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胃がん治療の最新トピックス ~日本胃癌学会理事長 小寺泰弘先生に聞く、内視鏡治療の適応条件や最新の治療法について~

胃がん治療の最新トピックス ~日本胃癌学会理事長 小寺泰弘先生に聞く、内視鏡治療の適応条件や最新の治療法について~
小寺 泰弘 先生

名古屋大学大学院医学系研究科 消化器外科学 教授、名古屋大学医学部附属病院 病院長

小寺 泰弘 先生

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胃がんとは食べ物を消化する臓器である胃に生じるがんのことで、日本では年間約13万人もの人が胃がんと診断されています。胃がんの治療では、病気の進行度合いに合わせて内視鏡治療、手術、薬物療法を中心にさまざまな治療が行われます。今回は胃がん治療に関する最新トピックス(2020年6月時点)について、名古屋大学医学部附属病院 病院長/日本胃癌学会理事長の小寺 泰弘(こでら やすひろ)先生にお話を伺いました。

一般の方の中には“内視鏡治療=腹腔鏡下手術”と思っている方もいます。確かに腹腔鏡下手術を内視鏡治療に含む場合もあるのですが、ここでの内視鏡治療(厳密には内視鏡的切除)はまったくの別物を指していると思います。以下では、それぞれの違いについてお話します。

まず、胃がん治療における内視鏡治療とは、胃内視鏡(いわゆる胃カメラ)を使用して胃の内側からがんを切り取る手術のことをいいます。内視鏡を口から入れ、胃まで進めてがんのある部分だけを胃に穴をあけないように剥がすようにして切除します。胃がんの内視鏡治療には、高周波のナイフでがんを切除する“内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)”や輪になったワイヤーにがんを引っ掛けて切除する“内視鏡的粘膜切除術(EMR)”などがあり、がんの状態に応じて選択されます。

一方、腹腔鏡下手術とは外科的手術の1つで、お腹に小さな穴をあけそこから専用の医療器具を入れて行う手術のことをいいます。胃がんの腹腔鏡下手術では開腹手術と同様にがんだけでなく胃そのものの一部、あるいは全てを切除・摘出します。また、リンパ節や周辺臓器にまでがんが広がっていた場合、併せてこれらも切除することがあります。腹腔鏡下手術では胃の一部あるいは全てを切り取ることになるため、残った胃や腸を縫い合わせ消化管の機能を回復させる“再建”も併せて行われます。

内視鏡治療と腹腔鏡下手術とでは、それぞれ適応範囲が異なります。内視鏡治療はあくまでがんの生じている部分だけを胃に穴をあけないように剥がし取る治療なので、比較的初期の胃がんの患者さんに行われます。

具体的には、胃の壁のもっとも内側の層であり、がんがここから発生する粘膜に限局したがんがもっともよい適応となります。がんが少し深くなって粘膜下層に及んでいても、その一部は適応となり得ます。しかし、粘膜下層にがっちりと入り込んだ場合にはリンパ節転移をきたしている可能性が高くなり、がんの本体だけを切除してもがんが残ることになりますので、適応となりません。がんがさらに深くなると胃に穴をあけずに切除することが不可能となるので、この場合も内視鏡治療の適応はありません。

一方、腹腔鏡下手術では開腹手術と同様に胃そのものに加えて、その周囲のリンパ節・臓器なども取り除くことができるため、より進行した胃がんの患者さんも適応となります。

内視鏡治療は、腹腔鏡下手術や開腹手術と比較して患者さんにかかる体の負担が少ない(低侵襲)ため、近年広く行われるようになってきています。前述のとおり、内視鏡治療は主に早期の胃がんに対して行われる治療方法です。リンパ節へ転移している確率が極めて低いことが内視鏡治療を行う条件となり、そのためにはがんがまとめて切除できる大きさと位置にあることに加えて以下の3項目を満たすことが望ましいとされてきました。

  • がんが粘膜にとどまっており2cm以下であること
  • がんの組織型が分化型であること
  • がんと同じ場所に胃潰瘍が合併していないこと

ただし、ここでいうがんが粘膜にとどまっているかどうかというのはあくまでも内視鏡による診断に過ぎず、本当にそうであるかどうかは実際に切除した病変を顕微鏡検査で確認しなければ分かりません。そのため、顕微鏡検査の結果がんが予想以上に深いことが分かった場合には、後述する追加治療を検討します。

