
膵臓がんは、早期発見が難しいことに加え、進行も速いために治療が難しいがんの1つと言われています。それは、発見されたときには、病巣の切除ができない進行がんである場合が多いからです。
そんな膵臓がんの領域では、有効な手術方法が古くから模索されてきました。その1つに、膵体部がんにおける腹腔動脈合併尾側膵切除(DP-CAR)があります。これは、がんが腹腔動脈と呼ばれる重要な血管に浸潤(がんが拡がっていること)している場合に、腹腔動脈ごとがんを切除する方法です。
北海道大学病院の平野 聡先生は、外科医として長く膵臓がんの治療に携わっていらっしゃいます。今回は、この腹腔動脈合併尾側膵切除について、その課題と今後の展望を先生にお話いただきました。
膵臓がんは初期症状に乏しく、早期発見が難しいがんの1つです。そのため、発見されたときには、約8割が切除できない進行がんです。「切除ができない進行」とは、がんが周囲に過度に拡がっているか、他の臓器に転移していることを意味します。
そんな中でも頭部の膵臓がんの典型的な症状として認められるものに、黄疸(おうだん)があります。黄疸とは、血液中にビリルビンと呼ばれる色素が増加することで、皮膚や目が黄色くなる症状を言います。膵臓がんの中でも膵体部に発生するがんは、この黄疸が出ないため、特に発見が困難であると言われています。そのため、膵体部がんは発見されたときには大型で、周囲に拡がり、あるいは他の臓器に転移した状態である場合がほとんどです。
また、膵体部がんが進行すると、お腹や背中に痛みを感じる方がいらっしゃいます。このような患者さんは、動脈の神経に沿ってがんが進行していることが考えられます。膵臓から出ている神経から腹腔動脈や大動脈の周囲の神経にまでがんが広がってしまうと、痛みが生じるからです。
遠隔転移ではなく、がんが発生部位から周囲に広く拡がり(局所進行)腹腔動脈方向に延びている膵体部がんに対しては、近年、腹腔動脈合併尾側膵切除(DP-CAR)と呼ばれる手術が実施されています。腹腔動脈合併尾側膵切除とは、腹腔動脈とともに周囲の臓器や組織を最大限切除する手術法を指し、究極の局所療法と言われています。
膵臓がんは神経から動脈へと進行しやすいという特徴があるため、膵臓がんの患者さんの中には腹腔動脈やそれに続く肝動脈にまでがんが広がる方が多くいらっしゃいました。ですが、これらの動脈までがんが及んでいる場合、手術は適応されませんでした。そもそも、動脈を扱う手術には高い技術が必要となり、さらに腹腔動脈を切除すると本来の肝臓や胃に栄養を送る動脈も切除されてしまうからです。開発された腹腔動脈合併尾側膵切除は、肝臓や胃に生まれながらに備わっていて普段あまり使われていない別の動脈を使うように工夫することで、膵臓がんと同時に腹腔動脈を切除できるようにしたものです。
腹腔動脈合併尾側膵切除は、比較的危険な手術であると言われています。それは、重要な臓器に栄養を送る動脈を切除することに加え、切除範囲が広いため、手術時間が長く患者さんへの身体的な負担が大きくなるからです。そのため、輸血率も高く、術後の合併症が起こる確率が高いこともわかっています。したがって、どんな方にも有効な手術ではありません。
お話したように、腹腔動脈合併尾側膵切除の術後には、合併症が起こりやすいと言われています。具体的には、血管を切除しない膵臓の切除のみであれば20%ほどの合併症率ですが、腹腔動脈合併尾側膵切除では50%近くまで跳ね上がります。
例えば、腹腔動脈合併尾側膵切除の手術を受けた患者さんは、術後に胃の血流不足から粘膜が出血したり壊死(組織が死滅する)したりする虚血性胃症を発症してしまうことがあります。この虚血性胃症の治療には長い場合は数か月を要します。この間は抗がん剤による治療もできないため、患者さんの不利益になってしまいます。このように患者さんの生存率を低下させるような合併症を減らすことは、この手術の大きな課題です。
腔動脈合併尾側膵切除の合併症が患者さんの不利益になる可能性をお話しましたが、現在、合併症を軽減するために様々な工夫が研究されています。しかし、まだ全てが解消されたわけではありません、したがって、現時点では、この手術を本当に必要な患者さんにのみ適応する慎重な判断が必要となります。
手術前の患者さんのがんの進展の程度はCTスキャンなどの画像で判断するしかありません。しかし、現在の最新鋭の機器をもってしても、その診断は正確ではなく、術前に抗がん剤治療や放射線治療を受けているとさらに曖昧になります。そこで、本当に腹腔動脈近くまでがんが進行していて、合併切除が妥当かを見極める最も正確な方法は、手術中に直接、組織を採取して顕微鏡で診断する迅速病理診断です。つまり、手術中に慎重に少しずつ組織を病理診断しながら動脈の付近に操作を進め、動脈までがんが及んでいると考えられる場合にのみ腹腔動脈合併尾側膵切除を行います。これは、病理診断の助けを借りたナビゲーションサージェリーというもので、適切な手術法の選択が可能になる、現時点では最も確かな方法と言えるでしょう。
腹腔動脈合併尾側膵切除の術後には、抗がん剤による治療が有効であることがわかっています。それは、手術によってがんを切除しても、7~8割程度の患者さんには肝臓や腹膜への転移が認められるからです。このように、膵臓がんは手術をすれば治療が終わるわけではなく、術後にできるだけ早く化学療法を行うことが非常に重要となります。
