胃がんなどで胃を切除したことにより引き起こされる胃切除後障害。その概要と詳細について、「胃を切った人 友の会 アルファ・クラブ」でセミナーが開催されました。登壇者は東京慈恵会医科大学の中田浩二先生。胃切除後によくみられる障害とその原因。また、それぞれの障害にどのような対処をするのか。ひとつずつ詳細にお話しいただきました。
胃の切除後、第一に大切なことは、食事と生活を新しい体にうまくあったものにしていくことです。次に、薬で症状を緩和することです。これらを実行してもどうしようもない場合に、最後の手段として手術を行うこともあります。
たとえば術後もがんが残ってしまい、しかもある程度進行している場合には、がん自体の影響でさまざまな症状が起きることがあります。抗がん剤治療を行っている場合には、その副作用として起こる症状もあります。
最近は、胃がんと同時にいろんな病気を持っている方がいるので、それらの病気による影響で症状が起きていることもあります。そういう場合には、その病気を治療する必要があります。5~10種類と多くの薬を飲んでいる方も少なくないので、薬の副作用も考えられます。
だんだんと体と同時に心の元気もなくなっていくことがあるので、心配や不安になったり、強いストレスを感じたりして、体の調子が悪くなることもあります。その場合は、心療内科の先生にも相談するとよいと思います。
術後の体調不調に対しては総合的な観点が大切で、以上のような原因が除かれて胃切除後障害によると考えられる不調に対しては、原因を調べて適切な治療をおこないます。
胃切除後障害の原因には大きく分けて、体の要因と、心の要因があります。
体の要因としては、どのような手術を行ったかがポイントとなります。また、患者さんの年齢や性別、体型や手術に対する適応力などの個人差も大きいです。
心の要因は、手術後、時間が経てばよくなってくることも多いです。たとえば、がんといわれたことで落ち込んだり、術後の生活にうまく適応できなかったり、手術前にできていた仕事が同じようにできないことを心の負担として感じることも多いので、それらを拾い上げ、対処していきます。
術後障害が起きてしまった場合、それとどのように擦り合わせて対処するかが大事です。しかし、患者さんが孤軍奮闘して対応するのは難しいので、家族や職場など周りの方々がサポートしてあげることが大事です。
胃を切除することは、もちろん患者さんにはとても辛いものですが、周りの方にはそれが伝わりにくいという現実があります。どうやって伝えればいいのかわからない患者さんも多いです。
たとえば職場復帰したとして、職場の方も手術した人にどう接しどう配慮してあげればよいのかわかりません。患者さんご自身からはうまく説明できないこともあるので、胃を手術した方の身体の変化を伝え、どう対応すればよいのかを、職場あるいは家族の方に理解してもらうための資料があると便利です。
胃外科・術後障害研究会のホームページ(http://www.jsgp.jp/)にはそのような資料が載っていて、誰でも自由にダウンロードして使用することが可能ですのでぜひ活用してください。
腹腔鏡手術やロボット手術などの新しい技術にはみんな飛びつきますし、新しい抗がん剤には非常に有効なものも登場して積極的に使われています。
しかし、新しい医療にばかり目が奪われてしまうと、治療後の患者さんには十分に注意が向かなくなってしまいます。そうすると、やはり落ちこぼれて迷子になってしまう方も出てきます。治療後の患者さんの生活を考え、サポートすることも非常に大事です。術式を工夫すると同時に、術後のケアを充実して障害を減らしてゆく努力を今後も続けていきたいと考えています。
この記事は胃を切った人 友の会 アルファ・クラブ主催の講演内容をベースに作成しています
川村病院 外科 、東京慈恵会医科大学 客員教授
日本消化器外科学会 消化器外科専門医・消化器外科指導医日本消化器病学会 消化器病専門医・消化器病指導医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本消化管学会 胃腸科専門医・胃腸科指導医日本外科学会 外科専門医・指導医
東京都生まれ。1984年東京慈恵会医科大学卒業。学生時代は空手道部主将を務め(三段)、国際大会にも出場。内科疾患・外科手術と消化管機能障害に関する研究と臨床に従事。「胃癌術後評価を考える」ワーキンググループ/胃外科・術後障害研究会を通じて胃切除後障害の克服に向けた全国的な活動に取り組んでいる。
中田 浩二 先生の所属医療機関