一方、近年は患者さんのニーズや状態によって、これらの条件を満たしていない場合でも内視鏡治療が行われることがあります。

たとえば、年齢などの理由で腹腔鏡下手術や開腹手術などで胃を大きく切除する外科的手術では体への負担が大きすぎると予想される患者さんなどです。胃がんは50歳頃から増加し、70歳代、80歳代でピークを迎えることから高齢の方に多いがんといえます。そのため、患者さんの体力が落ちており外科的手術や胃を失うことによるQOLの低下に耐えられないと予想される場合には、上記の条件を完全に満たしていなくてもより低侵襲な内視鏡治療を行うことも選択肢に入り得ます。

患者さんの希望や状態によっては、上の条件を完全に満たしていない可能性があってもまず内視鏡治療をやってみて、そこで切除したがんを顕微鏡で観察して取り切れているかどうか、またリンパ節転移のリスクを検討し、必要に応じて追加治療を行うこともあります。

このように、内視鏡で切除したがんをもとにリンパ節転移リスクを予測する分類はeCURA分類と呼ばれています。eCURA分類によってがんの遺残やリンパ節への転移リスクが高いと判断された場合、外科的手術やレーザー治療などの追加治療が検討されます。

内視鏡治療の注意点は、腹腔鏡下手術や開腹手術などの外科的手術と比較して新たな胃がんを発症する可能性が高いことです。内視鏡治療ではがんの生じている部分だけを切り取るため、治療後も胃の大部分が温存されるからです。体質や生活習慣が変わらないまま胃が残るわけですから、そこに新たながんが発生する可能性は胃がんにかかったことがない人の胃よりも高いと考えられます。

対策として定期的に胃カメラの検査を行い、新たながんが発生していないかどうかを調べることが推奨されますし、胃がん発生の原因の1つといわれるヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の検査を行い、感染していた場合には除菌を行うことも選択肢となります。

胃がん治療においても、そのほかのがん治療と同様にロボット支援手術に注目が集まっています。ロボット支援手術は通常の腹腔鏡下手術と比較して手術器具を動かす際の自由度が高く、特に腹腔鏡下で行うには難易度が高い手術を行う際に有効な手術方法といえます。

しかし、現段階ではまだまだ新しい治療方法で、腹腔鏡下手術と比較すると大がかりでコストがかかり、難易度が比較的低い手術の場合にはかえって時間もかかるため、本格的に普及するまでにはもう少し時間がかかると予想します。

ロボット支援手術にはさまざまな課題がありますが、今後さらにロボットやそれを活用する技術が進歩することで、いずれは広く活用されることになるでしょう。

かつて腹腔鏡下手術が行われ始めたときも、開腹手術と比較して時間がかかるものとされてきましたが、その後の技術革新によって今ではスムーズに治療ができるようになりました。たとえば、今後手術用ロボットが小型化し術中に容易に腹腔鏡下手術と切り替えができるようになれば、とても便利に活用できると考えます。

手術用ロボットの普及によって、今後はロボット支援手術をすすめる医師も増えてくると考えます。現段階でもロボット支援手術を積極的に行っている医療機関はありますので、そのような医療機関を受診し希望すればロボット支援手術を受けることはできます。

ただし、患者さんに知っておいていただきたいのは、ロボット支援手術でもそのほかの外科的手術でも治療内容自体に違いはないということです。あくまでもその治療を行う際に外科医が使いやすい道具は何であるかが重要であり、外科医の好みや慣れもありますので、担当医とよく相談していただくのがよいと思います。

胃がんに対する薬物療法は、大きく2種類に分かれます。まず、手術が可能な患者さんに対して治癒の可能性をさらに上げるために手術に追加して行う薬物療法を補助化学療法といいます。一方、高度に進行して手術の適応がないと判断された患者さん(その多くは他臓器に転移をきたした患者さん)に対しては薬物治療が主役となります。

手術が可能な患者さんに補助的に行う薬物療法は、主に抗がん剤による化学療法です。この治療について最新のトピックとしては、化学療法を術前・術後のどちらに行うのがより効果的なのかについて、検証が行われているということです。

