食事などを通して栄養を摂取することは、生命を維持するうえで重要です。その点において、胃や食道は人間が食べ物を摂取・消化するのにとても大切な役割を担っています。本記事では、消化器がんである胃がんと食道がんの原因や症状、検査や治療方法について恵佑会札幌病院ロボット・内視鏡外科センター センター長 北上 英彦先生にお話しいただきました。
胃がんの発症リスクを高める要因としては以下が知られており、こうした要因が胃の粘膜にある細胞に刺激を与え、がん細胞になると考えられています。
特に、胃がんの方のほとんどにピロリ菌の感染に伴う慢性の萎縮性胃炎が生じているともいわれており、ピロリ菌を除菌することで胃がんの発症リスクを下げることができます。ただし、ピロリ菌に感染している全ての方が胃がんになるわけではありません。
日本における胃がんの患者数は50歳頃から増え始め、60歳代がピークです。2019年に国立がん研究センターがまとめたデータでは、がんの中で3番目にかかる人が多いということが分かっています。一方、日本における胃がんでの年齢調整死亡率*は減少しており、同時に胃がんにかかる方の人数も、人口の年齢構成を調整して算出した場合には横ばい傾向にあります。
死亡率の減少は治療の進歩によるところが大きく、胃がんにかかる方の人数の減少は、ピロリ菌の除菌などの衛生状況の改善が大きな理由です。
*年齢調整死亡率:がんは高齢になるほど死亡率が高くなるため、高齢化が進んでいる場合、必然的に以前のデータと比較すると死亡率は高くなる。年齢調整死亡率は、年齢構成が異なる集団の死亡率を比較するために人口の年齢構成を調整して算出される。
胃がんでは、胃の痛み(みぞおち辺りの痛み)や詰まり感といった症状が出ることがありますが、多くの場合で早期段階では無症状です。以前は吐血や下血、食欲不振による急激な体重減少といった症状で医療機関を受診し、そのときにはすでに胃がんが非常に進行していたというケースもありましたが、最近では無症状(早期)のうちに検診で発見され、確定診断のために医療機関を受診するというケースが多くなっています。
口あるいは鼻から細長く柔らかい管(ファイバースコープ)を入れ、食道や胃、十二指腸などを観察する検査です。内視鏡(胃カメラ)の先端で捉えた消化管内部の映像をリアルタイムで見ることができます。
特に早期の胃がんにおいては、変化がごくわずかしかみられないことも多くありますが、胃内視鏡検査はそのようなわずかな変化も捉えることが可能です。また、検査と同時にがんと思われる部分の組織を採取して、本当にがん(悪性)であるかどうかを調べることもできます。
バリウム(造影剤:X線がはっきりと写るようにするための薬)と胃を膨らませるための発泡剤を飲み、X線写真を撮影します。撮影した写真を用いて胃の形や粘膜の状態などを観察する検査です。
X線検査で異常があると判断された場合には、より詳細に胃の中を観察するために精密検査(胃内視鏡検査など)を受ける必要が生じます。そのため、初めから胃内視鏡検査を行うほうがよいのではないかという医師の意見も耳にします。
CTではX線を、MRIでは磁気を利用して体の断面を撮影する検査です。CTやMRIを撮ることで、がんの深さや別の臓器、リンパ節への転移の有無などが分かります。MRIは特に肝臓や骨、脳への転移状態を調べる場合に用いられます。
治療法は、がんの進行具合や、患者さんの年齢・全身状態・社会的環境などから総合的に判断します。胃がんの主な治療法は以下のとおりです。
胃内視鏡を用いてがんを切除します。手術や薬物治療と比較して体への負担やその後の生活への影響がもっとも少ないですが、早期がんでリンパ節転移の可能性が低い場合にしか実施することができません。
また、内視鏡治療を実施したものの、がんが取り切れなかったもしくは検査所見よりも進行しており転移の可能性が考えられる場合には、追加で手術を行うこともあります。
内視鏡治療の適応とならない早期がんや進行がんに対して、遠隔転移(胃以外の臓器や器官でがんが増殖すること)がなければ外科手術が適応されます。さらに、リンパ節やほかの臓器への転移がある場合でも、胃以外の臓器も一緒に切除する合併切除や腫瘍の量を減らす目的の減量手術、化学療法後の手術が実施されることがあります。
