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公開日 : 2016 年 12 月 28 日
更新日 : 2017 年 05 月 08 日

浸潤性乳がんの治療-手術と抗がん剤治療、それぞれの目的

東京医科大学 乳腺科 主任教授
石川 孝先生

浸潤性乳がんを治すためには、多くの場合切除手術だけでなく、術前・術後に薬物療法も行う必要があります。術前・術後療法では、具体的にどのような薬剤が使われるのでしょうか。また、乳房の切除手術は何を基準として、「部分切除」と「全切除」にわかれるのでしょうか。東京医科大学病院乳腺科主任教授の石川孝先生に、乳がん治療の流れとそれぞれの治療法の詳細についてお伺いしました。

乳がん治療の流れ-全身治療と局所治療の目的を理解しよう

乳がんの治療には、全身治療と局所治療があります。

全身治療は、ホルモン療法や化学療法、抗HER2療法のことを指し、腫瘍の縮小や体内からがん細胞を消し去ることを目的として、術前もしくは術後に行います。

局所療法とは、手術と放射線治療を指し、腫瘍のみを切除もしくは縮小させる目的で行います。

術前の抗がん剤治療・抗HER2治療でがんが完全に消失することもある

術前検査により乳がんの性質から抗がん剤が必要と判断したときには(記事1参照:乳がんの種類と治療-ステージのみで手術法や薬剤は決まらない)、個々に応じた薬物治療(抗がん剤治療・抗HER2治療)を行います。これらの治療により、手術時の病理診断でがんが消失する症例も多く、将来確実な診断法が確立されれば、薬物治療のみで治療するという選択肢も出てくると考えられます。

ホルモン療法は術前や対側乳がんの予防目的では行わない

ただし、全身治療のうち、ホルモン療法を術前に行うことは、臨床の場ではほぼありません。また、術後に対側乳がんの予防目的だけに行うことはありません。

女性ホルモンの分泌を抑えることには、デメリットやリスクもあります。ホルモン療法とは、閉経前の患者さんの生理を止め、閉経後の患者さんの女性ホルモンレベルを更に引き下げるような治療です。これにより、ホルモン受容体陽性の乳がんの増殖を止めることができますが、女性ホルモンには「骨を守る」など重要な役割もあるため、骨粗鬆症のリスクが上がり、ホルモン剤そのものの副作用が問題になります。

ホルモン療法に使用する薬の種類によっては、血栓症や、中性脂肪値の上昇、肝機能障害などの重い副作用もあります。

ホルモン療法は、最低でも5年間続ける治療ですので、得られるベネフィットが薬剤のデメリットを上回る場合に、術後療法として成り立ちます。

天秤

乳がん手術の基本は部分切除

乳房温存術とは、部分切除術と放射線治療の組み合わせ

乳がんの手術の基本は「部分切除」です。腫瘍をできるだけ遺残なく取り除き、可能な限り術前の乳房に近い状態に戻すこと、これこそ、私たちが手術手技の面で最も重視していることであるといっても過言ではありません。

部分切除術した後には、残った乳房に放射線を照射します。部分切除と放射線照射をあわせて「乳房温存術」と呼びます。

乳がんの手術で乳房全切除をする場合とは?根治性と整容性

しかし、「温存」といっても、乳房が術前とほとんど変わらない状態で保たれるわけではありません。切除部位や手術手技によっては、術後の乳房の状態は大きく変わります。乳がん手術の基本は部分切除であることに変わりはありませんが、中には部分切除よりも全切除後に乳房再建術を行ったほうが、「整容性(見た目)」がよいという場合もあります。

私たち乳腺外科医は、「根治性」に最も重きを置き、その次に「整容性」を重視して治療法を提案しますが、患者さんの中には「根治性が多少落ちても構わないから、整容性を維持してほしい」と訴える方もおられます。

また、部分切除後の放射線治療に抵抗があり、全切除を希望する患者さんもいらっしゃいます。

整容性を追求したいという患者さんの手術の場合は、形成外科の先生と共に行います。これは、形成外科のある専門施設ならではの利点といえるでしょう。

ただし、乳房再建術にも当然リスクやデメリットがありますので、形成外科の医師を交えた、慎重に話し合いは不可欠です。

(関連記事:「乳腺科医と形成外科医が再建の知識と技術を持ち連携がとれた乳房再建術」を重視した東京医科大学形成外科の取り組み 東京医科大学病院 形成外科 小宮 貴子先生)

乳房を全切除しなければ十分な根治性が得られない乳がんもあります。たとえば、がんが多発している場合や、浸潤性小葉がんの伸展範囲の診断が難しい場合などが挙げられます。

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東京医科大学 乳腺科 主任教授

石川 孝先生

東京医科大学乳腺科にて主任教授を務める。多様性に富んだ「乳がん」の治療を専門とし、患者さん一人ひとりの病状と希望を正確に把握した上で、最適な治療を提供することを信条としている。一人でも多くの患者さんを救うべく、トリプルネガティブ乳がんのサブタイプ化などを研究テーマとし、乳がん治療を前進させるために日々尽力している。

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