膵臓がんは、ほかの臓器に転移する可能性が高かったり、転移すると根治しづらかったりするなどの特徴があるため、“不治の病”と恐れられてきました。その膵臓がんを根治させるためには、手術に加えて、化学療法や放射線治療などを組み合わせて行う“集学的治療”が有効であると富山大学 学術研究部医学系 消化器・腫瘍・総合外科 教授の藤井 努先生はおっしゃいます。
今回は、膵臓がん治療における手術の位置づけと、集学的治療の有用性について藤井 努先生にお話を伺いました。
膵臓は、胃や肝臓などの主要な臓器や、太くて重要な血管に囲まれています。そのため、膵臓がんは、ほかの臓器に転移しやすいという特徴があります。また、膵臓がんの手術は難易度が高いため、手術中に何らかの合併症が起こったり、手術をしてもがんが再発するリスクが高くなったりする特徴もあります。
これらの特徴から、膵臓がんは“不治の病”と恐れられてきました。実際に、膵臓がんの生存率はほかのがんに比べて低い数字となっています。
私は外科医として20年近く、膵臓がんの治療に携わり研究をしてきました。その中で私が見いだしたのは“膵臓がんは、手術だけでは根治が難しい”ということです。これはいくら技術の高い医師が手術をしても同じであると考えています。
なぜなら、先にも少し触れたように、膵臓がんは再発率が非常に高いがんであり、たとえ手術で全てのがんを摘出することができても、再発してしまうことがしばしばあるからです。つまり、手術の成功ががんの根治に結びつかないことが多いといえます。
手術成績の向上を試みるだけでは、膵臓がんの生存率の向上が期待できないことが分かってきたことから、2011年に“術前治療”という試みを導入しました。術前治療とは、手術前に抗がん剤による化学治療や放射線治療で、がんをしっかり弱らせてから手術に臨む治療方法です。手術といった1つの手段だけでなく、薬物療法、放射線治療などのさまざまな治療法を組み合わせ、医師がチームを組んで協力して治療を行うことを“集学的治療”といいます。
術前治療は、手術後のがんの再発率を下げることができるといわれ、膵臓以外のがん治療にも用いられてきました。そして近年、この術前治療が、膵臓がん治療において非常に有効であるということが分かってきました。
私は2011年から術前治療を本格的に行い始めましたが、手術一辺倒の膵臓がん治療よりも、術前治療をしっかりと行ってから手術を行う膵臓がん治療のほうが、より効果的というデータが出ています(下図参照)。
以前は、手術が可能と思われた膵臓がんの場合、すぐに手術を行うのが一般的でした。しかし最新の研究では、たとえ手術が可能と思われた膵臓がんであっても、“必ず”術前化学療法を行うべきという結果となっています。
さらに、血管にがんが浸潤していたり、がんの範囲が大きかったりすると“切除可能境界”と分類されます。この場合ももちろん、手術前に化学療法や放射線療法を行ったほうが術後のがんの経過が明らかによくなります。そのため、検査の結果“切除可能境界”と診断された患者さんにはデータをお見せし、手術を急ぐのではなく、まずしっかりと術前治療を行ってから手術に臨むことをすすめています。
集学的治療には、がんの再発を防ぐために術後に化学療法などを行う“術後治療”も含まれます。この術後治療は、患者さんの体力が著しく低下していると実施できないことがあるため、手術による患者さんの身体的ダメージを最小限に抑える必要があります。
しかし、膵臓がんの手術は、大腸や胃などほかのがん手術と比べても、患者さんの体への負担がとても大きく、どの病院でも行うことができる手術ではありません。その理由として、手術に伴い、重い合併症を起こしやすいことが挙げられます。合併症には膵液の漏出、胃内容排泄遅延、胆管炎、腹腔内出血などがあります。また、慢性的な下痢や便秘、体重減少といった、吸収障害などの合併症を伴う可能性もあります。
また、膵臓がんの手術は外科医が切除範囲を広く取りすぎると、患者さんの体力が極端に衰えてしまいます。すると、術後の化学治療を行うことができず、場合によってはがんがすぐに再発し、亡くなってしまうこともあるのです。
ですから、手術を行う際は、“がんをしっかり切除すること”、“患者さんの体を守ること”の2つのバランスを重視しなければなりません。手術時の合併症を防ぎ、患者さんの体力を残して、術後治療へスムーズに移行させることは、非常に重要であるといえるでしょう。
膵臓がんは、確かに根治が難しい病気です。しかし次々と新しい抗がん剤が開発され、新しい治療方法も出てきています。難しい手術を含めたすべての診断・治療は、膵臓がん治療に慣れた医師がいる専門の病院を受診することをおすすめします。最初に受診した病院とは違う、新しい意見を教えてくれるかもしれませんので、決して諦めないで治療を頑張りましょう。
富山大学 学術研究部医学系 消化器・腫瘍・総合外科 教授
富山大学 学術研究部医学系 消化器・腫瘍・総合外科 教授
