高齢者や何らかの併存疾患を抱えた患者さんは、術後に合併症が起こるリスクが高いことから「ハイリスク症例」と呼ばれます。ハイリスク症例の患者さんの中でも特に高齢者では、術後の回復において注意すべきポイントがいくつかあります。
今回は、大腸がんのハイリスク患者さんを多く受け入れる、沼津市立病院の第二外科部長である菅本祐司先生に、高齢者を中心とした術後の注意点などについてお話を伺います。
高齢者の場合、術後にベッド上での安静期間が長く続くと、「廃用症候群」を起こす恐れがあります。廃用症候群とは、長期間の安静状態が続くことで、運動・生活機能が著しく低下したり、精神状態に悪影響をもたらしたりすることです。
具体的には、誤嚥性肺炎などの呼吸器合併症や、せん妄などの精神障害が生じることがあります。また、ADL(Activities of daily living:日常生活動作)が大きく低下することによって、術後寝たきり状態となってしまう方もいらっしゃいます。
誤嚥性肺炎とは、食べ物や唾液などが誤って気道に入ってしまう(誤嚥する)ことで発症する肺炎です。発症原因としては、食べ物などを飲み込む機能が低下する「嚥下機能障害」が挙げられます。誤嚥性肺炎を発症すると、命を落とす危険性もあります。
誤嚥性肺炎を防ぐためには、術前から痰を出すための訓練を行ったり、術後は早期に飲水などを開始したりすることで、嚥下機能障害を防ぐことが重要です。
術後、長期間のベッド上での安静によって、せん妄などの精神障害を起こす高齢者は少なくありません。せん妄とは、時間や場所がわからない、睡眠リズムが崩れる、意味不明の言動をとる、思考力が低下するなどの精神症状が現れる状態を指します。
若年者であっても、全身麻酔から覚める際にせん妄が起こることはありますが、通常は数時間程度で治まります。しかし、高齢者の場合には、それが数日以上続くことが多くあります。せん妄状態が続くと、体に挿入されている重要なチューブやドレーンなどを抜いてしまったり、興奮状態になって暴れてしまったりする方もいらっしゃいます。
術後の廃用症候群を防ぎ、「病気は治ったが、寝たきりになった」という状態を回避するためには、早期離床のためのリハビリテーションが非常に重要です。
次章では、当院における大腸がんの腹腔鏡手術の術後リハビリテーションについてお話しします。
大腸がんの腹腔鏡手術の場合、基本的には翌日から飲水や歩行を開始します。当院では、作業療法士(OT)や理学療法士(PT)などのリハビリテーションを行うスタッフが介入し、術後早期からリハビリテーションを実施しています。
リハビリテーションは、ベッド上での起き上がりや立ち上がりの訓練から始まり、その後、病棟などで歩行訓練を行います。
ただし、高齢者の場合、もともとの運動機能に個人差が大きく、中には術前から歩くことがままならない方もいらっしゃいます。そのような患者さんに対しては、リハビリテーションを行うスタッフが患者さんの足を動かしたりするところから始めて、歩行が可能かどうかを見極めてから歩行訓練を開始します。
リハビリテーションというと体を動かす訓練を想像する方も多いかもしれませんが、それだけではありません。
手術を行うことで、先ほどお話ししたような嚥下機能障害がみられることがあります。これに対しては、誤嚥による肺炎などのリスクを回避するために、嚥下機能を改善させるためのリハビリテーションを行います。
このリハビリテーションには、耳鼻いんこう科が介入し、食べたり飲んだりするために必要な筋肉を動かすことなどにより、嚥下機能の改善を図ります。
リハビリテーションを成功させるために、もっとも重要なことは「意欲」であるといっても過言ではありません。
残念ながら、リハビリテーションに対して意欲がない患者さんは、手術で病気を治すことができても、自立して生活できるまでに身体機能を改善させることは困難です。そのような患者さんは、私たち医療者がどれだけリハビリテーションを促しても、なかなか積極的に取り組んではくれません。
高齢者のリハビリテーションの意欲を高めるためには、家族などの日頃身近にいる方のサポートが欠かせません。「頑張ってリハビリをして、元気に退院しよう!」といってくれる方が近くにいるだけで、リハビリテーションに対するモチベーションは大きく変わります。
このようなサポートによる意欲向上によって、術後の早期回復や生活レベルの改善が実現します。
また、リハビリテーションがなかなか進まない理由のひとつとして、「傷口が痛い」とおっしゃる方は多くいます。
そのため、リハビリテーションを円滑に行うためには、手術による傷をなるべく小さくすることは大切です。大腸がんの外科手術においては、腹腔鏡手術が主流となってきています。腹腔鏡手術には多くのメリットがありますが、術後の早期回復を促すことができる点は、高齢者にとって大きなメリットといえるでしょう。
腹腔鏡手術に関する詳細は、記事1『大腸がんの腹腔鏡手術とは?沼津市立病院の外科医が解説』をご覧ください。
大腸がん(直腸がん)の手術では、直腸と肛門を切除した場合に、人工的に便を体外へ排出させるための「人工肛門(以下、ストーマ)」の造設が必要となる場合があります。
そのため、ストーマの造設前と造設後には、「皮膚・排泄ケア認定看護師」がストーマのケアにあたります。
手術によってストーマになると分かっている患者さんに対しては、術前にストーマについて理解していただくためのビデオを見ていただいたり、模型を使って実際にストーマの使い方を覚えていただいたりします。
また、皮膚・排泄ケア認定看護師がストーマを造設する場所をあらかじめ決定します。患者さんごとの体型差によって、しわができやすい場所、患者さん自身の視覚に入らない場所などを避けて、ストーマ造設位置を決定します。
ストーマを造設したあとは、ストーマの洗浄方法やパウチ(排泄された便を受け止める袋)の交換方法などについて、指導を行います。患者さんやご家族が、退院後のストーマケアについて不安がなくなってからの退院となります。
退院後は、基本的には定期的な問診や視触診、採血検査、レントゲンなどの検査は近隣の開業医やクリニックで行っていただいています。当院には、数か月に1回の頻度で受診していただき、CT検査や内視鏡検査のような検査を受けていただきます。
通院によるストレスをできるだけ軽減するために、開業医やクリニックの先生方と密に連携を図り、患者さん1人に対して2人の主治医で診療を行うようにしています。
高齢者をはじめとした手術に対するリスクが高い患者さんに対しては、術後の合併症の予防、合併症が起きたときの対処、早期回復のためのリハビリテーションが欠かせません。
当院では、そのようなハイリスク症例の患者さんに対して、他診療科・他職種との連携を密にすることで、より安全性の高い手術を行うことを心がけています。
しかし、何よりも重要なことは、検診による大腸がんの早期発見だと考えています。大腸がんが早期発見できれば、外科手術ではなく体への負担が少ない内視鏡による治療を行うことができます。そして、外科手術によって起こるさまざまな合併症を回避することが可能です。
しかしながら、大腸がん検診率は低く、高齢者の検診率はさらに低い状況にあります。
「年だから検診を受ける必要はない」と思わずに、積極的に大腸がん検診を受けていただきたいと思います。
沼津市立病院 第二外科部長
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