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にゅうがん

乳がん

最終更新日:
2024年09月09日
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概要

乳がんとは乳房に発生する悪性腫瘍(しゅよう)です。

乳房は女性に発達している器官であり、豊富な脂肪組織の中に乳汁分泌を担う乳腺が含まれています。この乳腺は、乳汁を作る機能を持つ小葉と乳頭をつなぎ、乳汁の通り道となる乳管で構成されています。

乳房の構造(提供:PIXTA)

乳がんの約90%は乳管から発生する乳管がんです。小葉から発生する乳がんは小葉がんと呼ばれます。このほかにも粘液がん、管状がん、腺様嚢胞(せんようのうほう)んといった乳がんもありますが、あまり多くはありません。また、ごくまれに乳腺が発達していない男性でも乳がんを発症することもあります。

乳がんは30歳代から増加し始め、40歳代後半から50歳代前半の女性に起きやすく、50歳代後半以降では徐々に減少する傾向があります。

原因

乳がんの発症に関しては解明されていない部分もありますが、現時点では以下の因子との関連が考えられています。

エストロゲン

乳がんのがん細胞は、エストロゲンと呼ばれる女性ホルモンの影響で増殖します。

女性の体に起こる月経、妊娠、出産にはエストロゲンとプロゲステロンの2つの女性ホルモンが大きく関わっています。

女性の月経周期におけるホルモン変化としては、月経~排卵の間はエストロゲンの分泌が多く、排卵~次の月経開始まではプロゲステロンの分泌が多くなります。妊娠中や出産時はエストロゲンとプロゲステロンの両方の分泌が高くなるため、生涯に経験する月経回数が多い(初経年齢が早い、閉経年齢が遅い、出産歴がない、初産年齢が高い)方では妊娠・出産を経験している方よりも相対的にエストロゲンが分泌される期間が長くなり、乳がんを発症するリスクが高くなると考えられています。

生活習慣

乳がんの発症リスクを高める生活習慣としては、過度の飲酒、喫煙、閉経後の肥満、運動不足などが挙げられます。また、食生活の欧米化に伴い、脂質の多い食べ物を取りすぎることも乳がんの発症リスクを高めると考えられています。

遺伝子変異(病的バリアント)

現在分かっている上記の要因とは関係なく、遺伝するタイプの乳がんもあります(遺伝性乳がん)。

全ての乳がんの5~10%は何らかの遺伝が関わっているとされているため、同じ家系内に乳がんを発症した方がいる場合には注意が必要です。

遺伝性乳がんの約半数は、“BRCA1”または“BRCA2”という遺伝子の変異が原因となる遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)といわれています。HBOCは30 歳代の若い年齢で乳がんを発症し、乳がんと卵巣がんの両方を発症しやすいことが特徴です。

BRCA1あるいはBRCA2遺伝子に変異がある方は、乳がんや卵巣がん以外のがんも発症しやすい傾向にあります。ただし、特定の遺伝子に異常があったとしても、全ての方が乳がんを発症するわけではありません。また、遺伝子変異がなければ乳がんを発症しないというわけでもありません。乳がんの発症に関しては全てが解明されているわけではないため、遺伝子異常の解釈については慎重になる必要があります。

症状

乳がんの代表的な症状には乳房内のしこりが挙げられます。そのほか、乳房の皮膚の変化やリンパの腫れなどがみられます。

乳房のしこり

気が付きやすい症状の1つに乳房のしこりがあります。しこりの表面はでこぼこしていて動きにくいものが多く、強く押してもあまり痛みは感じません。

ただし、乳房にしこりができる病気は乳がん以外にも多数あるため、検査による鑑別が必要です。

乳房の皮膚の変化

乳がんが進行すると、乳房を形作る周辺組織にも病変が広がり、乳房の見た目に変化が生じます。

主な変化には乳首の陥没、皮膚のただれ、エクボのようなくぼみなどがあります。また、乳頭から血が混ざった分泌液が出ることもあります。

しこりなどの症状はなく、皮膚に発赤・痛みが生じる乳がんは“炎症性乳がん”と呼ばれます。

リンパの腫れ

乳がんが乳房の近くにあるリンパ節に転移した場合、(わき)の下のリンパが腫れ、しこりが生じることがあります。また、リンパ節への転移によってリンパの流れが悪くなると、腕のむくみやしびれが生じることもあります。

