皆さんは、大腸がん検診を受けたことはありますか?大腸がんは、早期の段階で治療を行えば命を落とすことは少なく、早期発見のためには検診が重要です。大腸がん検診では、便潜血検査*や大腸内視鏡検査**が行われますが、近年大腸がん検診のひとつとして有用と考えられているものが、内視鏡を挿入せずに大腸内の3D画像を得ることができる「大腸CT検査」です。
今回は、医療法人山下病院 理事長である服部 昌志先生と、同病院 放射線部部長である山﨑 通尋さんに、大腸CT検査についてお話を伺いました。
*便潜血検査……便の中に血液が混じっていないか調べる検査
**大腸内視鏡検査……内視鏡と呼ばれる小型のカメラを肛門から挿入し、大腸内を観察する検査
大腸がんは、全てのがんのうち男女合わせて患者数がもっとも多いがんです。それにもかかわらず、大腸がん検診の受診率は低く、2016年の大腸がん検診受診率(40〜69歳)は、男性で44.5%、女性で38.5%であったと報告されています。
さらに、大腸がん検診(便潜血検査)の結果、精密検査が必要と判定された方のうち、約50%の方しか再検査を受けていないという報告もあります。
この大きな理由として、
などと思っている方が多いことが分かっています。
本来、大腸がんは早期に発見されれば、命を落とすことは少ないがんです。しかし、大腸内視鏡検査を敬遠するあまりに、大腸がん検診の受診率は伸び悩んでおり、日本では多くの方が大腸がんで亡くなっています。
そこで、大腸がん検診において有用と考えられている検査が、大腸内視鏡検査よりも少ない苦痛で、大腸内を3Dで確認することができる「大腸CT検査」です。
大腸CT検査とは、大腸を炭酸ガスで膨らませた状態でCT撮影を行い、大腸内を観察する検査です。治療が必要とされる6mm以上のがんやポリープであれば、大腸内視鏡検査とほぼ同等の結果が得られます。
一方、平べったい形をしていたり、小さかったりするものは、大腸CT検査では確認しづらい場合がありますが、小さな病変はみつかったとしても治療の必要がないものがほとんどです。
大腸CT検査では、まず大腸の動きを抑える鎮痙剤を注射します。そのあとで、鉛筆ほどの細さのチューブを肛門から数cm挿入し、そこから大腸を膨らませるための炭酸ガスを注入します。炭酸ガスを注入することで、少しお腹の張りを感じることがありますが基本的に痛みはなく、炭酸ガスは検査後すみやかに体内に吸収されます。
これらの処置を行ったうえで、仰向けとうつ伏せの2パターンで撮影を行い、検査終了です。
大腸CT検査にかかる時間は、約5〜10分です。また、CTの撮影時間は、2パターン撮影しておよそ数分です。CT室に入室してから退出するまでは約15分です。
大腸CT検査では、経口造影剤を用いて便と病変を見分ける「タギング法」という方法を用います。
タギング法を用いない従来の大腸CT検査では、腸内に便が残っていると、便と病変を見分けることができないため、約2Lもの下剤を服用して腸内を完全に綺麗にする必要がありました。
しかし、タギング法による大腸CT検査では、服用した造影剤が便に絡んで白く写し出されるため、腸内を完全に綺麗にする必要がありません。また、便の中に埋もれている病変も写しだすことが可能です。
そのため、検査前に服用する下剤は、約200mL(従来の約10分の1)で済み、患者さんにかかる負担がより軽減されるようになりました。
当院では、2003年に大腸CT検査を開始し、年間およそ2500件の大腸CT検査を実施しています。
大腸CT検査を医師が必要と判断し保険適用を満たしている際には、保険診療となります。検診や人間ドックとして患者さん自身がご希望される場合には、自費診療の「大腸CT検診」として受けていただくため、検診費用として税込28,000円(CT単独)をご請求させていただいております(2019年8月現在)。
大腸CT検査のメリットとして、大腸内視鏡検査に比べて身体的・精神的負担が少ないことが挙げられます。大腸内視鏡検査は、大腸の奥まで内視鏡を挿入する必要があるため、患者さんによっては強い痛みを感じることがあります。しかし、大腸CT検査では、肛門に数cmだけチューブを挿入するだけなので、強い痛みを感じることはほとんどありません。
また、先ほどお話ししたように、検査前に服用する下剤が少量で済むことも大きなメリットです。
そのほか、大腸穿孔*などの偶発症**が極めてまれなことも、大腸CT検査のメリットです。
*大腸穿孔……大腸の壁に穴が開くこと
**偶発症……検査や治療に伴い起こりうる別の症状
先述したように、小さかったり、平べったかったりする病変は、大腸CT検査では確認できない場合があります。またCT撮影に伴い、ごく少量の放射線被ばくがあることも、デメリットといえます。
一般的な大腸がん検診では、便潜血検査で陽性反応が出た場合、2次検査として大腸内視鏡検査を受けることが推奨されていますが、大腸内視鏡検査への抵抗感から、2次検査を受けていない方が多くいらっしゃいます。
また、便潜血検査で陽性反応が出たとしても、大腸内視鏡検査をしてみると何も異常がないことは珍しくありません。このような過去の経験から、「大腸内視鏡検査を受けても、つらい思いをするだけで意味がない」と感じている方も多くいらっしゃると思います。
そこで、便潜血検査で陽性となったからといって、いきなり大腸内視鏡検査を受けるのではなく、1.5次検査として苦痛の少ない大腸CT検査を挟むことで、本当に必要な場合にだけ大腸内視鏡検査を受けていただくことができると考えています。
先述したように、便潜血検査で陽性反応が出たとしても、実際には何も異常がないことは多々あります。その場合、検診を受けた方に不要な心配を強いることになります。
そこで、大腸がん検診の最初のスクリーニングとして、便潜血検査の代わりに大腸CT検査を行うことで、より正確性の高い初期診断を行うことが可能です。
大腸CT検査は少しずつ普及し始めているものの、施設によって読影技術に差があるのが現状です。そこで、将来的には人工知能(AI)の技術を駆使して、機械的に自動診断ができるシステムができれば、どの施設であっても同じクオリティの大腸CT検査が受けられるようになるのではないでしょうか。そして、このようなシステムが構築されれば、大腸CT検査の件数を増やすこともできると考えます。
医療法人山下病院 理事長
「大腸がん」を登録すると、新着の情報をお知らせします
本ページにおける情報は、医師本人の申告に基づいて掲載しております。内容については弊社においても可能な限り配慮しておりますが、最新の情報については公開情報等をご確認いただき、またご自身でお問い合わせいただきますようお願いします。
なお、弊社はいかなる場合にも、掲載された情報の誤り、不正確等にもとづく損害に対して責任を負わないものとします。
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。