膵臓がん(=膵がん)は早期発見が難しく、治りにくいがんとして知られています。そもそも膵臓とは私たちのからだの中で、どんな役割を担う臓器なのでしょうか。膵臓とはどんな臓器なのかについて、加えて膵臓にできるがんの種類、特徴などについて、膵・胆道領域における外科手術のトップランナーである東京歯科大学市川総合病院副院長の松井淳一先生にお話をうかがいました。
膵臓(すいぞう)は、胃の後ろに横たわっている長さ15センチ、重さ60~100gほどの臓器で、十二指腸に取り巻かれている膵頭部から左に向かって伸びて膵尾部は脾臓(ひぞう)に達しています。膵液(すいえき)という強力な消化液を分泌する外分泌機能と、インスリンなどのホルモンを分泌する内分泌機能を持っています。
膵液は、タンパク質、脂肪、炭水化物(糖質)を消化する酵素を含んでいて、一日に約800-1000mlも作られて、膵管を通ってファーター乳頭から十二指腸内へ送られます。また、膵臓内に散在しているランゲルハンス島の中のβ細胞からはインスリンが、α細胞からはグルカゴンが分泌されます。インスリンは、血糖値を低下させる作用を持ち、グルカゴンはインスリンと対立する作用を持ち血糖値を上昇させます。血糖値を上昇させる作用を持つホルモンはその他にもありますが、血糖値を低下させられるホルモンはインスリンだけです。グルカゴンなどの血糖上昇させるホルモンとインスリンの働きによって血糖値が一定に調節されます。
膵臓がんは50~70歳、特に高齢の男性に多いがんです。わが国では膵臓がんの死亡数は肺がん、胃がん、大腸がんに次いで第4位で、毎年3万人以上が亡くなっています。膵臓がんにはいくつかの種類がありますが、前述の外分泌と内分泌に分けると、外分泌系のがんが95%とほとんどを占めていて、内分泌系のがんの割合は非常に少ないです。外分泌系のがんの中でも、膵液が流れる膵管の上皮から発生する浸潤(しんじゅん)性膵管がんが最も多く、全体の85%以上にのぼります。
健康診断などで膵臓に嚢胞(のうほう)が見つかったという方は少なくないでしょう。嚢胞とは組織の中で液体が貯まった袋状のもので、膵臓の中に嚢胞ができる病気を総称して膵嚢胞性腫瘍、あるいは膵嚢胞性疾患と言います。
膵臓に嚢胞があるからといって、ただちに治療が必要な場合は少ないのですが、嚢胞の大きさや性質によっては膵臓がんの一種として治療の対象となるものがあります。膵嚢胞性疾患の中で、従来、粘液産生性膵腫瘍と呼ばれていた袋の中に粘液が貯まるタイプのものが、現在では、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と粘液性嚢胞腫瘍(MCN)に区別されるようになっています。このIPMNもMCNも良性のものがほとんどですが、がんのこともありますし、経過とともにがんに変わっていくものもあります。
こういった膵嚢胞性腫瘍、あるいは膵嚢胞性疾患では、膵臓がんのリスク因子と考えられる場合には、定期的にしっかりと診ていく必要があります。
膵臓以外の臓器に発生する上皮内がんは、その下に粘膜下層や筋層などの組織があり、徐々に浸潤(拡がっていくこと)しますが、膵管にはその部分がないため早いうちから膵臓に拡がり、さらに周囲組織に浸潤して行きやすくなります。また、前述したように膵臓が胃の裏側の奥にあるという位置関係のために検査するのがなかなか困難になります。また、初期には症状のないことがほとんどで、症状があったとしても腹部の異和感や食欲不振、体重減少といった、他の病気でも起こるようなもので膵臓特有のものではありません。このため、症状に気づいたときにはかなり進行していることが多いがんでもあります。これらの理由により、膵臓がんは早期発見が難しいと言えます。
しかし一方で、前項で述べた膵嚢胞性腫瘍については、無症状のうちに発見できる場合もあり、早期発見、早期治療のできる可能性が高いがんであると言えます。
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