

記事1『肝臓がん手術 30年間のあゆみ』では、肝臓がん手術の効果や歴史、幕内先生との出会いについてお話を伺いました。次に、中でも難易度が高いとされる「高山術式」について現在の肝臓がん治療の成果を交え、引き続き日本大学附属板橋病院の高山忠利先生にお話いただきました。
前回、肝臓を8つに分け、その1つ1つのブロックを切除する「幕内術式」手術のお話をしました。この8つのブロックは1番地である「尾状葉」を芯として、2〜8番地がその周りについたような配置をしています。
ほんの1〜2%ほどの確率で、1番地と呼ばれる面積の小さな芯の部分「尾状葉」にがんができてしまうことがあります。今まではここに肝臓がんができてしまうと肝臓の左右いずれかとまとめて尾状葉を取る以外の方法がなく、臓器が半分になってしまうため、肝臓の働きが悪い患者さんにとっては肝不全などの合併症が発生します。
その結果、肝機能の悪い人の尾状葉にがんができてしまうと、今までは手術ができませんでした。しかし「高山術式」の確立によって、肝機能の低い患者さんでも、低いリスクで手術を受けることができるようになったのです。

「高山術式」は別名「肝臓の高位背方切除」といい、肝臓の表面に手をつけずに奥深くにある尾状葉(1番地)だけを取り除く手法です。
実はこの手術方式の発見は偶然の産物でした。先ほどご説明したように、当時の肝臓がん治療は1番地と呼ばれる尾状葉に腫瘍が発見された場合、手術はできないとされ別の治療を選択するのが主流でした。
しかし1992年、CTなどの結果から肝臓の7番地にできたがんだと思い手術に臨んだところ、実際開腹してみるとその奥の1番地に腫瘍があり、ここで引き返すこともできず、必死に目の前のがんを取り除いた結果、初の尾状葉の単独全切除をなし得ました。これが「高山術式」誕生のきっかけでした。
医学論文の世界は常にスピード勝負なので、私は同様の手法がないことを確認し、すぐに論文を作成しました。当時はインターネットの普及も今ほどではなく、かたっぱしから手作業で論文を調べたことを今でも覚えています。一週間で英語の論文を書き上げ、投稿しました。1994年にはアメリカの外科学会雑誌に論文が掲載され、国際的な認知が広がりました。

革新的な方法をみつけたとはいえ、尾状葉にがんができた患者さんに必ず「高山術式」が必要とは限りません。患者さんの肝機能がよければ、私は従来と同じく肝臓の左右どちらかと一緒に尾状葉を切除してしまいます。なぜなら、この「高山術式」手術は非常に難易度が高いからです。
私が尾状葉にがんができた患者さんに説明するときは、肝臓全体を「りんご」に例えて話します。「尾状葉」をりんごの芯として、2~8番地をりんごの実の部分に例えると、この「高山術式」はいわば「りんごの芯抜き手術」というイメージです。肝臓の中央部に位置し、血管もより集中していますので、周りを傷つけずに取るには通常の手術の2倍、10時間以上もの時間がかかります。大切なのはいかに患者さんにとって、安全で有益な手段を選ぶかだと思っています。
高山術式の対象となる患者さんは、確率でいえば「肝臓がん患者の100人に1人」ですが、全国から患者さんがいらっしゃるので、かなりの数の手術をこなしてきました。中には全く関連のない大学病院から患者さんを紹介されることもあります。
当初は2,000ccほど出ていた出血も、今は少なければ300ccほどで済むまでになりました。これは自分自身の経験による技術の進歩とチームプレーによる成果だと感じています。難しく手間のかかる手術なので大変な思いもしますが、手術を任されると期待されていると感じて身の引き締まる気持ちにもなります。
このような背景から当院では手術の回数も多く、私のほかにもこの手術ができる若手の医師が2〜3名います。若い医師にもどんどん経験を積んで、学んで欲しいと考えています。

肝臓がんは5大がんの中で、患者数や死亡数が最も減っているがんといわれています。その理由は「予防」「診断」「治療」の3つが飛躍的に進歩したからです。
まず予防に関しては、肝臓がんが珍しく「原因のわかっているがん」である点が大きいでしょう。1990年、肝臓がんの原因であるC型肝炎ウイルスが発見されたことにより、肝炎に効くよい薬がどんどん開発されるようになりました。
もちろん肝炎のウイルスがなくても肝臓がんになる可能性はあります。しかし、肝炎のウイルスによって過剰になっていた発がんリスクが減少したことは、大きな変化です。
次に診断技術の発展です。先にも述べた「CT」と「超音波」の発達が功を奏し、肝臓がんが明確に早期発見できるようになりました。がんのサイズが2cm以下の小さいうちに位置が正確にわかれば、手術で切除する範囲も小さくて済みます。
最後に手術を含めた治療技術の発達です。30年前は生死をかけて行われた手術も、今では術式が安定し、出血量も減り、胃がん・大腸がんの手術とは? 適応や手術方法についてくわしく解説に並んでそう危険ではなくなってきました。
私自身、この30年間の発展を肌で感じてきました。このような進歩に貢献できたことを非常に光栄に感じています。
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