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インタビュー

膵臓がん(膵体部がん)の手術治療-腹腔動脈合併尾側膵切除が抱える課題と今後の展望

膵臓がん(膵体部がん)の手術治療-腹腔動脈合併尾側膵切除が抱える課題と今後の展望
平野 聡 先生

北海道大学大学院医学研究科外科学講座 消化器外科学分野Ⅱ 教授、北海道大学病院 消化器外科Ⅱ 科長

平野 聡 先生

膵臓がんは、早期発見が難しいことに加え、進行も速いために治療が難しいがんの1つと言われています。それは、発見されたときには、病巣の切除ができない進行がんである場合が多いからです。

そんな膵臓がんの領域では、有効な手術方法が古くから模索されてきました。その1つに、膵体部がんにおける腹腔動脈合併尾側膵切除(DP-CAR)があります。これは、がんが腹腔動脈と呼ばれる重要な血管に浸潤(がんが拡がっていること)している場合に、腹腔動脈ごとがんを切除する方法です。

北海道大学病院の平野 聡先生は、外科医として長く膵臓がんの治療に携わっていらっしゃいます。今回は、この腹腔動脈合併尾側膵切除について、その課題と今後の展望を先生にお話いただきました。

膵臓がんは初期症状に乏しく、早期発見が難しいがんの1つです。そのため、発見されたときには、約8割が切除できない進行がんです。「切除ができない進行」とは、がんが周囲に過度に拡がっているか、他の臓器に転移していることを意味します。

そんな中でも頭部の膵臓がんの典型的な症状として認められるものに、黄疸(おうだん)があります。黄疸とは、血液中にビリルビンと呼ばれる色素が増加することで、皮膚や目が黄色くなる症状を言います。膵臓がんの中でも膵体部に発生するがんは、この黄疸が出ないため、特に発見が困難であると言われています。そのため、膵体部がんは発見されたときには大型で、周囲に拡がり、あるいは他の臓器に転移した状態である場合がほとんどです。

膵臓の構造

また、膵体部がんが進行すると、お腹や背中に痛みを感じる方がいらっしゃいます。このような患者さんは、動脈の神経に沿ってがんが進行していることが考えられます。膵臓から出ている神経から腹腔動脈や大動脈の周囲の神経にまでがんが広がってしまうと、痛みが生じるからです。

遠隔転移ではなく、がんが発生部位から周囲に広く拡がり(局所進行)腹腔動脈方向に延びている膵体部がんに対しては、近年、腹腔動脈合併尾側膵切除(DP-CAR)と呼ばれる手術が実施されています。腹腔動脈合併尾側膵切除とは、腹腔動脈とともに周囲の臓器や組織を最大限切除する手術法を指し、究極の局所療法と言われています。

膵臓がんは神経から動脈へと進行しやすいという特徴があるため、膵臓がんの患者さんの中には腹腔動脈やそれに続く肝動脈にまでがんが広がる方が多くいらっしゃいました。ですが、これらの動脈までがんが及んでいる場合、手術は適応されませんでした。そもそも、動脈を扱う手術には高い技術が必要となり、さらに腹腔動脈を切除すると本来の肝臓や胃に栄養を送る動脈も切除されてしまうからです。開発された腹腔動脈合併尾側膵切除は、肝臓や胃に生まれながらに備わっていて普段あまり使われていない別の動脈を使うように工夫することで、膵臓がんと同時に腹腔動脈を切除できるようにしたものです。

腹腔動脈合併尾側膵切除は、比較的危険な手術であると言われています。それは、重要な臓器に栄養を送る動脈を切除することに加え、切除範囲が広いため、手術時間が長く患者さんへの身体的な負担が大きくなるからです。そのため、輸血率も高く、術後の合併症が起こる確率が高いこともわかっています。したがって、どんな方にも有効な手術ではありません。

お話したように、腹腔動脈合併尾側膵切除の術後には、合併症が起こりやすいと言われています。具体的には、血管を切除しない膵臓の切除のみであれば20%ほどの合併症率ですが、腹腔動脈合併尾側膵切除では50%近くまで跳ね上がります。

例えば、腹腔動脈合併尾側膵切除の手術を受けた患者さんは、術後に胃の血流不足から粘膜が出血したり壊死(組織が死滅する)したりする虚血性胃症を発症してしまうことがあります。この虚血性胃症の治療には長い場合は数か月を要します。この間は抗がん剤による治療もできないため、患者さんの不利益になってしまいます。このように患者さんの生存率を低下させるような合併症を減らすことは、この手術の大きな課題です。

虚血性胃症の粘膜壊死
虚血性胃症の例。白い部分は粘膜が壊死をおこし、周囲の赤い部分は粘膜の出血を現している。(画像:平野 聡先生ご提供)

腔動脈合併尾側膵切除の合併症が患者さんの不利益になる可能性をお話しましたが、現在、合併症を軽減するために様々な工夫が研究されています。しかし、まだ全てが解消されたわけではありません、したがって、現時点では、この手術を本当に必要な患者さんにのみ適応する慎重な判断が必要となります。

手術前の患者さんのがんの進展の程度はCTスキャンなどの画像で判断するしかありません。しかし、現在の最新鋭の機器をもってしても、その診断は正確ではなく、術前に抗がん剤治療や放射線治療を受けているとさらに曖昧になります。そこで、本当に腹腔動脈近くまでがんが進行していて、合併切除が妥当かを見極める最も正確な方法は、手術中に直接、組織を採取して顕微鏡で診断する迅速病理診断です。つまり、手術中に慎重に少しずつ組織を病理診断しながら動脈の付近に操作を進め、動脈までがんが及んでいると考えられる場合にのみ腹腔動脈合併尾側膵切除を行います。これは、病理診断の助けを借りたナビゲーションサージェリーというもので、適切な手術法の選択が可能になる、現時点では最も確かな方法と言えるでしょう。

腹腔動脈合併尾側膵切除の術後には、抗がん剤による治療が有効であることがわかっています。それは、手術によってがんを切除しても、7~8割程度の患者さんには肝臓や腹膜への転移が認められるからです。このように、膵臓がんは手術をすれば治療が終わるわけではなく、術後にできるだけ早く化学療法を行うことが非常に重要となります。

お話してきたように、腹腔動脈合併尾側膵切除は、どんな方にも有効な手術ではありません。それどころか、避けることができるなら避けた方がいい手術であると私は考えています。それぐらい患者さんにとっては大きな負担を伴う手術だからです。術後の合併症で不利益を被る患者さんを減らすためにも、手術を適応する患者さんを慎重に選ぶことが重要となります。

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    平野 聡 先生

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