肝臓の機能が低下したときに行われる肝移植。肝移植とは、正常にはたらかなくなった肝臓を取り出し、健康な肝臓を移植する治療です。このうち、生きているドナー(臓器提供者)から肝臓の提供を受けるものを生体肝移植といいます。生体肝移植では、どのように治療が進められるのでしょうか。また、治療後に患者さんが気を付けるべきことはあるのでしょうか。
今回は、長年肝移植に携わっていらっしゃる国立国際医療研究センター 理事長の國土 典宏先生に、肝移植の治療の進め方と経過、治療後の注意点についてお話をお伺いしました。
生体肝移植の実施が決定すると、移植を受ける患者さんには入院して移植手術の準備をしていただきます。移植前の入院期間は、かかっている病気や合併症など患者さんの状態によってさまざまです。たとえば、劇症肝炎や末期肝硬変の場合にはなるべく早く移植を行わなければならないケースがあり、入院期間は短期間となることが多いでしょう。
また、移植前に数回にわたって入院し、移植前に必要な治療を受けていただくこともあります。たとえば、食道静脈瘤を合併している患者さんであれば、移植後の出血を防ぐための治療を行うことがあります。
生体肝移植の手術時間は8~10時間程です。ただし、患者さんの状態によって差があり、手術時間がもう少し長くなることも短くなることもあります。肝臓の切除など移植前に何らかの手術の経験のある方は、腸管の癒着や出血のために手術が長時間に及ぶことがあります。
患者さんの病気や全身状態によって異なりますが、術後の入院期間は1〜2か月程度です。入院中は拒絶反応*を抑えるための免疫抑制剤による治療やリハビリテーションを行います。
移植前の状態がよい方だと回復も早くなる傾向があります。逆に移植前に寝たきりのような状態であったり合併症があったりするような方は、移植後のリハビリに時間がかかるため入院期間も長くなることが多いでしょう。
なお、退院後も免疫抑制剤の服用は生涯にわたり継続する必要があります。
*拒絶反応:他人の臓器が体内に入ることで、その臓器を攻撃し排除しようとする免疫系の反応。
生体肝移植後には、さまざまな合併症が起こる可能性があります。たとえば移植早期には、出血したり、つなぎ合わせた血管に血栓(血の塊)を生じたりすることがあります。特に重症化しやすいのは、血栓によって肝動脈が詰まるケースです。肝動脈が詰まると再度肝動脈をつなぎ直す手術を行うことがあります。
また、拒絶反応が生じたときには、ステロイドという薬を大量投与するステロイドパルス療法による治療を行ったり、より効果の期待できる免疫抑制剤を用いたりします。ただし、免疫抑制剤を使用すると免疫力が低下するために感染しやすくなり、細菌や真菌感染などが起こることもあります。
移植手術後に再移植となるケースもあります。たとえば、拒絶反応によって肝機能が低下するケースです。ステロイドパルス療法や免疫抑制剤によっても改善しなければ、最終的に移植した肝臓の機能が低下してしまうため再移植を行うことがあります。
また、病気が再発した場合にも再移植となることがあります。たとえば、移植後にC型肝炎が再発したために再移植を行うケースがあります。
生体肝移植を受けた患者さんには、ドナーから提供された肝臓を大切に使っていただきたいと思います。まずは、免疫抑制剤の服用をしっかりと続けましょう。免疫抑制剤を使用しているとどうしても感染に弱くなってしまうので、生ものには注意し、できる限り加熱したものを食べていただくとよいでしょう。また、アルコールの過剰摂取で肝硬変になったような方は、移植後は終生断酒に努めていただきたいと思います。
患者さんの状態にもよりますが、移植後には仕事をしたり、旅行やスポーツをしていただいたりしても問題ないケースが多いです。
退院後は、状態が安定しても、受診を継続していただく必要があります。受診時の診察では、免疫抑制剤の服用をきちんと続けているか、合併症が起こっていないか、肝機能に問題はないかなどを確認していきます。
ドナーにも定期的な診察や検査を継続していただくのが望ましいと考えていますが、転居される方もいらっしゃり現状では難しくなっています(2020年7月時点)。現在の日本には移植後のドナーのきちんとしたデータベースが構築されていません。今後は、移植後もドナーの皆さんの状態をきちんと管理することができるよう、データベースの構築も検討する必要があると考えています。
患者さんやご家族には、肝移植という選択肢があることを知っていただきたいと思います。肝移植が適応になるか知りたい場合には、主治医の先生に肝移植の可能性があるか質問してみてください。そこできちんとした回答を得られないような場合には、肝移植の知識や経験を持つ医師へのセカンドオピニオンの受診をおすすめします。
日本では臓器移植を受けた方やドナーが表に出ない傾向があるように思います。世界に目を向けると、脳死ドナーに対して国王が感謝状を出すような国もあります。このようなドナーをリスペクトする文化がわが国に根付くようなシステムを構築することも、今後は考えていかなければなりません。
また、医療従事者には臓器移植に関心を持ち、正しい知識を身につけていただきたいと考えています。
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 理事長、東京大学 名誉教授
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 理事長、東京大学 名誉教授
日本外科学会 外科認定医・外科専門医・指導医日本消化器外科学会 消化器外科認定医・消化器外科専門医・消化器外科指導医・消化器がん外科治療認定医日本肝胆膵外科学会 肝胆膵外科高度技能指導医日本消化器病学会 消化器病専門医・消化器病指導医日本肝臓学会 肝臓専門医日本胆道学会 認定指導医日本移植学会 移植認定医
肝がん、膵がん、胆道がんの外科治療と肝移植に長年取り組む。その手技を学ぼうと海外から手術の見学に訪れる外科医もいる。肝癌診療ガイドラインの第三、四版の改訂委員長、原発性肝癌取扱い規約委員長を務め、日本外科学会理事長・会頭、アジア・太平洋肝胆膵学会会長を歴任。
國土 典宏 先生の所属医療機関
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