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食道がんに対するロボット支援下手術

食道がんに対するロボット支援下手術
北上 英彦 先生

恵佑会札幌病院 ロボット・内視鏡外科センター センター長

北上 英彦 先生

目次
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食道がんにおけるロボット支援下手術は、2018年に保険適用されました。ロボット支援下手術は、その機能性から精密な手術ができるといわれており、食道がんの外科手術において注意すべき合併症の発生頻度を減らすことができるのでないかと期待されています。

本記事では、食道がんにおけるロボット支援下手術の特徴や食道がんとロボット支援下手術の“相性のよさ”、そして今後の展望などについて、恵佑会札幌病院 ロボット・内視鏡外科センター センター長の北上 英彦(きたがみ ひでひこ)先生にお話しいただきました。

食道がん治療においては、タイミングの違いはあれ、どのステージでも手術の適応になることがあります。しかし、最終的にはどの治療法を優先させるか、また、手術適応の場合は患者さんに手術に耐えうる体力があるか、手術を希望するか否かといった点などを総合的に考慮して治療方針を決定します。

日本では食道がんステージII、ステージIIIの多くのケースで薬物治療と手術を組み合わせて実施します。これは、食道がんが近くのリンパ節に転移している、あるいはがんが組織の深い部分まで進行している場合には、薬物治療を行ってから手術を実施するほうが、術後に薬物治療を行うよりも予後がよいことが分かっているためです。術前に薬物治療を行うことで、がんを小さくしたり目に見えないほどのサイズのがんを抑えたりすることができます。

手術は、食道をほぼ全て切除する食道亜全摘(しょくどうあぜんてき)が基本です。食道の下部のみを取るというケースもありますが、がんのある部分のみを途中で切り、残った食道同士をつなぎ合わせるという手術は行いません。

食道がん手術の特徴的な合併症の1つとして挙げられるのが反回神経麻痺(はんかいしんけいまひ)です。反回神経は声帯の動きをコントロールする神経で、喉の左右にそれぞれ1本ずつ存在します。

食道がんにおいては、この反回神経の周囲のリンパ節に転移を起こすことがあり、その場合は反回神経のみを残して周囲のリンパ節をそぎ取る(切除する)という対応が必要です。ところが、神経は少しでも触れたり、電気的な刺激などを受けたりすることで麻痺を起こすことがあるため、食道がんの手術では常に反回神経麻痺のリスクがあります。

反回神経麻痺が起こると声帯が動かなくなるため、嗄声(させい)(声がかすれること)が生じたり、誤嚥(ごえん)(ものを飲み込んだ際に気管に入り込んでしまうこと)の危険性が高まったりします。特に誤嚥は肺炎を引き起こすため、QOL(生活の質)や予後にも影響します。左右どちらの反回神経も麻痺した場合には、呼吸ができなくなってしまうため気管切開が必要となります。

麻痺が軽度の場合には時間とともに自然に症状も回復しますが、重度の場合には外科的な処置が必要になる場合もあります。

食道がんに対するロボット支援下手術も、基本的には胃がんと同様に一概にはいえませんが、がんの進行状況や合併症の有無、手術歴、患者さんの希望などもふまえて手術方法を最終決定します。術前のステージはあくまで手術方法を決定するための判断材料の1つと考えています。ロボット支援下手術を希望する場合などには、一度主治医に相談してみるのもよいでしょう。

食道がんにおいても、一般的にロボット支援下手術でメリットとされている点は変わらず、出血の少なさや傷の小ささ、より精密な動きなどがメリットとなります。

加えて、個人的には食道がんとロボット支援下手術は相性がよいと考えています。なぜなら、反回神経をはじめ、食道がんの手術では残しておかなくてはならない重要な臓器や脈管、神経が、切除する食道に近接しているからです。周囲を傷つけず、がんのみを確実に切除するというのは非常に難易度が高い手技です。その点ロボット支援下手術では、ロボットアーム先端のカメラを操作し術者が思ったとおりの位置を3Dで拡大して見ることができ、さらに手ぶれ補正機能によってより正確に切除したい部分のみに触れられるため、術者としては非常にやりやすさを感じています。

また、開腹(開胸)手術や腹腔鏡下(ふくくうきょうか)(胸腔鏡)手術と比較して、ロボット支援下手術を実施したときのほうが反回神経麻痺などの合併症を減少できるという報告も出てきています。しかし、現状、こうした報告は各医療機関単位などでの小規模な研究によるものです。2018年に食道がんのロボット支援下手術が保険適用となってからまだ2年しか経過しておらず、“ロボット支援下手術は合併症のリスクが低い”と断言するには症例数が不十分であるということは否めません。しかし、今後さらに食道がんのロボット支援下手術が浸透していく過程で全国的にデータが蓄積され、ロボット支援下手術の有用性が断言できるようになるのではないかと期待されています。

食道がんの手術後は、胃がん以上に体重の減少がみられるケースがほとんどです。当院では、術後に食事でどのくらいのカロリーが摂取できているのかをチェックすることで、最終的に退院が可能かどうかを判断しています。

また、程度はさまざまですが嗄声や誤嚥は多くの方に出る症状です。誤嚥を防止するために顎を引いて飲み込む、一口の量を減らしてよく噛んで食べるといった工夫をしましょう。加えて、誤嚥が引き起こす肺炎にも注意が必要です。

そのほか、食後の逆流を予防することも重要です。可能な限り就寝直前の食事を避ける、食後すぐに横にならないといった食後の逆流防止を意識した生活を心がけてください。

食道がんのロボット支援下手術を実施している施設は、ここ最近でどんどん増加しているような印象があります。その理由は、やはり食道がんとロボット支援下手術の“相性のよさ”にあるのではないでしょうか。個人的には、今後、前立腺がんに対するロボット支援下手術のように早いペースで浸透していくのではないかと考えています。それと同時に、ロボット支援下手術に関するあらゆるデータが蓄積され、エビデンスに基づくロボット支援下手術のメリット・デメリットが明確になることで、どういった患者さんに対してロボット支援下手術を行うのがベストなのかという検討が進むのではないかと思います。

食道がんに関しても、患者さんにはあらゆる治療の選択肢を知っていただきたいです。考えうる全ての選択肢のメリット・デメリットを理解したうえで治療に臨んでいただけることが理想ではないでしょうか。

また、ロボット支援下手術は“得体の知れない手術”だという印象をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。しかし、手術支援ロボットはあくまでも “より手術を実施しやすくするための道具”です。開腹手術、腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術のいずれの場合も、手術を行うのが医師であることに変わりはありません。私は医師が手術をやりやすいと感じることがひいては患者さんの安全性につながるのだと考えています。

実際にロボット支援下手術を行うかどうかはさておき、まずは食道がんのロボット支援下手術について詳しく話を聞いてみたいという方がいらっしゃいましたら、ぜひ、当院の専門外来*に足を運んでみてください。

*2020年12月現在、毎週火曜の午前中に受診が可能です。最新の情報は恵佑会札幌病院のwebサイトなどで確認してください。

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