手術の方法は開腹手術・腹腔鏡下手術・ロボット支援下手術があり、それぞれにメリット・デメリットがあるため、それぞれの特徴を理解したうえで主治医と相談しながら方法を決定していくことが大切です。
ほかの臓器などへの転移があり、手術でのがん摘出が難しい場合やがんが再発した場合、あるいは手術を実施した後に再発を予防する場合などに選択されるのが薬物治療です。いずれの場合も、患者さんの全身状態やがんの状態によってさまざまな薬の中からどれを使用すべきか(あるいは併用すべきか)を検討します。
胃がんにおける死亡率が低下してきている要因の1つとして、薬物治療の進歩が挙げられると言っても過言ではありません。
食道がんの発症リスクを高める主な要因としては、以下が知られています。
特に喫煙と飲酒、両者の習慣を持った方では、どちらか一方の習慣がある方よりもさらに発症リスクが高まります。しかし、喫煙・飲酒どちらの習慣もないからといって、“絶対に食道がんにならない”ということではありません。
食道がんも、胃がんと同様に早期段階では目立った自覚症状はみられません。非常に進行した段階でようやく、胸の辺りの染みるような痛みやつっかえ、声のかすれなどが生じることがあります。そのため、自覚症状が出る前に検診で偶然発見されることも多々あります。
胃内視鏡検査と同様に口あるいは鼻から内視鏡を挿入して、食道内の様子をリアルタイムで観察する検査です。
内視鏡の先端に超音波を発する器具が内蔵されており、食道の内側から超音波による検査を行う方法です。通常の内視鏡検査では食道表面の観察を行いますが、超音波内視鏡を用いた検査では食道および食道周囲の臓器を食道の内側から観察できます。食道にがんがあった場合、がん組織がどの程度の深さまで達しているか、周囲の臓器への転移はあるかなどを詳しく状態を調べるために実施します。
がんの深さや別の臓器、リンパ節への転移の有無などを調べる検査です。食道がんの進行度を判定するうえで非常に重要な検査といえます。
放射性の薬剤を投与して画像撮影を行う検査で、がんの広がりを調べることが可能です。腫瘍があった場合にそれが悪性を疑うものかどうかといったことのほか、その大きさ、転移の有無を確認するために実施します。ただし、早期がんに対しては実施しても反応がみられないこともあります。
食道がんも、がんの進行具合や患者さんの年齢・全身状態・希望などから総合的に治療方針を決定します。主な治療法は以下のとおりです。
早期がんの場合には、食道内視鏡を用いたがんの切除が選択されます。胃がんと同様、がんが取り切れなかった場合や転移の可能性がある際は、追加で手術を実施することもあります。
がんの大きさや到達している深さ、ほかの臓器などへの転移の状況、患者さんの全身状態にもよりますが、食道がんにおいては手術が標準的な治療法の1つで、アプローチの違いから開胸開腹手術・胸腔鏡腹腔鏡下手術・ロボット支援下手術という選択肢があります。多くの食道がん手術では胸部操作(胸部からの手術)と腹部操作(腹部からの手術)のどちらも必要とします。いずれの手術方法であっても結果的な切除範囲や再建方法に違いはないため、どのようなアプローチで手術を実施すればより安全で患者さんへの負担が少ないかという観点で、患者さんごとに手術方法を検討します。
また、放射線や薬物による治療を先に行ってから手術を実施する、あるいは手術を先行し後から放射線や薬物による治療を行うなど、それぞれを組み合わせる場合もあります。
高エネルギーの放射線をがんのある部分に当てることで、がんを小さくする治療です。放射線治療のみを行うよりも、薬物治療と組み合わせるほうが効果的だといわれています。
外科治療や放射線治療と組み合わせて、あらゆるステージの食道がんで実施されます。また、使用する薬剤も複数を併用する場合があります。
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