胃がんなどで胃を切除したことにより引き起こされる胃切除後障害。その概要と詳細について、「胃を切った人 友の会 アルファ・クラブ」でセミナーが開催されました。登壇者は東京慈恵会医科大学の中田浩二先生。胃切除後によくみられる障害とその原因。また、それぞれの障害にどのような対処をするのか。ひとつずつ詳細にお話しいただきました。
鉄やビタミンB12の吸収が悪くなるため、貧血になることもあります。
胃を手術すると、貧血は一定の割合で起こります。貧血が起きないように食べる物に気をつけたり、定期的に血液検査を受けるようにし、起きてしまったときには鉄やビタミンB12を補充して治療することが重要です。
これは見過ごされやすい障害ですが、胃を手術すると、骨が弱くなることが多いです。
その原因のひとつはカルシウムが吸収されにくくなることで、もうひとつは脂溶性のビタミンであるビタミンDの吸収が悪くなることです。ビタミンDにはカルシウムの吸収を増やしたり尿への排泄を減らしたりするはたらきがあります。
胃を切除して骨粗鬆症や骨軟化症をきたし骨が弱くなると、少しぶつけたり、転んだりするだけで骨折しやすくなってしまいます。また、骨折した場合に治るのに時間がかかるようにもなります。
さらに、高齢であったり痩せていたりすると骨は弱くなりやすく、また女性は男性よりも骨が弱くなりやすい傾向があります。胃の切除に加え、これらの要素が重なっている場合には、数年に一回は骨の状態をチェックしましょう。
早くに治療を始められれば、骨がどんどん弱くなることを防げますから、気をつけていくことが大事です。
胃を切った人がよく気にされるのは、痩せることです。
特に過度な痩せをるい痩(るいそう)といいますが、普段の生活に支障をきたすほど体力・気力が失われてしまうようになるのは大きな問題です。まずは、そうならないように防ぐ。これが非常に大切です。
痩せる原因は、口から摂り入れる食事の量(総カロリー数)が少ないことや、食べても栄養素の消化吸収がうまくゆかないことなどです。胃を手術すると食事の量がどうしても減ってしまいますし、また食べ物と消化液がタイミングよく混ざらないなどの理由で、消化吸収障害(=食べた物がエネルギーとして身体にうまく取り込まれないこと)が起きたりします。
手術後に感染症などの合併症を起こすと、身体のなかで炎症が持続してエネルギーを消費してしまいますので、さらに体重が減りやすくなります。
1回あたりの食事量はどうしても少なくなるので、体が必要な栄養をうまく摂るには食事の回数で補う方法が有効です。あとはよく噛んで、ゆっくりと食べることや、消化されやすい食べ物を摂るようにすることも大切です。
食欲がない方には、食欲を増す作用のある漢方薬が効果的かもしれません。食べた栄養がきちんと吸収できない場合には、脂肪を分解する膵臓の酵素を薬で補うことで対応しますが、これは特に痩せが高度(目安として20%以上)な方に対して使うことが多いです。この治療で体重が増える患者さんも少なくありません。
この記事は胃を切った人 友の会 アルファ・クラブ主催の講演内容をベースに作成しています
川村病院 外科 、東京慈恵会医科大学 客員教授
日本消化器外科学会 消化器外科専門医・消化器外科指導医日本消化器病学会 消化器病専門医・消化器病指導医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本消化管学会 胃腸科専門医・胃腸科指導医日本外科学会 外科専門医・指導医
東京都生まれ。1984年東京慈恵会医科大学卒業。学生時代は空手道部主将を務め(三段)、国際大会にも出場。内科疾患・外科手術と消化管機能障害に関する研究と臨床に従事。「胃癌術後評価を考える」ワーキンググループ/胃外科・術後障害研究会を通じて胃切除後障害の克服に向けた全国的な活動に取り組んでいる。
中田 浩二 先生の所属医療機関