胃切除後障害の患者さんのなかには、症状の改善方法がわからない、また周囲に相談できずに抱え込んでしまう方も多くいます。このような状況を改善するために、患者さんの支援に積極的に取り組んでいる組織があります。「胃外科・術後障害研究会」/「胃癌術後評価を考える」ワーキンググループでは胃切除後障害の患者さんを支援するツールを開発しホームページから提供するとともに、胃切除後障害の克服を目指して組織的な活動を行っています。
今回は、川村病院 外科/東京慈恵会医科大学 客員教授の中田浩二先生に胃切除後障害に苦しむ患者さんを支援する取り組みやツールについてお話を伺いました。
胃切除後障害の概要や症状については記事1『胃の切除後に注意したい胃切除後障害とはどんな病気?メカニズムや症状、食事療法について』をご覧ください。
胃切除後障害は、胃切除後にさまざまな体の不調が現れることをいいます。検査を行なっても狭窄や潰瘍などの明らかな器質的異常がないことが多く、症状が重いのにもかかわらず周囲に相談できずに患者さん1人で抱え込んでしまうことも少なくありません。
胃切除後障害に悩む患者さんが少しでも快適に生活できるよう、組織的にサポートしようとする活動が始まり、徐々に広がりつつあります。
私もメンバーの1人である「胃外科・術後障害研究会」/「胃癌術後評価を考えるワーキンググループ」では、患者さんや全国の医療機関に対してさまざまな情報発信や開発したツールの提供をしています。胃切除後障害に悩んでいる方はぜひ胃外科・術後障害研究会のホームページで公開している情報やツールを積極的に活用していただきたいと思います。
次項では、患者さんが胃外科・術後障害研究会のホームページ(http://www.jsgp.jp/)から入手できる情報やツールについてご紹介します。
胃外科・術後障害研究会/「胃癌術後評価を考える」ワーキンググループでは、胃切除後障害に関する必要十分な情報を患者さんにわかりやすく提供するために「胃を切った方の快適な食事と生活のために」という小冊子を作成しました。
主な症状やその対処法、食事や生活へのアドバイスを中心に、患者さんの実際の生活シーンに寄り添う内容になるよう、工夫して作成してあります。
小冊子は胃外科・術後障害研究会のホームページからダウンロードが可能です。
できるだけ多くの患者さんにこの小冊子を手にとっていただき、快適な生活を送る一助にしていただきたいと思います。
患者さんが1日を振り返って自分の体の不調に気づき、早急に自分で対処できるように「振り返り日誌」を作成しました。その日の「症状・食事・身体活動・気分」について5点満点で採点してもらい、3点以下(=不調がある)の場合には、考えられる原因や適切だと思われる対処法をリストから選んで記入し、実際に自己対処していただく内容になっています。
1日を振り返って自分の体の状態に目を向けることで、効率的に自己対処法を身につけることができると考えます。
振り返り日誌も胃外科・術後障害研究会のホームページからダウンロードが可能です。
患者さんのなかには、胃を切除したことを職場にいえず、我慢している方もいます。また、胃切除後障害による体の不調をうまく伝えられず仕事に負担を感じている方もいます。一方、職場の方は胃を切除したことを知っていても実際にどうしてあげたらよいのかわからないことも多いのではないでしょうか。
そのために「職場の方へのお願い」というプリントを作成しました。このプリントも胃外科・術後障害研究会のホームページからダウンロードが可能です。
プリントを職場の方に渡して適切な配慮をしていただくことで職場への復帰がスムーズになると考えていますのでぜひ活用してください。プリントの署名欄に担当医にサインしてもらうと、より職場の理解が得られやすいと思います。
胃切除後障害は多様で複雑な様相を呈することがあるため、医師や管理栄養士などの医療者にとっても診断や治療に悩むことが少なくありません。そのため、胃外科・術後障害研究会/「胃癌術後評価を考える」ワーキンググループでは、医療者が胃切除後障害の診断や治療を共通の視点で体系的に行うことができるような取り組みを行なっています。