日本外科学会 外科専門医・指導医・代議員日本消化器外科学会 理事・評議員・消化器外科指導医・消化器外科専門医・消化器がん外科治療認定医・広報委員会 委員長日本肝胆膵外科学会 理事・評議員・肝胆膵外科高度技能専門医・高度技能専門医書類審査委員会 委員長・技術認定委員会 副委員長(膵臓)日本消化器病学会 学会評議員・消化器病専門医・指導医・北陸支部 評議員・北陸支部 幹事日本膵臓学会 監事・認定指導医・評議員・膵癌取扱い規約検討委員会 委員長・膵癌診療ガイドライン改訂委員会・膵疾患臨床研究推進委員・膵疾患臨床研究推進委員会 副委員長・財務委員十二指腸癌診療ガイドライン作成委員会 会員日本腹膜播種研究会 腹膜播種診療ガイドライン策定委員会 委員日本胆道学会 認定指導医日本肝臓学会 肝臓専門医・指導医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本癌治療学会 代議員日本臨床外科学会 評議員・富山県支部 支部長International Association of Surgeons, Gastroenterologists and Oncologists Member日本内視鏡外科学会 会員日本外科系連合学会 会員日本胃癌学会 会員American Society of Clinical Oncology(ASCO) 会員American College of Surgeons FellowAmerican Association for Cancer Research (AACR) 会員European Society for Medical Oncology(ESMO) 会員International Association of Pancreatology(IAP) 会員International Hepato-Pancreato-Biliary Association(IHPBA) 会員Asian-Pacific Hepato-Pancreato-Biliary Association(A-PHPBA) 会員
「従来の慣習にとらわれず、あらゆることに挑戦する」というポリシーのもと、膵臓がん治療を「合併症の少ない手術」「化学治療・放射線治療を有効活用した集学的治療」という側面から向上させることに尽力している。
藤井 努 先生の所属医療機関
関連の医療相談が23件あります
手術後の合併症
私の父親なのですが、今月の頭に すい臓がんの手術をしました。 術後、合併症が出なければと早く退院できますよ。と言われていた矢先に液もれを、おこし合併症が出たのでと自宅に電話が来たそうです。 ご飯を食べると、液がもれるようで、現在、点滴と水、お茶しか口に出来ずに、検査づくしの毎日を過ごしている様子。 少し食べたりしている時もあるようですが、液が出たりでなかったりで、いつ治るのかと父も不安のようです。 病室にも入れませんので、本人の様子はメールでしかわからず、母もずーっとモヤモヤ状態。 術後、2週間ぐらい経ちましたが、いつになったらご飯が食べられるようになって、退院の目処がたつのでしょうか? よろしくお願い致します。
膵臓癌の再発による肝不全に伴う腹水への対応について
妻は、昨年の5月初旬にステージ1の膵臓癌が見つかり、6月に標準的外科療法として手術をしました。その後、9月末に退院し、自宅療養をしていましたが、昨年12月に腹水が溜まりはじめ、三月初旬にCT検査をし、膵臓癌が昨年12月頃に再発したことが分かりました。一度は、三月初旬に腹水を三リットル抜いて、それから蛋白質等だけ体内に戻しました。今も腹水が溜まり続けていますが、どのタイミングで再度、腹水を抜いたら良いでしょうか。または、腹水は抜かない方がいいのでしょうか。宜しくご教授下さい。
膵臓癌手術後の癌再発について
初めて相談します。私の妻は、昨年6月に膵臓癌の切除手術をしました。ステージ1でしたが、すぐには回復せず、血栓がてきたりし、血のめぐりが悪く、色々処置し9月末に退院しました。その後、12月頃から腹水が溜まり、肝不全と門脈が詰まっていたようで今月入院しCT検査の結果、膵臓癌が再発していました。担当医は、3ヶ月から1ヶ月の余命ではと言っていました。本当にそのよう余命なのでしょうか?また、セカンドオピニオンを考えた方がよろしいでしょうか?ご教授ください。宜しくお願い致します。
すい臓がんの肝臓への転移
今年の3月にすい臓がんと診断された父親についての2回目の相談になります。 抗がん剤治療を4ヶ月ほど続けていましたが、先週のCTにより肝臓への転移が見つかりました。主治医は治療方針がかわります。とおっしゃいました。今までは抗がん剤でガンを小さくしてから手術に持っていきたいとおっしゃっていたのですがそれが転移となるとできないと。その場合はどのような治療になるのでしょうか?単に延命のための治療になるということでしょうか?すい臓がん事態は2か月前と大きさに代わりはないのに転移するものなのでしょうか?肝臓への転移によって今後どのような症状があらわれるのでしょうか?4日前に胆汁を出すために入れたお腹のチューブが詰まったため緊急で入院し、その時のCT検査で転移がわかりました。今はまだ仮で鼻からのチューブで外に胆汁をだしているためそれが落ち着いたら詳しく治療方針を説明すると言われましたが、不安でご相談させて頂きました。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「膵臓がん」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。