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早期消化器がんに対するESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)とは?

早期消化器がんに対するESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)とは?
大圃 研 先生

NTT東日本関東病院 消化管内科・内視鏡部 部長

大圃 研 先生

目次
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早期の食道がん胃がん十二指腸がん大腸がんなどの消化器がんには、内視鏡で行うESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)という治療が適応となる場合があります。ESDは身体的負担が少ないうえに、適応となる患者さんであれば完治を目指すことが可能です。NTT東日本 関東病院の消化管内科には全国から多くの患者さんが来院し、一般的にはESDが難しいとされている十二指腸がんに対してもESDを実施しています。

今回は消化管内科、内視鏡部の両部長である大圃研先生にESDについてお話を伺いました。

ESD(Endoscopic Submucosal Dissection:内視鏡的粘膜下層剥離術)とは、内視鏡*を用いてがんのある部分の粘膜下層までを剥離(はくり)し、がんを一括切除する治療法です。食道、胃、十二指腸、大腸の早期消化器がんが対象です。

ESDは外科手術のようにお腹を切開したり、臓器の一部を取り除いたりする必要もなく、患者さんにかかる身体的負担が少ないことが特徴です。また、後述する適応症例であればESD後の局所再発の可能性は極めて低く、実際に当院で2011年〜2019年に実施した胃ESDのうち、局所再発した例は一例もありません。

*内視鏡…体の内部を観察・治療する医療器具

消化管の壁は表面から順に「粘膜、粘膜下層、筋層…」と大きく分かれており、がんが進行するにつれて、表面から奥深くに向かってだんだんと浸潤(しんじゅん)(がんが広がっていくこと)していきます。

このとき、がんの浸潤が粘膜下層の表面付近にとどまっていれば、ESDでの治療が可能です。しかし、粘膜下層の深くまで浸潤している場合、粘膜下層を通っている血管やリンパ管を通じて、がんがほかの臓器やリンパ節に転移している恐れがあります。このような場合にはESDではなく、がんの切除と同時に、転移の可能性があるリンパ節の切除を行う外科手術を行う必要があります。

それでは、当院におけるESD(早期胃がんの場合)の流れをお話しします。

NTT東日本 関東病院の内視鏡室
NTT東日本 関東病院の内視鏡室

治療当日は朝から絶飲、絶食で持続点滴を行います。体の酸素濃度や脈拍、血圧、心電図を測る機器を手足に装着します。

ESDの具体的な方法は以下の通りです。

  1. まずはがんの周囲に電気メスでマーキングをします。
  2. がんの下の粘膜下層に液体を注入し、がんを盛り上げて切開しやすくします。
  3. マーキングを目印に、がんの全周を特殊な電気メスで切開します。
  4. がんの裏側の粘膜下層を剥離し、がんを内視鏡で回収します。
  5. 切除面が出血している場合には、術後出血の予防のために止血します。

治療時間は、がんの大きさや部位によって異なりますが、通常30分~3時間程度です。治療は静脈麻酔を使用して行うため、眠っているような状態の間に治療が終了します。

EDS2

NTT東日本 関東病院のリカバリールーム
NTT東日本 関東病院のリカバリールーム

治療後は静脈麻酔から完全に覚めるまでの間、リカバリールームでお過ごしいただきます。急変時に迅速な対応を行うために心電図モニターを装着します。

その後、3時間ほどベッド上安静としています。経過が順調であれば、治療翌日の昼から食事(流動食)を開始し、1日ごとに通常の食事内容に戻していきます。

ほとんどの場合、退院後はすぐに日常生活を送ることができます。運動を避けていただければ、職場への復帰は問題ありません。治療後の自覚症状はほとんどありませんが、治療した部分の潰瘍(かいよう)が完全に治るまでには、一般的には約2か月かかります。退院時に処方された薬はきちんと飲んでいただくことが大切です。

当院では、早期胃がんに対して経鼻内視鏡による(鼻から内視鏡を挿入する)ESDを実施しています。

先ほどお話ししたように、通常の早期胃がんのESDは口から内視鏡を挿入して行うため、苦痛を緩和するための静脈麻酔をかけた状態で行います。しかし高齢の患者さんの場合、静脈麻酔の負担によって合併症を引き起こすリスクが高くなります。そのため、胃がんと診断されても、積極的な治療を諦めざるを得ないケースは少なくありません。

一方、経鼻内視鏡によるESDは、静脈麻酔によって鎮静をかける必要がないため、高齢の患者さんであってもESDによる治療を検討することが可能です。治療時間も一般的には約20〜30分で終了します。他院でESDができないといわれた患者さんに遠方からも来院していただいています。

内視鏡手術であるESDは狭い空間での繊細な操作を要するため偶発症*が起こることもあります。特徴的なものとしては、出血と穿孔(せんこう)(穴が開くこと)があります。

*偶発症…ある検査や処置に伴って起こる別の症状

出血は術後24時間くらいまでの時間がもっとも発症頻度が高く、突然に吐血や下血が起こることがあります。出血が起きた際には、内視鏡を使って止血処置を行います。内視鏡で止血できない場合には緊急に外科的な手術を要するケースもありますが、当院ではこれまで緊急手術となった症例はありません。

穿孔は、術後に治療部位に穴が開いてしまうことを指します。穿孔が起きた場合には内視鏡で処置を行います。当院における穿孔の発症はごくまれで、胃のESDにおける穿孔の発症率は0.85%です(2019年度実績)。

大圃先生

私たちは、消化器がんに対してトップレベルの内視鏡検査・治療を提供することを目指しています。ESDに関しては患者さんにかかる負担ができるだけ少なくて済むよう、スピーディーな治療を行い、偶発症の発症も最小限に抑えられるように努めています。

冒頭でもお話ししたように、ESDはESDの適応となる早期消化器がんの患者さんであれば完治を目指すことのできる治療です。当院での治療を希望される患者さんは、近隣の病院からの紹介状(診療情報提供書)を持参のうえ、お気軽にお越しください。

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