胃がんは減ってきていると考えられがちですが、胃がんにかかる方は増加しています。治療成績が向上しているために、胃がんで亡くなる患者さんの数が増えていないので、他のがんに比べて減ってきている印象を受けているのかもしれません。一言に「胃がん」といっても実に様々な進行状態があり、治療法も異なります。しかしながら他のがんと同様、定期的な検査を受けて早期発見・早期治療を行えば、治癒率や予後は良いものとなることがわかっています。本記事では、胃がんの早期発見のために重要な検査である上部消化管内視鏡検査について、山王病院副院長 外科部長の清水伸幸先生に解説していただきます。
「上部消化管」とは、聞きなれない言葉かもしれません。食道・胃・十二指腸を総称してこのように呼びます。内視鏡の発明により、患者さんの上部消化管の異常をリアルタイムに検査することが可能になりました。また、単に検査をするだけでなく、一定の大きさの腫瘍であれば内視鏡で切除することも可能になっています。内視鏡は、胃がんの早期発見に欠かせないものとなっていますが、開発当初の内視鏡は上部消化管に挿入する部分が太く、食道に挿入する際に患者さんが負担を感じるケースが少なくありませんでした。人間の喉は、異物を挿入しようとすると「咽頭反射」という反応が起きます(従来の内視鏡検査で、「おえっ」となりやすかったのはそのためです)。
検査時には麻酔(スプレー・ゲル状のものがあります)を使用しますが、内視鏡の外径はそれなりの太さがあるため、麻酔を使用しても嘔吐感をもよおす方が少なくありませんでした。最近では消化管に挿入する部分の外径が細くなっているため、以前より咽頭反射による吐き気をもよおしにくくなっています。また、鼻から内視鏡を挿入して検査を行う「経鼻内視鏡」が発明され、普及し始めています。これは、内視鏡を解剖学的に咽頭反射が発生しない部位を通過させています。
経口内視鏡検査とは内視鏡を口から食道・胃・十二指腸へ挿入し、上部消化管の状態を検査するものです。写真の画面左側に相当する細長いケーブル状の部分の先端には、CCD(撮像素子)がついています。また、写真右下は医師が内視鏡を操作するコントローラーとなっており、操作によってレンズの向きを変えたり、複雑に曲がった消化管の形に合せてケーブル状の部分を曲げて進ませ、上部消化管内の状態を詳しく観察したり記録することができるようになっています。
近年はハイビジョン画像の開発によって、消化管の状態をより鮮明に観察することができるようになっています。そのため一層正確な診断が可能になってきました。また、従来の内視鏡では見つけにくかった咽頭や食道の小さながん、鑑別が難しい胃がんの診断にも大いに役立っています。また診断だけでなく治療が行えることを先に述べましたが、これは次以降の記事「特殊な内視鏡検査と検査前後の注意点」で詳細に説明します。
経鼻内視鏡とは文字通り鼻の孔から内視鏡を入れて、食道・胃・十二小腸の検査を行うものです。内視鏡としての機能は、経口内視鏡と基本的に変わりません。しかし、鼻から挿入するため咽頭に触れることがなく、咽頭反射(「おえっ」となる状態)が起きにくいという利点があります。
ただし、デメリットもあります。鼻腔が狭くて内視鏡が挿入できない場合や、まれに検査後に鼻血がでる場合があります。また経口内視鏡に比べ、上部消化管内の全体を確認するのに時間がかかることがあります。
国際医療福祉大学 医学教育統括センター 教授、国際医療福祉大学 健康管理センター長
日本外科学会 外科専門医・指導医日本消化器病学会 消化器病専門医・消化器病指導医・学会評議員日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・消化器内視鏡指導医・関東支部 評議員日本内視鏡外科学会 会員日本胃癌学会 会員日本癌治療学会 会員日本消化器癌発生学会 代議員
東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院で、一般・消化器外科、特に上部消化管外科について学ぶ。東京大学医学附属病院で臨床を重ね、ハーバード大学Massachusetts General Hospital Research Fellow、2009年に東京大学医学部附属病院准教授に就任。2013年より現職。特に、胃がんの低侵襲手術については医師の間でも評価を集めている。
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