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インタビュー

胃がんの手術-外科治療における腹腔鏡手術の有用性と課題

胃がんの手術-外科治療における腹腔鏡手術の有用性と課題
熊谷 厚志 先生

北里大学医学部 上部消化管外科学 診療教授

熊谷 厚志 先生

目次
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この記事の最終更新は2016年02月27日です。

腹腔鏡手術という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。傷が小さくて済むため、患者さんの体の負担が小さいというメリットがあります。しかし、がん研有明病院 消化器センター 胃外科医長 熊谷厚志(くまがいこうし)先生は、「腹腔鏡手術が低侵襲であるといえるかどうかは、相手にするがんによって異なる」とおっしゃいます。本記事では、胃がん治療における腹腔鏡手術の有用性と課題についてお話しいただきます。

胃がんには次のような治療法があります。

  1. 外科治療
    • 開腹手術
    • 腹腔鏡手術
  2. 内視鏡治療
  3. 薬物治療

外科手術は、悪性腫瘍が発生している部分を切除する治療法です。手術の種類は、胃の切除範囲によっていくつかあります。

  • 胃全摘術:噴門(胃の入り口)と幽門(胃の出口)を含め、胃を全て切除する方法
  • 幽門側胃切除術(ゆうもんそくいせつじょ):胃の下側(幽門側)を3分の2程度切除する方法
  • 幽門保存胃切除術:胃の上部(噴門側)3分の1と幽門を残して胃を切除する方法
  • 噴門側胃切除術(ふんもんそくいせつじょ):噴門を含めて胃の上部3分の1を切除する方法

さらに、外科手術には開腹手術と腹腔鏡手術があります。腹腔鏡手術は、腹部に小さい穴を数カ所開けて、専用の器具やカメラを用いて手術を行います。腹腔鏡手術は開腹手術に比べて体への負担が低く、低侵襲治療といわれています。しかし胃がんの腹腔鏡手術は現在、臨床研究での治療という位置付けになっており、腹腔鏡手術で行える手術には限りがあります。臨床研究では、腹腔鏡手術の安全性が開腹手術と比べて劣らないかを検証しています。安全性とは、手術後の合併症が増加しないことを指します。合併症には、縫合不全(臓器と臓器のつなぎ目がうまくつかない)、膵液漏(すいえきろう・膵液が膵臓の外に漏れること)などがあります。

現在、標準治療である開腹手術と安全性が同程度であると確かめられているのは、ステージⅠ(参考記事「胃がんの検査と診断」)の比較的初期の胃がんに対する幽門側胃切除術です。さまざまな施設で、早期がんに対する幽門側胃切除術の臨床研究が進められ、その結果が示されています。この臨床研究の結果を受け、内視鏡外科学会のガイドラインでは推奨度B(推奨できる)という位置付けになっています。ですから患者さんの病状や希望によって、開腹手術と腹腔鏡手術を選択することが可能といえます。ただし、繰り返しになりますが、安全性が示されている腹腔鏡手術はステージⅠの比較的初期の胃がんに対する幽門側胃切除術に限られています。

胃がんのステージ(病理分類)

胃全摘術や噴門側胃切除術も腹腔鏡で行うことができますが、これらは幽門側胃切除術に比べ難易度が高いとされています。噴門とは胃の入り口(食道とのつなぎ目)を指しますが、胃の上部を切除すると、食道と腸、食道と残った胃をつなぐ手術が必要となります。このような食道と他の臓器をつなげる手術は、一般的に難易度が高くなります。これは開腹手術でも同様です。ですから、幽門側胃切除術よりも安全性を示すのに時間がかかるといえます。今後、JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)と呼ばれるがん治療の研究グループなどを中心に臨床研究が進んで行く予定です。

進行胃がんも腹腔鏡で手術することは可能です。胃癌治療ガイドラインでそれが推奨されていないのは、安全性が示されていないためです。腹腔鏡手術では、鉗子(かんし・物をつかんだり引っ張ったりするために用いる器具)でお腹のなかのさまざまな部位を掴む必要があります。時には胃そのものを掴む場合もあります。たとえば、早期がんではがんの大きさが1〜2cm程度であるため、がんに侵されていない部分がたくさんあります。しかし、大きながんが胃の半分を占めている、あるいは胃の壁を貫いて腹腔内に顔を出しているような進行がんの場合、がん自体を鉗子で掴んでしまう危険性が少なくありません。

がんを鉗子で掴んでしまった場合に、どのような悪影響が出てくるのかはいまだわかっていません。胃がんで最も懸念されている腹膜播種(腹膜にがんが転移すること)やその他の臓器への転移が促進されるのではないかと危惧されています。進行胃がんに対する腹腔鏡下幽門側胃切除術が開腹幽門側胃切除術に劣らないことを示すことを目的にした臨床研究が、腹腔鏡下胃切除術研究会主導で現在進行中です。新しい治療を導入するためには、このように臨床試験という形で登録して科学的証拠を作っていく必要があります。

腹腔鏡手術のメリットは、傷が小さい・痛みが少ない・開腹手術より回復が早いなどが挙げられます。しかし傷がどれほど小さくても、治療としての適確な胃切除が行われなければ、それは低侵襲とはいえません。また、腹腔鏡手術後の合併症の頻度が開腹手術より増えてしまうのであれば、それもまた低侵襲とはいえません。腹腔鏡手術が低侵襲であるといえるかどうかは、相手にするがんによって異なりますので、傷が小さいという腹腔鏡手術のメリットのみに目を向けないことが重要です。

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