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転移や手術後の合併症が多い膵臓がん——根治に向けた“集学的治療”の有用性

転移や手術後の合併症が多い膵臓がん——根治に向けた“集学的治療”の有用性
藤井 努 先生

富山大学 学術研究部医学系 消化器・腫瘍・総合外科 教授

藤井 努 先生

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膵臓(すいぞう)がんは、ほかの臓器に転移する可能性が高かったり、転移すると根治しづらかったりするなどの特徴があるため、“不治の病”と恐れられてきました。その膵臓がんを根治させるためには、手術に加えて、化学療法や放射線治療などを組み合わせて行う“集学的治療”が有効であると富山大学 学術研究部医学系 消化器・腫瘍・総合外科 教授の藤井(ふじい) (つとむ)先生はおっしゃいます。

今回は、膵臓がん治療における手術の位置づけと、集学的治療の有用性について藤井 努先生にお話を伺いました。

膵臓は、胃や肝臓などの主要な臓器や、太くて重要な血管に囲まれています。そのため、膵臓がんは、ほかの臓器に転移しやすいという特徴があります。また、膵臓がんの手術は難易度が高いため、手術中に何らかの合併症が起こったり、手術をしてもがんが再発するリスクが高くなったりする特徴もあります。

これらの特徴から、膵臓がんは“不治の病”と恐れられてきました。実際に、膵臓がんの生存率はほかのがんに比べて低い数字となっています。

公益財団法人 がん研究振興財団「がんの統計'17」全国がん(成人病)センター協議会加盟施設における5年生存率(2007~2009年診断例)より引用

 

私は外科医として20年近く、膵臓がんの治療に携わり研究をしてきました。その中で私が見いだしたのは“膵臓がんは、手術だけでは根治が難しい”ということです。これはいくら技術の高い医師が手術をしても同じであると考えています。

なぜなら、先にも少し触れたように、膵臓がんは再発率が非常に高いがんであり、たとえ手術で全てのがんを摘出することができても、再発してしまうことがしばしばあるからです。つまり、手術の成功ががんの根治に結びつかないことが多いといえます。

手術成績の向上を試みるだけでは、膵臓がんの生存率の向上が期待できないことが分かってきたことから、2011年に“術前治療”という試みを導入しました。術前治療とは、手術前に抗がん剤による化学治療や放射線治療で、がんをしっかり弱らせてから手術に臨む治療方法です。手術といった1つの手段だけでなく、薬物療法、放射線治療などのさまざまな治療法を組み合わせ、医師がチームを組んで協力して治療を行うことを“集学的治療”といいます。

術前治療は、手術後のがんの再発率を下げることができるといわれ、膵臓以外のがん治療にも用いられてきました。そして近年、この術前治療が、膵臓がん治療において非常に有効であるということが分かってきました。

私は2011年から術前治療を本格的に行い始めましたが、手術一辺倒の膵臓がん治療よりも、術前治療をしっかりと行ってから手術を行う膵臓がん治療のほうが、より効果的というデータが出ています(下図参照)。

提供:名古屋大学大学院医科学系研究科 消化器外科
 

以前は、手術が可能と思われた膵臓がんの場合、すぐに手術を行うのが一般的でした。しかし最新の研究では、たとえ手術が可能と思われた膵臓がんであっても、“必ず”術前化学療法を行うべきという結果となっています。

さらに、血管にがんが浸潤していたり、がんの範囲が大きかったりすると“切除可能境界”と分類されます。この場合ももちろん、手術前に化学療法や放射線療法を行ったほうが術後のがんの経過が明らかによくなります。そのため、検査の結果“切除可能境界”と診断された患者さんにはデータをお見せし、手術を急ぐのではなく、まずしっかりと術前治療を行ってから手術に臨むことをすすめています。

集学的治療には、がんの再発を防ぐために術後に化学療法などを行う“術後治療”も含まれます。この術後治療は、患者さんの体力が著しく低下していると実施できないことがあるため、手術による患者さんの身体的ダメージを最小限に抑える必要があります。

しかし、膵臓がんの手術は、大腸や胃などほかのがん手術と比べても、患者さんの体への負担がとても大きく、どの病院でも行うことができる手術ではありません。その理由として、手術に伴い、重い合併症を起こしやすいことが挙げられます。合併症には膵液の漏出、胃内容排泄遅延、胆管炎、腹腔内出血などがあります。また、慢性的な下痢や便秘、体重減少といった、吸収障害などの合併症を伴う可能性もあります。

また、膵臓がんの手術は外科医が切除範囲を広く取りすぎると、患者さんの体力が極端に衰えてしまいます。すると、術後の化学治療を行うことができず、場合によってはがんがすぐに再発し、亡くなってしまうこともあるのです。

ですから、手術を行う際は、“がんをしっかり切除すること”、“患者さんの体を守ること”の2つのバランスを重視しなければなりません。手術時の合併症を防ぎ、患者さんの体力を残して、術後治療へスムーズに移行させることは、非常に重要であるといえるでしょう。

膵臓がんは、確かに根治が難しい病気です。しかし次々と新しい抗がん剤が開発され、新しい治療方法も出てきています。難しい手術を含めたすべての診断・治療は、膵臓がん治療に慣れた医師がいる専門の病院を受診することをおすすめします。最初に受診した病院とは違う、新しい意見を教えてくれるかもしれませんので、決して諦めないで治療を頑張りましょう。

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    藤井 努 先生

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