胃切除後障害のわかりやすい解説や具体的な指導、治療法について、胃外科・術後障害研究会/「胃癌術後評価を考える」ワーキンググループでまとめた書籍が「外来診療・栄養指導に役立つ 胃切除後障害診療ハンドブック(南江堂)」です。
胃切除後障害の診断と治療は経験的に行われることが多く、標準的なものは確立されていない現状があります。そこで、多施設共同研究の結果や執筆メンバーのコンセンサスに基づいて実際の臨床現場で使いやすいハンドブックとして出版しました。
このハンドブックは時間的な余裕の少ない外来診療や栄養指導の場で活用しやすいように要点中心のシンプルな構成とし、患者さんへの説明にも役立つようにイラストや表を多用しました。ですから、胃切除後の体の変化や胃切除後障害のことを詳しく知りたい患者さんにとってもきっと役に立つと考えています。
患者さんに胃切除後障害を評価するための「PGSAS質問票」に回答していただき、その結果をこのアプリに入力すると、同じ手術を受けた患者さんの全国データとの比較がグラフ上に表れ、その患者さんの普段の生活の状態が全国平均と比べてどれくらい良く、どれくらい悪いかについて知ることができます。とくにスコアが高い(=症状が重い)症状については、食事や生活上の指導内容が自動的に抽出され表示するので、結果をプリントして患者さんに渡し説明することで個々人に最適化した栄養指導を行うことができ生活改善に役立っています。患者さんからの評価も高く、実際にPGSASアプリを使用する医療機関も増えてきています。
このPGSASアプリも、胃外科・術後障害研究会のホームページからダウンロードが可能です。
胃切除後も快適な生活を送るために、ここまでご紹介してきたツールを上手に活用して、周囲の人の理解と協力を得ながら、ご自身が中心となって「自己学習」「自己観察」「自己対処」によって、胃切除後障害を乗り切っていただきたいと考えています。
胃切除をしてしばらくのあいだは、焦らずに術後の体の回復に合わせて食事や生活リズムを再構築することをおすすめします。胃切除後の体の変化を理解し、自分の体からのシグナルに耳を傾け、体の不調にうまく対処するための情報を得たり、実際に自分でできる対処法を行なうことはとても重要です。また辛いときには自分一人で問題を抱え込まずに、家族や職場の方にも伝えて、協力してもらうようにしましょう。症状が重く、日常生活に支障をきたす場合や急な変化がみられた場合には、早めに医療機関を受診するようにしてください。
胃外科・術後障害研究会では胃切除後障害検討委員会を立ち上げ、胃切除後障害を克服するために【講演録⑥】組織的に取り組んでいます。胃外科・術後障害研究会/「胃癌術後評価を考える」ワーキンググループとしてこれからも胃切除後障害の克服に向けて努力していきたいと考えています。
胃切除後障害は、胃の病気を治すために胃を切除することによって起きる医原性の疾患です。さまざまな症状が現れ、日常生活に支障をきたすことがあります。胃切除後障害の診断や治療は必ずしも容易ではなく、適切な診療を行える施設も多くありません。
胃外科・術後障害研究会では胃切除後障害による身体の不調や生活上の支障で困っている患者さんの診療窓口として、全国に約85箇所(2023年4月現在)の胃切除後障害対応施設を設けホームページに掲載していますので、お困りの患者さんは一度ご相談ください。
胃外科・術後障害研究会 会長 瀬戸泰之
同 胃切除後障害検討委員会 委員長 中田浩二
川村病院 外科 、東京慈恵会医科大学 客員教授
日本消化器外科学会 消化器外科専門医・消化器外科指導医日本消化器病学会 消化器病専門医・消化器病指導医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本消化管学会 胃腸科専門医・胃腸科指導医日本外科学会 外科専門医・指導医
東京都生まれ。1984年東京慈恵会医科大学卒業。学生時代は空手道部主将を務め(三段)、国際大会にも出場。内科疾患・外科手術と消化管機能障害に関する研究と臨床に従事。「胃癌術後評価を考える」ワーキンググループ/胃外科・術後障害研究会を通じて胃切除後障害の克服に向けた全国的な活動に取り組んでいる。
中田 浩二 先生の所属医療機関
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