食道静脈瘤を放置していると、あるとき突然破裂や大出血を起こす可能性があります。ですから、検査で食道静脈瘤が発見されたら早急に治療を行い、食道静脈瘤を除去することが大切です。治療では主に内視鏡による食道静脈瘤硬化療法(EIS)と食道静脈瘤結紮術(EVL)が行われます。本記事では、これら2つの具体的な治療方法や治療の選択基準、治療に伴い起こりうる合併症について、記事1に引き続き秋田大学大学院医学系研究科消化器内科学・神経内科学講座教授の飯島克則先生にお話しを伺いました。
※食道静脈瘤の発症メカニズムや破裂の危険性については、記事1『食道静脈瘤とは?早期に治療を受けなければ破裂する危険性も』をご覧ください。
左:食道静脈瘤の内視鏡像 右:内視鏡観察下に静脈瘤に針を刺して硬化剤を注入しているところ(EIS)
食道静脈瘤硬化療法(EIS)とは、内視鏡(先端にカメラがついた管)で観察しながら静脈瘤に直接針を刺し、血管を傷害する薬剤(硬化剤)を注入して、食道静脈瘤の血管を潰し固める治療法です。
EISで使用する薬剤は非常に強力で毒性が強いため、門脈を通じて全身へ回ると大変危険です。(EISに伴う合併症については後述で詳しく解説します。)
ですから、食道静脈瘤にきちんと薬剤が入っているか、またどのくらい注入できたかをレントゲンで確認しながら慎重に行います。
EISで使用する薬剤はモノエタノールアミンオレイン酸塩とポリドカノールの2種類があります。モノエタノールアミンオレイン酸塩は血管内に注入する目的で使用し、ポリドカノールは血管外に注入する目的で使用します。
血管内に注入するモノエタノールアミンオレイン酸塩は、血液の流れを止める必要があるので、ポリドカノールに比べて組織傷害性や毒性がより強い薬剤です。
治療ではまずモノエタノールアミンオレイン酸塩を注入して血管内を固めます。患者さんによってはモノエタノールアミンオレイン酸塩の注入のみで治療が完了することもありますが、通常はそのあとにポリドカノールを血管外に注入します。
ポリドカノールを注入して血管の外側もしっかり固めることで、食道静脈瘤の再発の確率を下げることができます。
EISの治療に伴う入院期間は約1ヶ月です。先にも述べたように、EISで使用する薬剤は毒性が強く、一度の治療でたくさんの薬剤を注入すると全身に薬が回る危険性があるため、たくさんの量を注入することができません。
ですから、食道静脈瘤が2〜3個並んだものが3本あるとすると、1本ずつ週に1回程度のペースで間隔を空けて静脈瘤を潰していきます。
左:食道静脈瘤に対してゴムバンドをかけた(EVL)直後の像 右:EVL後数日経った像(ゴムバンドをかけた静脈瘤は、血液が固まり、黒色、白色に変色している)
食道静脈瘤結紮術(けっさつじゅつ:EVL)は、内視鏡で直接確認しながらゴムバンドをすべての静脈瘤1つ1つにかけていき、血流を遮断する治療法です。
ゴムバンドがかけられた静脈瘤は1〜2週間残っていますが、血液の流れが止まっているため、最終的には腐り、静脈瘤ごと朽ち落ちます。静脈瘤があった部分は平坦化され、ゴムバンドは便を通じて排出されます。
EVLは手術の難易度がEISに比べて容易であることも特徴です。
EVLの治療に伴う入院期間は約2〜3週間です。EVLはEISと違い薬剤を注入する必要がないので、一度の治療ですべての静脈瘤に対して治療をすることができます。そのためEISと比較して短い入院期間で治療を行うことができるのです。
ただしEVL治療後の検査で確認すると、静脈瘤の血流が遮断されずに腐らないでそのまま残存してしまっていることがわかる場合があります。その場合には追加でEVLを行う必要があるため、予定されていた入院期間よりも伸びてしまう可能性もあります。
EVLに比べてEISのほうが再発率は低いため、基本的にはEISが治療の第一選択となります(ただし、各医療機関が得意としている方を選択される場合も多いです)。