お話してきたように、腹腔動脈合併尾側膵切除は、どんな方にも有効な手術ではありません。それどころか、避けることができるなら避けた方がいい手術であると私は考えています。それぐらい患者さんにとっては大きな負担を伴う手術だからです。術後の合併症で不利益を被る患者さんを減らすためにも、手術を適応する患者さんを慎重に選ぶことが重要となります。
北海道大学大学院医学研究科外科学講座 消化器外科学分野Ⅱ 教授、北海道大学病院 消化器外科Ⅱ 科長
北海道大学大学院医学研究科外科学講座 消化器外科学分野Ⅱ 教授、北海道大学病院 消化器外科Ⅱ 科長
日本外科学会 外科専門医・指導医日本消化器外科学会 消化器外科専門医・消化器外科指導医・消化器がん外科治療認定医日本消化器病学会 消化器病専門医・消化器病指導医日本肝胆膵外科学会 肝胆膵外科高度技能指導医日本胆道学会 認定指導医 ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター
1988年北海道大学医学部卒業。外科医として複数の病院にて経験を積み、1998年には医学博士学位を取得。肝胆膵外科を専門分野とし、北海道大学病院で膵臓がんを担当する消化器外科IIの科長(教授)として、「患者は家族」をモットーに日々高度な手術治療を行っている。
平野 聡 先生の所属医療機関
周辺で膵臓がんの実績がある医師
東京医科大学病院 消化器内科 主任教授
内科、血液内科、リウマチ・膠原病内科、外科、心療内科、神経内科、脳神経外科、呼吸器内科、呼吸器外科、消化器内科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、小児外科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、矯正歯科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、循環器内科、糖尿病内科、代謝内科、内分泌内科
東京都新宿区西新宿6丁目7-1
東京メトロ丸ノ内線「西新宿」2番出口またはE5出口 徒歩1分、JR山手線「新宿」西口 その他JR複数線、小田急線小田原線、京王電鉄京王線、都営新宿線なども利用可能 徒歩10分
医療法人社団 藤﨑病院 理事長 院長
内科、血液内科、外科、脳神経外科、消化器外科、整形外科、皮膚科、泌尿器科、リハビリテーション科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、糖尿病内科、肝胆膵外科、肛門外科、放射線診断科
東京都江東区南砂1丁目25-11
都営新宿線「西大島」都営バス 門前仲町行き(都07)、葛西橋または葛西車庫行き(草28) 境川下車 徒歩3分 バス、JR中央・総武線「亀戸」都営バス 葛西駅行き(亀29)、門前仲町行き(都07)など 境川下車 徒歩3分 バス
東京医科大学八王子医療センター 消化器外科・移植外科
内科、血液内科、リウマチ科、外科、精神科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、放射線科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、腫瘍内科、感染症内科、消化器内科、糖尿病内科、内分泌内科、代謝内科、脳神経内科、老年内科、頭頸部外科、総合診療科、病理診断科
東京都八王子市館町1163
JR中央本線(東京~塩尻)「高尾」南口 京王バス 医療センター経由館ケ丘団地行き 医療センター下車 京王電鉄高尾線も利用可能 バス7分、JR横浜線「八王子みなみ野」無料シャトルバス運行 バス
独立行政法人国立病院機構 東京医療センター 一般・消化器外科 医長
国立病院機構 東京医療センターー低侵襲な医療を患者さんに提供することで地域医療に貢献する
区西南部医療圏の医療を支える東京医療センターによる、前立腺がん・子宮体がん・胃がん.大腸がん・慢性中耳炎.真珠腫性中耳炎の治療をテーマにした特集です。
内科、アレルギー科、血液内科、リウマチ科、外科、精神科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、緩和ケア内科、腫瘍内科、感染症内科、消化器内科、糖尿病内科、内分泌内科、膠原病内科、脳神経内科、放射線診断科、放射線治療科
東京都目黒区東が丘2丁目5-1
東急田園都市線「駒沢大学」 徒歩15分
JR東京総合病院 院長
内科、血液内科、リウマチ科、外科、精神科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、小児科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、緩和ケア内科、腫瘍内科、消化器内科、糖尿病内科、内分泌内科、膠原病内科、脳神経内科、血管外科、総合診療科
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都営大江戸線「新宿」A1出口 京王新線・都営新宿線も利用可 徒歩1分、JR山手線「新宿」南改札・甲州街道改札・新南改札 徒歩5分、JR山手線「代々木」北口 徒歩5分、小田急線「新宿」南口改札 徒歩5分
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