大腸がんは、がんの進み具合によって、内視鏡を使った治療で完治を目指せることがあります。内視鏡治療のひとつである「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」は、大きな病変であっても、がんの周りを高周波ナイフで焼き切ることで、がんを一括切除できる治療法です。
今回は、年間約100件の大腸ESDを行う(2014~2018年実績)、山下病院 消化器内科統括部長である松崎 一平先生にESDについてお話を伺いました。
大腸は、部位ごとに「上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸」に分かれます。これらの部位のいずれかに発生したがんを、大腸がんといいます。大腸がんに対する治療法には、主に以下のようなものがあり、進行の程度や患者さんの状況などによって治療方針を決定します。
内視鏡治療とは、内視鏡(大腸内を観察するカメラ)を肛門から挿入し、専用の器具を使ってがんやポリープなどを内側から切除する治療です。
内視鏡治療は、外科手術のようにお腹を切る必要がないため、患者さんにかかる負担が少なくて済みます。そのため、内視鏡治療ができる場合には、基本的には内視鏡治療を選択します。それでは、内視鏡治療はどのような場合に実施可能なのでしょうか。
大腸の壁は、上図のように表面(内側)から「粘膜、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜」に分かれます。大腸がんは、表面の粘膜から発生し、進行するにつれて、だんだん奥深くへと潜り込んでいきます。
内視鏡治療の適応となるのは、がんが粘膜下層のごく浅い場所でとどまっている場合です。
それより深い場所までがんが潜り込んでいると、リンパや血管の流れに乗って、がんがほかの場所(リンパ節や他臓器)に転移している可能性が高いため、外科手術でがんのある部分とリンパ節を切除する必要があります。
(※大腸がんの腹腔鏡手術については、『記事4』をご覧ください)
内視鏡治療には、主に以下の2つの切除方法があります。
本記事では、これらのうち内視鏡的粘膜下層剥離術(以下、ESD)について詳しくお話しします。
ESDとは、高周波の電流が流れる専用のナイフを使って、がんやポリープを粘膜下で剥がし取る治療法です。
EMRでは、スネアと呼ばれる輪っか状のワイヤーを病変にかけて切除しますが、病変のサイズが大きかったり、平べったかったりすると、スネアをかけることができません。このような理由でEMRができない場合に、ESDが適応となります。
また当院では大腸に限らず、食道・胃・十二指腸の病変に対してもESDを実施しています。
ESDではまず、病変の下の粘膜下層に液体を注入して、病変を浮かせる処置を行います。大腸の壁は3〜4mmほどの厚さしかなく、そのままの状態で剥がし取ってしまうと、大腸に穴が開く「穿孔」という合併症が起こる恐れがあるためです。
液体の注入が完了したら、先端が2mmほどの細い専用のナイフを使い、病変の周りを慎重に切り進めていきます。このとき、切開部分からの出血に対して、止血をしながら治療を行います。剥離が完了したら、病変を回収して手技終了です。
ESDでは静脈麻酔を使用するため、患者さんは眠った状態で治療を受けていただきます。治療にかかる時間は、病変の大きさなどによりますが、当院の場合約30分〜2時間です。
便潜血陽性反応を示したため大腸CT検査を行った結果、大腸ポリープがみつかりESDを実施(大腸CT検査については、記事2『少ない苦痛で大腸がんを早期発見――大腸CT検査の方法やメリット・デメリット』にて解説)
ESDの代表的な合併症に、「後出血(術後に出血が起こること)」があります。そのほか、大腸に穴が開く「穿孔」が起こることもあります。
ESDは、外科手術と比べると患者さんの身体的負担が軽減される治療です。しかし、難易度の高い治療であることから、実施できる病院は多くないのが現状です。
当院では、年間およそ100件ものESDを実施しており、他院からのご紹介も積極的にお受けしています。これまで蓄積してきた経験を活かして、レベルの高いESDを患者さんに提供し続けていきたいと思います。
医療法人山下病院 消化器内科統括部長
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