胃がんにおいても、最新技術による手術手技の進歩にともない、治療の選択肢が増えています。胃がん治療における最新の話題について、がん研有明病院 消化器センター 胃外科医長 熊谷厚志先生にお話しいただきました。
ダ・ヴィンチ手術とは、「da Vinci®」と呼ばれるロボットを用いた手術のことをいいます。腹部に小さい穴を数カ所開け、3本のロボットアームを手のように動かして手術を行います。腹腔鏡手術では、手術に用いる鉗子(かんし)が直線状で曲がることができないため、体内での動きが限られるというデメリットがあります。しかしダ・ヴィンチ手術では、ロボットアームを人間の手のように自由自在に動かすことができます。そのため、骨盤などの狭い空間での縫合など、細かい動きに優れているなどのメリットがあります。
またダ・ヴィンチ手術では、ロボットが術野(手術部位の視野)の保持を行ってくれます。一方、腹腔鏡手術では術者が求める術野の確保を助手がサポートしますが、術者と同様に、助手にも熟練した技術が求められます。つまりダ・ヴィンチ手術では、腹腔鏡手術の技術をもつ助手がいない環境(たとえば海外など)でも質の高い手術が行える可能性があります。
しかし、医師の育成という面から考えると必ずしも良いことばかりではありません。なぜなら、ロボットの力に頼り過ぎてしまい、若い医師が手術の技術を身につける機会を失いかねないからです。外科医としての技術を高めるためには、若いときからなるべく多くの経験を積んで勉強していくことが重要です。
センチネルリンパ節は「見張りリンパ節」と呼ばれ、がんが最初に転移するリンパ節とされています。乳がん手術においては、センチネルリンパ節に転移がなければリンパ節郭清を省略するというストラテジー(方針)が既に臨床導入されています。胃がんにもこれを導入しようという動きがあり、SNNS研究会(Sentinel Node Navigation Surgery 研究会)により臨床研究が行われました。その結果、胃がんにおいてもセンチネルリンパ節への転移がなければリンパ節郭清を省略できる可能性が示されました。
現状の胃がん手術では、がんに侵されている胃の切除と同時にリンパ節郭清を行うという手術が標準です。しかし、今後は胃の切除範囲をできるだけ小さくすると同時に、センチネルリンパ節生検によって、転移の危険性がないと判断されればリンパ節郭清を行わないという治療法が確立することが期待されます。
このように、傷を小さくするだけでなく、胃切除やリンパ節郭清の範囲を縮小し、患者さんのその後の生活への影響をなるべく小さくすることが、胃がんに対する低侵襲治療といえます。ただし、根治性を損なわないように低侵襲性とのバランスをしっかりと見極めることが今後の課題であるといえます。
北里大学医学部 上部消化管外科学 診療教授
北里大学医学部 上部消化管外科学 診療教授
日本外科学会 外科専門医・指導医日本消化器外科学会 消化器外科専門医・消化器外科指導医日本内視鏡外科学会 技術認定取得者(消化器・一般外科領域)・ロボット支援手術認定プロクター(消化器・一般外科)
慶應義塾大学 一般・消化器外科、がん研有明病院で研鑽を積み、スウェーデンのカロリンスカ大学病院、ノルウェーのハウケランド大学病院での手術指導を経て、北里大学 上部消化管外科学診療教授を務める。胃がん手術のスペシャリストである。胃がんを治すためにはどのような治療法が適切であるか、患者さんへのわかりやすい説明を常に心がけ、日々の診療に尽力している。
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