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インタビュー

肝移植や放射線治療が適応となる場合とは

肝移植や放射線治療が適応となる場合とは
板野 理 先生

国際医療福祉大学 教授

板野 理 先生

この記事の最終更新は2015年12月09日です。

ラジオ波焼灼・エタノール注入・凍結療法など肝臓がんには、さまざまな治療法があります。このほかにも肝移植や放射線治療、切除などがあります。これらの治療法について、慶應義塾大学医学部外科学教室(一般・消化器) 専任講師の板野理先生にお話をうかがいました。

欧米のガイドラインと日本のガイドラインでは、肝細胞がんの治療がまったく違います。欧米では肝硬変の肝臓はあまり切除をしません。まずひとつには、小さな範囲の複雑な切除という文化がないということがあります。そしてその後の合併症に対応できない、つまり術後長期にわたって合併症で入院するのが難しいという背景があります。したがって、本当に肝機能がよい人であれば切除しますが、次の段階からは基本的に移植になります。脳死移植のドナー数がある程度いますので、肝炎も一緒に治してしまうという意味でも移植が行われます。

移植の場合は免疫抑制剤を使うため、ステージが上がると再発の問題で移植はできません。しかしそうでなければ肝切除よりも移植のほうが根本から治せるというのが、欧米の治療戦略になっています。

肝切除 > 移植 > カテーテル治療 > 緩和という順序になります。

日本の場合、移植はごく限られた人しか受けられませんので、非常に制限が多くなります。肝機能が悪く、かつ腫瘍自体が免疫抑制剤を使っても再発しない「ミラノ基準」に収まっている必要があります。したがって、日本では肝細胞がんだけの治療のためという理由で移植を行なうのは現実的ではありません。

放射線治療は効く人には非常によく効きますが、主に以下のような理由で肝切除の適応にならない場合に行います。

  • 切除してもまた再発してくることが確実視される
  • 切除が難しいほど肝機能が悪い
  • 腫瘍の場所が悪いため、切除してしまうと肝臓の大きさを十分残せない

ただ単に放射線を当てるのではなく、局所に集中させる定位放射線治療という方法をとります。またガンマナイフ・重粒子線・陽子線などもありますが、これらも局所治療ですので、できるだけ周囲の組織に放射線が当たらないようにすることで治療効果を高めることができます。

ちなみに、肝細胞がんに関しては術後の放射線照射は行いません。肝細胞がんの転移の9割は肝内転移ですが、血流に乗って門脈経由で拡がるといわれています。したがって断端(だんたん・手術で切除した際の切り口や辺縁部のこと)の取り残しが問題になることはあまりありません。腫瘍によりますが、多くのものは被膜があり境目がはっきりしているため、境界ギリギリのところで切除しても、断端での取り残しから再発するということが比較的少ないのです。この点が腺がんとの大きな違いです。腺がんの場合は腫瘍の周囲にある程度マージン(腫瘍の周囲を取り巻く、正常に見える部分)を取って大きめに切除しておかないと、断端に残ったがん細胞からの再発がありえます。肝細胞がんの場合は周囲の被膜が露出するような取り方をしても、そういう再発の仕方はあまりしません。

ただし、血流に乗って転移している腫瘍は、元の腫瘍の周囲1cmぐらいのところに多いので、それをきちんと取るために系統的切除を行います。系統的切除というのは門脈の血流に沿って、枝の根元のところを切って扇状に取ることをいいます。このやり方が局所再発率を下げるといわれています。たとえば膵がんや胆管がん、あるいは直腸がんの進行がんなど、残さなければならない周りの臓器とぎりぎりのところで接触していて、剥離面に腫瘍が露出していると危険な場合には、術後の放射線照射が有効です。しかし肝細胞がんの場合は、断端からではなく経門脈的な転移であるということと、その後で新しい腫瘍ができるという形での再発がありますので、局所治療に固執しすぎても生命予後を延ばさないという側面があります。

このことには悪い面もあり、肝機能が悪いからということで手心を加え、ここまでにしておこうという中途半端な治療が許容されてしまうところがあります。その手加減の仕方について明確な取り決め、基準が定められていないため、場合によっては切除できるものを切除しないということがあり得るのです。

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