前の記事「胃がんの手術-外科治療における腹腔鏡手術の有用性と課題」で、胃がんにおける腹腔鏡手術の有用性と今後の課題について述べました。本記事では、胃がんの内視鏡手術と薬物治療の現状についてがん研有明病院 消化器センター 胃外科医長 熊谷厚志先生にお話しいただきました。
胃がんの治療には、外科治療・内視鏡治療・薬物療法があります。外科手術において腹腔鏡が用いられるなどの進歩があるように、内視鏡治療や薬物療法も同様に進歩しています。内視鏡治療は、内視鏡の先端から出す器具を用いて、胃にできた腫瘍を切除する治療法です。これまで切除が難しかった大きな腫瘍なども切除が可能となり、内視鏡治療の適応範囲が広がってきています。
また、内視鏡治療で切除した腫瘍(組織)を顕微鏡で検査し、その結果を過去の胃がんのデータと照らし合わせます。そうすることで、今回切除した腫瘍のリンパ節転移の危険性が判断できます。リンパ節転移の危険性が低い場合は、外科手術でリンパ節郭清(がんの周辺にあるリンパ節を切除すること)を行わずに、内視鏡的切除のみで治療を終わらせることができるケースも増えてきています。このように、内視鏡治療の進歩は不必要な外科手術を行わないことにつながるとともに、患者さんの負担も減らすことができます。
薬物治療においても有効な薬が出てきています。しかし、現状は薬のみで胃がんを根治するという段階にまでは至っていません。内視鏡手術や薬物治療は確実に進歩しているものの、当面は胃がんの標準治療は外科手術であろうと考えています。
食道がんでは、根治を目指した集学的治療が進んでいます。集学的治療とは、内視鏡治療や外科手術などの複数の治療法を組み合わせた治療です。胃がんも食道がんを追随するように、化学療法を用いた集学的治療が進んでいます。たとえば、傍大動脈領域(みぞおち付近の高さ、背骨のすぐ前を走る大きな血管)のリンパ節に転移があるような胃がんはステージⅣと診断され、外科手術では根治が難しいとされていました。しかし、先刻行われた臨床試験では、傍大動脈領域のリンパ節に転移が疑われるような場合でも、手術前に化学療法でがんを小さくしてから外科手術を行うと、良い成績が得られるという結果が報告されました。
それを受け、近年の臨床の現場ではCT検査で傍大動脈領域のリンパ節が腫れていて転移が疑われる場合でも、緩和的な化学療法(症状を緩和するための化学療法)ではなく、腫瘍を小さくする目的で術前化学療法を行い、外科手術で切除するという方針に変わりつつあります。これは傍大動脈領域のリンパ節に限らず、もう少し胃に近い領域のリンパ節(2群リンパ節)に3cm以上の大きな転移がある場合も同様です。このようながんはいきなり手術をしても成績が不良でしたが、上述の臨床試験で手術前に化学療法を行うことで良好な成績が得られることが示されました。
北里大学医学部 上部消化管外科学 診療教授
北里大学医学部 上部消化管外科学 診療教授
日本外科学会 外科専門医・指導医日本消化器外科学会 消化器外科専門医・消化器外科指導医日本内視鏡外科学会 技術認定取得者(消化器・一般外科領域)・ロボット支援手術認定プロクター(消化器・一般外科)
慶應義塾大学 一般・消化器外科、がん研有明病院で研鑽を積み、スウェーデンのカロリンスカ大学病院、ノルウェーのハウケランド大学病院での手術指導を経て、北里大学 上部消化管外科学診療教授を務める。胃がん手術のスペシャリストである。胃がんを治すためにはどのような治療法が適切であるか、患者さんへのわかりやすい説明を常に心がけ、日々の診療に尽力している。
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