EVLはEISに比べて入院期間も短く手技も簡単なのですが、食道静脈瘤の根元まで血管を詰めることができないので、再発する確率が高くなります。
一方EISは、入院期間は長くなりますが強力な薬剤を使用して食道静脈瘤の根元から固めることができるため、EVLと比べて再発率が低いのです。
この再発率の違いから、EISを行うことができる医療機関であればEISを行うと考えます。
食道だけでなく噴門部(食道から胃につながる部分)まで静脈瘤がつながっている場合にはEISによる治療を選択します。
噴門部の粘膜は食道の粘膜よりも分厚く、EVLでゴムバンドを噴門部の静脈瘤にかけようとしても、ゴムバンドが外れてしまいます。だからといって、食道部の静脈瘤にだけゴムバンドをかけてしまうと、噴門部側の静脈瘤の圧力が上昇して破裂する危険性があるのでEVLを行うことができません。
こうした理由から、食道と噴門部の静脈瘤が続いている場合には、EISで静脈瘤の血管を固める治療を行います。
肝予備能(肝臓の機能が保たれている程度)が低下している場合はEVLを行います。
肝予備能が低い状態の肝臓にEISで使用する硬化剤が流入してしまうと、腹水が貯留するなどの悪影響をもたらします。
また、食道静脈瘤がEISで使用する注射針を刺せないほど小さく細いときには、EVLによる治療を選択します。
食道静脈瘤に血流の逃げ道となる血管が認められた場合、はじめからEISを行ってしまうと、そこから硬化剤が全身に流れる恐れがあります。
それを防ぐために、まず血流を止めたい食道静脈瘤に対してピンポイントにEVLを行います。ゴムバンドで血流が遮断されたことを確認したら、EISを通常の手順で行います。
また上述のような場合でなくても、EVLだけでは効果不十分であると判断したときには、EVLを行ったあとにEIS(ポリドカノールによる血管外注入)を行い、ゴムバンドで縛った静脈瘤を外側から固める治療をすることもあります。
このように、EISとEVLは場合によっては同時に行われることもあります。
繰り返しになりますが、EISで使用する硬化剤は非常に強力なため、硬化剤が全身に流れることが最も危険です。
たとえば、硬化剤が腎臓へ流れると腎機能障害、肺に流れると肺塞栓、脳に流れると脳梗塞といった合併症を引き起こす可能性があります。
これらの合併症を防ぐために、EISを行う医師はレントゲンを確認しながら硬化剤の過剰投与に注意する必要があります。ただし、注入量が少ないと再発する可能性が高くなるので、適量を注入することが大切です。
そのほか、食道潰瘍や食道狭窄、発熱や胸痛が起こることもあります。
EVLに伴い合併症が起こることは非常に少ないと考えます。ゴムバンドで静脈瘤を縛ることによる軽度の胸部違和感を訴える方はいますが、時間が経つにつれて違和感も徐々に消えていきます。
記事1『食道静脈瘤とは?早期に治療を受けなければ破裂する危険性も』でお伝えした通り、食道静脈瘤の原因の多くは肝硬変による門脈圧亢進症です。EIS・EVLといった治療は、肝臓そのものに対する治療ではないため、患者さんの多くは残念ながら治療後も高い確率で食道静脈瘤を再発しています。
再発を防ぐために大切なことは、肝臓をできるだけよい状態で保つことです。肝硬変の原因は、ウイルスやアルコールなど患者さんによって異なりますが、私は肝硬変の原因にかかわらず、禁酒を徹底するよう患者さんに伝えています。
また、肝臓の治療を自己中断せずしっかり受けていただき、食道静脈瘤の治療後は定期的に内視鏡検査で再発の有無を確認することも大切でしょう。
秋田大学大学院医学系研究科 消化器内科学・神経内科学講座 教授
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