日本において増加傾向にある大腸がんですが、手術をしてがん腫瘍を取り切れれば、治癒の可能性が高まるがんともいえます。不安ばかりを抱えずに、正しい知識を持って、しっかりと向き合って治療することが重要です。
今回は大腸がんの治療方法と手術後の生活について、埼玉県立がんセンターの風間伸介先生にお話を伺いました。
大腸がんは、肝臓や肺などに転移のある進行したがんであっても、検査で指摘された病変を完全に取り除く手術を行うことで、治癒の可能性が高まるといわれています。
当院では、転移がある場合、消化器外科の肝臓グループ、胸部外科の医師と連携して診断を行い、治療にあたります。また、がんが膀胱や子宮にまで及ぶこともありますが、その場合には、泌尿器科、婦人科と合同で治療にあたります。
また、近年では、受診時にがんが広がっていて手術で対応できない場合でも、まずは抗がん剤治療や、抗がん剤治療と放射線治療を併用することで、がんを小さくしたり、広がりを抑えたりする術前治療を行うケースが出てきました。この術前治療を行うことで、手術ができる場合もあります。当院には、消化器内科に抗がん剤を専門とする、日本臨床腫瘍学会認定「がん薬物療法専門医」がおりますので、消化器内科や放射線治療科の先生との連携を密にし、治療にあたっています。
当院では、傷が小さく、痛みも少なく、回復も早い腹腔鏡下手術を積極的に導入しています。大腸がんの手術というと、お腹にメスを入れる開腹手術をイメージされる方が多いかもしれません。しかし、より早く大腸がんへの腹腔鏡下手術が導入された欧米では、進行がんに対しての長期成績が従来の開腹手術に劣らないことが報告されています。当院でも2018年の実績で、81%の患者さんが腹腔鏡下手術を受けられました。当院の消化器外科 大腸グループの医師3人(2019年12月現在)が、内視鏡外科学会の技術認定を受けて治療にあたっています。
また、2018年4月より、直腸がんに対する手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ (da Vinci Surgical System) 」が保険適用されました。当院でも2019年6月よりロボット手術を保険適用で行っています。ただし、がんの進み具合や、心肺機能の状況を鑑みて、従来の開腹手術で行うこともあります。
がんは腫瘍だけを取り除けばいいわけではありません。がんが周囲にも広がっているため、ある程度広く切除する必要があります。そのため、がんが肛門の近くにできてしまった場合には、括約筋や肛門を含めて切除しなくてはいけない場合があります。その場合には、排便を行うために新たな肛門をお腹に作ることになります。これが人工肛門(ストマ)です。
「人工肛門は避けたい」という思いをお持ちの患者さんは多いと思います。しかし、医療の観点では、できるだけがんを取り切りたい。その両者の思いを両立するために、括約筋間直腸切除(ISR)手術という、肛門を温存する手術が開発されてきました。ISR手術は、一時的には人工肛門が必要となりますが、最終的には自然の排便を目指します。当院ではこの術式を積極的に導入し、年間15人程度の患者さんがこの手術を受けられています。
当院には、大腸がんの抗がん剤治療を専門としている、日本臨床腫瘍学会認定「がん薬物療法専門医」が、消化器内科に2人(2019年12月現在)在籍しています。この「がん薬物療法専門医」が中心となって、術前、術後の抗がん剤治療を担当しています。
また、放射線治療を専門としている、日本放射線腫瘍学会認定「放射線治療専門医」も1人(2019年12月現在)在籍しています。
抗がん剤治療や放射線治療が必要となる患者さんの治療法の検討のために、カンファランスを定期的に開催し、診療科を横断して適切な治療を行える体制を築いております。
大腸がんの再発率は、ステージによって異なります。ステージIは約6%、ステージIIは約13%、ステージIIIは約30%で再発が起こります。
また、大腸がんの中でも直腸がんの場合、それ以外のがんよりも若干再発率が高くなります。
再発の約80%は手術後3年以内に、95%は手術後5年以内に起こります。当院ではこちらを念頭に置いて、術後のサポートを行っております。
再発の95%が手術後5年以内に起こることから、5年間の定期的検査が目安となります。日本の大腸癌研究会が定期的検査の方法の指針を出しており、それにしたがって行われます。
当院では、血液検査は3か月ごと、CT検査は半年ごと、大腸の検査は1〜2年ごとに行うことをベースにしています。
当院が手術後に退院してよいと考えている状態は、自宅でずっと寝ていなくてはいけない状態ではありません。退院後、ある程度はご自分のことが自分でできる、自立して生活ができる状態というのを、1つの目安としています。そのため、退院してすぐに患者さんが元の生活に戻れるよう、サポート体制を構築しています。
大腸がんの手術後には、食事の摂り方に留意が必要です。こちらについては、看護師や栄養士がサポートしています。また、手術の傷への心配、就労の心配については、医師の診察のほかに、看護師による看護相談も行っています。大腸がんでは人工肛門(ストマ)が必要となることもありますが、その際にも看護師が外来での管理、相談を行っています。
さらに患者さんだけではなく、患者さんのご家族も含めた精神的なサポートについても、精神腫瘍科と連携して行っています。手術直後だけではなく、治療の過程や再発時の精神面でのケアなどにも対応していますので、安心して手術前の生活に戻ってください。
今や日本人の2人に1人ががんにかかるとはいえ、大腸がんの手術などで入院して治療を行うことは、患者さんご本人はもちろんのこと、そのご家族にとっても重大事です。
当院は、入院から手術、そして退院後まで、身体的にも精神的にも、患者さんとご家族が安心して無事にご自宅に帰っていただけるような治療を行いたいと思っています。医療スタッフと一緒に、がんに立ち向かっていきましょう。
埼玉県立がんセンター 消化器外科 副部長
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