検査・診断

乳房にしこりができる乳がん以外の病気と鑑別するために、問診や視診・触診、画像検査などを行います。

マンモグラフィ

マンモグラフィは乳房のX線撮影のことをいい、手で触っただけでは診断できない小さなしこりや、しこりになる前の石灰化した微細な乳がんがないかを確認する画像検査です。40歳以上の女性に対して推奨されており、乳がん検診でも中心的な役割を果たしている検査です。

若い方は高濃度乳房(乳房に対する乳腺の濃度が高い状態)が多く、マンモグラフィ検査の有効性が低いため、主に超音波検査を行います。

超音波検査(エコー検査)

乳房に超音波を当て、乳がんの有無を調べる検査です。しこりの大きさや周囲のリンパ節への転移の有無も確認します。

細胞診・組織診

検査の結果から乳がんの可能性が強く疑われた場合、細胞診・組織診を行い、診断を確定します。

細胞診・組織診とは、病変部位から採取した細胞・組織を詳しく調べることをいい、この検査を行うことによって治療選択にも役立ちます。

CT・MRI検査

乳がんと診断され治療方法を検討するときには、X線を用いたCTや、磁気を用いたMRIなどの画像検査を行います。これらの検査では乳房内にがんが広がってないかを確認します。

治療

乳がんの治療は病変の広がりや病変組織の細胞の特徴などをもとに、手術治療・放射線治療・薬物療法を組み合わせて行います。

手術治療

手術治療とは乳房の一部、あるいは全てを切除する治療です。

がんが大きかったり、複数のしこりがあったりする場合には、乳房全体を切除することが必要です。その場合、手術を行った後にお腹や背中から採取した脂肪組織やシリコンインプラントなどを用いて、乳房を新たに造る手術(乳房再建手術)を行います。

また、乳がんの転移先としては腋の下のリンパ節がもっとも多く、転移の有無を確認するために手術中に腋の下のリンパ節の一部を採取するセンチネルリンパ節生検という検査を行います。この検査でがんの転移がみられた場合には、必要に応じてリンパ節の切除を行います。

2020年4月より、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)と診断され、乳がんや卵巣がんを発症している方に対しては、がんの発生を予防することを目的とした予防的対側乳房切除術や予防的卵管卵巣摘出術が保険適用になりました。

放射線治療

放射線治療は、放射線を照射することによってがんを小さくしたり、痛みを和らげたりする治療です。

初期~中期の乳がんでは手術後に行われるほか、手術を行わない中期~後期のがんでも行うことがあります。また、転移したがんの治療にも用いられます。

薬物療法

乳がんの薬物治療には、ホルモン(内分泌)療法、化学療法(抗がん薬)、分子標的治療などさまざまな治療方法があり、がんの性質や進行度、年齢や本人の希望を考慮して治療法を決定します。

初期~中期の乳がんでは手術後に行われるほか、中期の乳がんでは必要に応じて手術前にがんを小さくする目的などで行うことがあります。また、手術を行わない中期~後期のがんや転移したがんの治療にも用いられます。

分子標的薬をはじめとする治療薬の種類が増加し、乳がんの治療の選択肢は広がってきました。今後もさらなる治療の進歩が期待されています。

ラジオ波焼灼療法

2023年12月より腫瘍径1.5cm以下の限局性早期乳がん患者に対してIVR(画像下治療)によるラジオ波焼灼療法*(radiofrequency ablation:RFA)が保険適用になり、治療選択肢の1つとなりました。ラジオ波焼灼療法とは、乳房内の腫瘍に針を刺し、ラジオ波電流で腫瘍に熱を与えて壊死(えし)させる治療法です。

予防

乳がんの予防には発症リスクとなる飲酒・喫煙などの生活習慣を控え、適度な運動を行って肥満を避けることが大切です。定期的に乳がん検診を受け、がんの早期発見に努めましょう。

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