概要
咽喉頭異常感症とは、“咽喉頭に異常感を訴えるが、通常の耳鼻咽喉科的診察では訴えに見合うような器質的病変を認めないもの”とされています。つまり、咽頭や喉頭といった器官自体に異常がないものの、まるで腫瘍があるかのような違和感を伴う状態です。“ヒステリー球”とも呼ばれます。
発症後に原因となる病気が発見されることもあります。そのため、病名ではなく1つの症候名として捉えられています。
咽喉頭異常感症と診断される患者は男女比4:6でやや女性に多く、男性は30歳代、女性は50歳代に好発します。咽頭や喉頭の違和感を訴えて医療機関を受診する患者の数は年々増加傾向にあります。
受診動機の多くは悪性腫瘍(がん)を心配したことによるものですが、過去の診察でがんの存在を否定されて複数の医療機関を受診したり、医師に不信感を抱いたりしていることがあります。実際には、咽喉頭異常感症全体のうち悪性腫瘍がみられる頻度は1~数%程度とされています。ただし、主な症状として咽頭や喉頭の異常な感覚が現れる咽頭・喉頭のがんは15~50%にもおよぶといわれているため、放置してはならない症状といえます。
原因
咽喉頭異常感症ははっきりとした原因が分からないことも多いですが、大きくは局所的要因、全身的要因、精神的要因の3つに分けられます。
8割は局所的要因といわれ、中でも胃食道逆流症(GERD)がもっとも多く、次いで喉頭アレルギー、甲状腺疾患、頚椎疾患などが挙げられます。胃食道逆流症(GERD)や不安症状により咽頭が乾いたり、頻繁な嚥下(飲み込むこと)をしたりすることで“輪状咽頭筋”と呼ばれる筋肉の圧力上昇や、咽頭の異常な動きがみられることがあるという研究結果があります。
全身的要因としては鉄欠乏貧血、重症筋無力症、大動脈瘤、唾液分泌低下による口腔乾燥などが挙げられます。
精神的要因では、うつ病や心身症、神経症があります。患者によってはストレスや悲嘆などの特定の気分が咽喉頭異常感症を誘発する可能性があると考えられています。
症状
咽喉頭異常感症では、検査の結果に異常がないにもかかわらず、喉にしこりや腫瘍があるかのような感覚を生じます。これは、嚥下とは関係なく起こることが特徴です。
このほか、以下のような症状を伴う場合には別の病気の可能性を疑う必要があります。
- 体重が減少する
- 嚥下時の喉の痛み、詰まり、飲み込みにくさがある
- 食べたものを吐き出す(逆流)
- 首にしこりがある
- 症状が進行し悪化する
- 首が痛い
検査・診断
まず口の中や首を触診し、しこりや痛みがないかなどを確認します。さらに、喉頭鏡や喉頭内視鏡と呼ばれる器具を用いて、咽頭や喉頭の様子を直接調べます。腫瘍が疑われる場合は、エコーやCT、MRIなどの画像診断、アレルギーが疑われる場合はアレルギー検査が行われます。
咽喉頭異常感症で現れる症状は、胃食道逆流症、食道狭窄、びまん性食道けいれんのほか、重症筋無力症、筋ジストロフィーなどの骨格筋障害でもみられることがあるためこれらの病気との鑑別が必要です。
咽頭や喉頭に明らかな異常がみられない場合は、胃食道内視鏡検査、胸部X線検査などが行われます。
治療
個々の状態や症状に応じ、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、半夏厚朴湯などの漢方薬、向精神薬などが用いられます。
プロトンポンプ阻害薬は胃酸の分泌を抑える作用があり、本来は胃食道逆流症に有用な薬ですが、咽喉頭異常感症に対しても胃食道逆流症との鑑別目的で、診断的治療として処方されます。
半夏厚朴湯は、検査結果では異常が確認されないものの、喉の違和感がある場合に有効とされています。
予防
一部では胃食道逆流症などほかの病気との関連性が示唆されているため、咽頭や喉頭の違和感に気付いたら医療機関を受診することが重要です。
また、患者によってはストレスによって症状が誘発されたり悪化したりすることもあるため、深呼吸や適度な運動などによってストレスの解消を心がけることも有効です。
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