これまで日本では、がんが進行する前、特に他臓器に転移をきたす前に少しでも早く手術をすることが重視されており、化学療法は術後に行うことが一般的でした。そのほかに手術を先行することによるメリットをあげるなら、切除したがんを顕微鏡で調べることによってがんの進行度を正確に知ることができるため、がんの進行度が予想に反して大したことがなかった場合などに本来不必要な抗がん剤治療を受ける心配がないことです。

しかし、近年は欧米を中心に術前にも化学療法を行うほうが術後のみに化学療法を行うよりも効果があると考えられており、術前化学療法が一般的になりつつあります。術前化学療法のメリットとして、胃を切除したばかりのタイミングで行うよりも副作用が軽く済むことが挙げられます。

抗がん剤の副作用でもっともつらいのは吐き気、食欲不振などであり、胃を切除してただでさえ食欲が落ちているときに化学療法を行うとこうした副作用が強く出る懸念があるからです。そこで、中国・韓国・日本などのアジア諸国でも、術前に化学療法を加えるかこれまでのように術後だけにするかのランダム化試験など、化学療法のタイミングに関する研究が行われています。

胃がんでは、手術を行わない限り根治を目指すことは困難です。そのため、手術ができない患者さんに対する薬物治療は、根治ではなく延命を目的に行われることが一般的です。実際、根治がかなわないケースでも、抗がん剤などによる薬物療法を行うことで生存期間が年単位で延びる患者さんもいます。

これに加え、近年では薬物療法が強い効果を示し、手術ができない原因となっていた多臓器への転移が消えたり小さくなったりすることで、不可能と判断されていた手術が可能になる場合があります。

たとえば、肝転移があって手術ができない状態だったが薬物療法によって肝転移が消えた場合や、リンパ節への転移が大きな塊になっていて手術ができない状態だったが化学療法によって転移が小さくなった場合などが挙げられます。このように、薬物療法が顕著に効いた結果として可能となる手術を“Conversion surgery(コンバージョンサージェリー)”といいます。

抗がん剤の効き方は患者さんや病気の状態によってそれぞれなので、薬物療法によってコンバージョンサージェリーが必ずできるわけではありません。しかし、これまで延命目的で行っていた薬物療法が予想以上に効いて根治を目指せる可能性が出てきたのは事実です。これは薬物療法の進歩のおかげであり、進行がんの患者さんにとって希望の持てるトピックなのではないでしょうか。

がん治療はガイドラインに沿って行われるため、がん拠点病院などがん治療を専門的に実施している医療機関であれば、薬物療法の内容に大きな差が出ることはないでしょう。ただし、薬を切り替えるタイミングやコンバージョンサージェリーを行うかどうかなど医師の経験則で判断される部分もあるため、実績があり信頼できる医師としっかりコミュニケーションを取りながら治療を進めていくことが大切です。

薬物療法として抗がん剤のみならず分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害剤など多くの薬剤の治験が行われています。ただし、治験中の薬剤の名称などは公表することができません。このような治験の主な対象は標準治療となっている薬物療法が効かなくなった患者さんとなりますので、認可された新薬も当初は既存の薬剤による治療が終了した後でないと使用できません。

そこでこのような新薬をより早い段階で、あるいは補助療法で使用できるようにするための治験も行われています。こうした努力の結果生まれてくる新薬により、手術後の再発がさらに抑えられたり、コンバージョンサージェリーの機会が増えたり、そして究極的には手術が不要になるまでに薬物療法が進歩することを願っております。また、将来的にはがんの遺伝子解析により個々のがんに適した薬剤を選択できる時代が到来するかもしれません。

薬剤の投与経路にも工夫の余地があり、10年ほど前から腹腔内化学療法の研究が進められています。腹腔内化学療法は、抗がん剤を腹腔の中に直接入れることで腹膜内のがんを小さくする治療です。胃がん本体の制御や腹膜以外への転移を防ぐ観点から、全身化学療法(従来の化学療法)と組み合わせて行う必要があります。わが国では臨床試験の結果、惜しくも通常の化学療法に対する明らかな優越性を示すことができず、現時点では日常的に行うことはできません。

腹腔内化学療法は先進医療として胃がんだけでなく、膵臓がんの分野でも治験が行われているところです。時間はかかるかもしれませんが、いずれ新しい治療方法として活用できる日が来るかもしれません。

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    小寺 泰弘 先生

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