従来、検査をするためのものであった内視鏡は徐々に発展し、治療のために用いることが可能になりました。胃がんも従来は開腹手術と言ってお腹を切る手術治療が主でしたが、内視鏡による治療が可能になるケースが増えてきました。また、胃がんの内視鏡治療は30年以上の歴史があり、内視鏡治療の対象となるがんも増えつつあります。
この記事では、内視鏡治療の対象になる胃がんや内視鏡治療の種類、また胃がんにおける内視鏡治療の合併症について東京大学医学部附属病院で光学医療診療部部長・准教授を務められている藤城光弘先生にお話をお聞きしました。
内視鏡による胃がんの手術は、患者さんの身体にかかる負担が少ない治療法として選択されるケースが増えてきました。ただし、どのような状態の胃がんに対しても適応するわけではありません。転移している可能性がきわめて低いと判断される早期の胃がんに対して選択されることがほとんどです。
胃がん学会のガイドラインでは、以下の条件を内視鏡手術の条件にしています。
「潰瘍を併発していない分化型の粘膜内がん」もしくは「潰瘍を併発していても分化型の粘膜内がんで3cm以下」がリンパ節転移がほとんどないとかんがえられ絶対的な内視鏡治療の対象となります。
胃がんに対する内視鏡治療には、35年以上の長い歴史があり、新たに開発されて平成18年4月から健康保険が適用になった「粘膜下層剥離術(ESD)」では上記の条件に沿わない胃がんも切除できるケースがあります。このように、内視鏡による治療対象は以前より広がっています。
具体的には、「病変を一括でとれる技術がある施設」の場合では、「未分化型の粘膜内がんでも2cm以下で潰瘍の併発がない」場合には、拡大適応として、「上記以外の早期胃がん」の場合には、相対的適応として、内視鏡治療が行われるようになってきました。
胃がんの内視鏡治療には、おもに、内視鏡的粘膜切除術(EMR)と内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の2種類があります。かつてはEMRが主体でしたが、今ではほとんど行われておらず、ESDがメインに行われています。
ループ状のワイヤー(スネアと呼びます)をかけて、ワイヤーをしぼり高周波電流を流してがんを焼き切ります。(イラストでは、生理食塩水をがんに注射して隆起させ、焼き切っています)
しかし、この内視鏡的粘膜切除術(EMR)には病変を一回で取れなかったり、小さながん組織の取り残しを起こしやすいという欠点がありました。そのため、この方法はもうほとんど胃がんに対しては行われなくなりました。
これに代わり、内視鏡の先から細かい電気メスを出して病変が起きている胃の粘膜をはがしていく「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」が開発されています。平成18年4月から健康保険が適用されるようになったこともあり、胃がんの内視鏡治療ではこちらが主流となってきています。ESDは、EMRでは切除が難しかった大きな病変や潰瘍の併発のある硬い病変に対しても治療が可能になっています。以下に詳しくご説明します。
様々な電気メスが開発されていますが、今回はITナイフ(insulation- tipped diathermic knife)を用いる方法をお示しします。ITナイフは、針状の電気メスの先端に2mmのセラミックの球を付けることによって、メスが筋層を突き抜けて胃に穴をあけてしまうミス(穿孔)を起こさないように工夫されています。
治療の手順ですが、まずがん周囲をマーキングし、どこを切るべきなのかを明確化します。その後で病変部を生理食塩水やグリセリンなどで浮かせて、穿孔しないように胃壁を厚くします。病変周囲の粘膜をITナイフで全周性に切開します。粘膜下層を直接観察しながら、少しずつIT ナイフで剥離して切除します。この方法には、大きい腫瘍や潰瘍瘢痕(胃潰瘍が治癒した痕跡)を伴う例などでも切除できるというメリットがあります。
胃がんの内視鏡治療のメリットとしては、患者さんの身体に与える負担が少ないことが挙げられます。開腹を行いませんので、術後に体に傷跡が残るといったことはありません。また手術時間も1時間前後で済むことが多く、術後の検査でがんを取り切れていることが確認できれば比較的短期間で退院できます。すなわち、患者さんの社会生活面でも負担が少ないというメリットがあるのです。また、麻酔も静脈麻酔(手術室を使う必要がない麻酔)のみで行なうことができます。ただし長時間を要するときには手術室を使って全身麻酔で行なうこともあります。
胃がんの内視鏡治療のデメリットは、難易度の高い方法であるため熟練した医師ではなければ治療が行えないということが第一に挙げられます。また、術前診断は不確かな部分があり、内視鏡治療後に改めて外科的な胃切除を受けて頂かなければならないケースがあります。実際の治療にあたっては、これらのメリットとデメリットについて主治医から説明がなされるはずですが、ご自分でもよく理解された上で治療に臨まれることが大事だといえます。
また、合併症としては胃の壁の穿孔(穴が開くこと)があります。実際にはもし穿孔が起きたとしても胃の場合は穿孔部分を内視鏡用のクリップで塞いでいくことがほとんどの場合において可能であり、緊急手術を避けられることがわかっています。そのため、胃の壁の穿孔は胃がんの内視鏡治療においてはあまり問題になることはありません。
もうひとつの合併症は術後出血です。術後出血は時に大きな問題となるため、これを減らす工夫はいくつか行われています。まずは胃がんをとり終わったあとの治療部位にある「露出血管」という出血の原因となりそうな血管は焼いてしまいます。また、組織欠損の部分に「PGAシート」というシートを貼ったり、縫い合わせたりすることも出血の予防になる可能性があります。さらに胃酸による組織障害も出血の原因となるため、治療後に酸分泌抑制薬を飲んで酸を抑える治療も行われます。
東京大学大学院医学系研究科 消化器内科学 教授、名古屋大学大学院医学系研究科 消化器内科学 客員教授
東京大学大学院医学系研究科 消化器内科学 教授、名古屋大学大学院医学系研究科 消化器内科学 客員教授
日本内科学会 総合内科専門医・内科指導医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・消化器内視鏡指導医日本消化器病学会 消化器病専門医・消化器病指導医日本消化管学会 胃腸科専門医
1970年生まれ。1995年、東京大学医学部を卒業後、東京大医学部附属病院研修医。1996年より、日立製作所日立総合病院研修医、国立がんセンター中央病院消化器内科レジデント等を経て2005年、東京大学医学部附属病院消化器内科助手(助教)。2009年、東京大学医学部附属病院光学医療診療部部長・准教授、2019年、名古屋大学大学院医学系研究科 消化器内科学 教授、2021年東京大学大学院医学系研究科 消化器内科学 教授、現職に至る。内視鏡機器や処置具の開発から携わることで患者の負担を減らし、かつ、早期発見・的確な診断、治療が行える方法の研究を続ける。
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