将来的には抗がん薬との組み合わせで治癒を目指すことができるようになる可能性があると考えられています。
大腸がんの薬物治療(抗がん薬、分子標的薬など)には、切除治療が行われた場合にがんの再発を防ぐ目的で行われる補助化学療法と、手術が難しい場合にがんを小さくしたり、がんの進行を抑えたりすることを目的に行われる緩和的化学療法があります。薬物治療に用いられる薬は多数あり、がんや合併症の状態などに応じて用いられる薬が決められます。がんの治療に用いられる薬は何らかの副作用が起こることが多いですが、副作用を和らげる薬も用いながら治療を進めることができます。
大腸がんの治療法によっては生活を送るうえで注意が必要になることがあります。
がんを切除する場合、外科手術では体に負担がかかるため徐々に手術前の生活を目指していきます。また、直腸を取り除いた場合、人工肛門(ストーマ)でなければ便をためるところがなくなるので、何度もトイレに行く必要が生じます。1回ではすっきりと出ないので、数分おきに数回のまとまった排便が必要になることもあります。肛門の機能が低下していると知らないうちに便が漏れてしまうこともあり、お尻を締める筋肉のトレーニングが必要になることもあります。食事に関しては食べていけないものは特になく、食べ過ぎないように気を付けましょう。どのような治療であっても、治療中はもちろん治療を終えた後でも副作用や再発のフォローアップが必要となるため、定期的な受診を続ける必要があります。職場への復帰は術後1~2か月でできていることが多いようです。
大腸がん治療には内視鏡治療、手術、放射線治療、薬物治療などがあります。治療法は大腸がんのステージのほか、個々の患者さんの状況に応じて考慮されるため、治療法について気になることがあれば主治医に相談するようにしましょう。
京都大学大学院 医学研究科 消化管外科学 准教授
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