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インタビュー

肝門部胆管がんの治療−手術と抗がん剤について

肝門部胆管がんの治療−手術と抗がん剤について
梛野 正人 先生

名古屋大学 大学院医学系研究科腫瘍外科学 教授

梛野 正人 先生

この記事の最終更新は2017年02月02日です。

消化器がんの中で、もっとも手術が難しいとされる「肝門部胆管がん」。がんの発生箇所や術後の合併症など、その理由はいくつかあります。

高度な技術を求められる肝門部胆管がんの手術や、補助的に行う抗がん剤治療などについて、胆管がん手術の最前線で活躍する名古屋大学大学院腫瘍外科学の梛野正人教授にお話を伺いました。

やはり治療の基本は、外科手術でがんを切除することです。特に肝門部胆管がんについては、手術が治癒を期待できる唯一の治療法です。また、肝門部胆管がんには定型の術式というものがなく、がんの進行具合により、できる限り根治を目指して治療方法を選択する必要があります。

できるだけ手術でがんを切除し転移や再発を防ぐことが第一ですから、当院では日々研究を重ね、現場では積極的に手術を行っています。

肝門部胆管がんの手術の難しさは、がんの発生場所に大きく起因しています。(参考:記事1『肝門部胆管がんとは−症状・検査・治療について』)基本的にがんの手術では、なるべく癌に近づかないように正常な部分で包み込むように切除することが重要です。そのため、肝門部胆管がんの場合には肝臓のなるべく奥の方で胆管を切って、そこに腸をつなぐ必要があり、手術が難しくなります。

 

肝臓周辺の図

胆管が肝臓から出ていく部分を「肝門部」といい、門脈や肝動脈などの太い血管が通っています。血管を傷つけずに手術するには高度な技術が必要であり、さらに血管にがんが浸潤していた場合には、血管を切ってつなぐ非常に難しい手術(血管再建)となります。

胆管は膵臓(すいぞう)や十二指腸にもつながっているため、がんの進行具合によっては、そういった臓器まで切除しなくてはなりません。すると手術時間は12〜15時間とかなり長くなります。

手術自体が成功しても、術後に合併症を引き起こす可能性があります。肝門部胆管がんの術後に多い合併症は肝不全で、他にもお腹の中にがたまったり、傷が膿んだりする「感染性合併症」なども考えられます。これらが、肝門部胆管がんの手術が高難易度と言われるゆえんです。

肝不全とは手術で肝切除を行った場合に、残った肝臓の量が少なかったり、肝機能が低下したりすることで肝臓の機能維持が困難になる病気です。黄疸や腹水(お腹に水がたまる)、意識障害などの症状が現れ、肝門部胆管がんの手術後に亡くなる原因の1つとなっています。肝不全を防ぐために、当院では門脈塞栓術(もんみゃくそくせんじゅつ)を1990年から臨床応用してきました。

門脈塞栓術とは、手術の2〜3週間前に切除する肝臓部分につながる門脈(消化管で吸収した栄養分を肝臓に運ぶ静脈)の血流を止め、術後に残す肝臓を大きく(肥大再生)しておく方法です。そうすることで術後の肝機能低下や肝不全を防ぐことができます。門脈塞栓術が実用されるようになったことで、2001年以降の術後肝不全が激減するとともに、在院死亡(手術後、退院できずに死亡すること)の数も減少しています。

ステージ分類は絶対的なものではなく、最新の臨床研究に基づき数年毎に更新されるものです。患者さんごとにケースも異なりますから、一概にステージだけで手術の可否は問えません。

当院へ肝門部胆管がんで来院される患者さんの多くは他院で切除不能と診断されていますが、全症例の約75%を切除しています。症例が少ない疾患であること、高難易度の手術であることから、手術不可能と診断する病院が今でも少なくはありません。そんな時には、肝門部胆管がんを専門とする病院にセカンドオピニオンを求めるとよいでしょう。


ステージと治療法

切除可能な肝門部胆管がんの場合、胆道ドレナージ(参考:記事1『肝門部胆管がんとは−症状・検査・治療について』)の後に門脈塞栓術を行い、基本的にはがんの発生している胆管と肝臓の一部を切除します。さらに、がんが血管や膵臓、十二指腸にまで達している場合にはその部分も切除を試みます。

(1)切除できる肝門部胆管がんの場合

胆道ドレナージ→門脈塞栓術→胆管切除+肝切除

(2)肝門部胆管がんが血管に浸潤している場合

上記(1)+門脈や肝動脈の合併切除、再建

(3)さらに下部の臓器(膵内胆管)にまで進展している場合

上記(2)+膵頭十二指腸切除

外科手術が基本ではありますが、手術前に抗がん剤投与によりがんを小さくするという方法(術前化学療法と言います)をとることもあります。ただし抗がん剤治療は必ず効果が出るというものではなく、奏効率(その治療によってがん細胞が縮小、もしくは消滅する割合)は3〜4割ほどです。

がん剤などの化学療法はあくまで補助的な治療であるとお伝えしましたが、もう1つ大切なことがあります。抗がん剤が「効く」という表現をする時、それは何を意味していると思われるでしょうか。私のもとに訪れる患者さんの多くは、「効くということはこの抗がん剤を投与すれば、がんが治る」と誤解されています。

“効く”ということは“治る”ということではなく、“平均して余命が数か月程度延びる”ということにすぎません。このことを患者さんにグラフを見せながら説明すると、患者さんはとても驚かれます。そのくらい抗がん剤における「効く」という表現は間違って認識されているのが現状です。

そして、抗がん剤治療に伴う「副作用」と「費用」も忘れてはなりません。もちろん「できるだけ長生きしたい」という気持ちは、ご本人やご家族に必ずあります。しかし莫大な費用によるご家族への負担と、患者さん本人に苦痛の大きい副作用があるとするならば、それは慎重に考えるべきことのはずです。

抗がん剤にはさまざまな種類がありますが、中には広告などによって社会に認知されたものもあります。広告には「この抗がん剤は効きます」と書かれていても、その副作用や費用について詳しく説明されていないことが多く、一面的な情報になりがちです。

もちろん効果の高い抗がん剤も存在しますし、がんの種類や進行状態によっては化学療法が有効な場合もあります。大切なのは、がんについて知ること、そして治療に必要な情報を多面的に得ることです。その疾患について専門的な知識と経験を持つ医師とよく相談し、不安があればセカンドオピニオンを受け、よく考えて決断をしましょう。その上で、我々医師はできる限りの方法で、患者さんの命を救いたいと考えています。

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