大腸がんの治療法は、がんがどのステージにあるかによって異なります。早期大腸がんで切除が可能な症例には内視鏡治療や外科手術が、切除困難な症例には化学療法や放射線療法が行われることが一般的です。大腸がんのさまざまな治療法について、渡邉純先生に教えていただきました。
大腸がんの治療には、内視鏡治療・外科手術・化学療法・放射線療法などがあります。適切な治療法はステージによって異なり、患者さんの状態に合わせて複数の方法を組み合わせて治療を行います。
内視鏡治療とは、肛門などからカメラと光源のついた管を通し、大腸の内部をカメラで観察しながら、がんを切除する治療法です(内視鏡治療については記事7で詳しく述べます)。
外科手術(開腹・腹腔鏡)は、体内からがんを直接取り除くための方法です。「記事1」で説明したように、大腸がんは「結腸がん」と「直腸がん」の大きく2つに分けられ、それぞれでいくつかの手術方法があります。
結腸がんに対する手術では、がんのある部位から10cm程度離した部分まで、腸管を腫瘍ごと切除します。腫瘍を取り除いたら、残った腸管同士を縫い合わせてつなげます。結腸がんの手術方法は、切除する腸の場所と範囲によって以下のように分けられます。
〈手術方法〉
ステージによってはリンパ節に転移している可能性があるため、腸管近くにある腸管傍リンパ節や、腸管に流入する血管に沿った中間リンパ節、その血管の根元に存在する主リンパ節を併せて切除するリンパ節郭清も行われます。
後述の直腸がん手術とは異なり、結腸がんに対する外科手術では、手術後の排便障害や排尿障害が起こることはほとんどないとされています。
直腸がんに対する手術では、腫瘍の位置や大きさによっても異なりますが、いずれも腫瘍周囲の組織あるいは腫瘍前後の腸管を切除し、切除部分を縫い合わせてつなぎます。
〈手術方法〉
手術の際、排便や排尿、性機能を制御する神経、肛門なども合わせて切除することがあります。肛門を含めて切除する場合には人工肛門造設が必要となります。
化学療法とは、抗がん剤を用いてがん細胞を死滅させたり、がん細胞の増殖速度を抑えたりすることをねらう治療方法です。抗がん剤の投薬方法は内服と注射の2つがあります。
化学療法には、主に2つの目的があります。
1つめの目的は、手術後の再発予防です。外科手術によってがんを切除したといっても、目には見えない小さながん細胞が残っている可能性はゼロではありません。残存したがん細胞が再び増殖することで、再発を引き起こします。このような再発を防ぐための抗がん剤投与による治療を、術後補助化学療法(アジュバント療法)と呼び、再発の可能性が高いステージII以上の患者さんに適応されます。
2つめの目的は、手術が困難な場合や再発した場合のがんの進行抑制です。最近では、術前化学療法(ネオアジュバント療法)と呼ばれる方法で投薬を行うことがあります。これは、いきなり外科手術を行っても根治が期待できない大きさのがんに対して、はじめに化学療法を行うことで、がんの縮小やステージの低下をねらうものです。化学療法の効果が出れば、その後に外科手術を組み合わせて行い、根治をねらいます。
放射線療法は、非常に大きなエネルギーを持ったX線や電磁波(γ線など)をがん細胞に照射することで、がん細胞のDNAを傷つけて破壊し、増殖を抑えることをねらった治療方法です。照射時には、がん細胞周辺の正常な細胞にも照射が及び、一時的に正常細胞に影響を与えますが、時間の経過とともに元の状態に回復します。
また近年では、切除困難な再発直腸がんに対して、放射線を照射する範囲を調整することで正常組織への被ばくを避けながら、がんのみに高線量を照射する「強度変調放射線治療(intensity modulated radiotherapy:IMRT)」が利用できるようになっています。強度変調放射線治療では、小腸などの大腸がんに隣接する正常臓器への放射線量を抑えるとともに、がん病変部への放射線量を集中的に増加させることが可能となります。
放射線の照射目的は2つあります。
1つめの目的は、直腸がんに対する手術前の腫瘍の縮小とそれに伴う肛門温存手術の適応を目指すことです。また、手術後の再発を抑制することも目的として行われます。
2つめの目的は、骨転移など、切除が困難な末期大腸がんによる痛みや出血などの症状を緩和することです。
最近では、手術後再発した直腸がんに対し、X線に比べてより高い線量を当てることができる「炭素イオン線(重粒子線の一種)」による治療法が検討されています*。今後は炭素イオン線を用いた放射線療法における有効性と安全性を追求するために、臨床試験を進めていく必要があります。
*局所再発大腸がんに対する重粒子線治療は「先進医療」に該当し、重粒子線治療に関する費用は全額自己負担(314万円)です。治療を受けるにあたり発生するそれ以外の費用は保険適用となります(2019年11月時点)。
ステージ0やステージIの軽度浸潤*の大腸がんでリンパ節転移の可能性がほとんどなく、なおかつ腫瘍を内視鏡にて一括で切除できると判断される場合は、内視鏡治療が行われます。
*軽度浸潤:がんが粘膜下層に1mm未満で広がっていること。
ステージIでも切り取れないほどの大きさまたは高度浸潤**のみられるがんである場合や、ステージII、IIIに進行しておりリンパ節転移の可能性が高いと判断されるような場合には、外科的な手術が必要になります。
外科手術では、通常、開腹手術もしくは腹腔鏡下手術を行い、がんおよび転移している可能性のあるリンパ節を併せて切除します。手術で実際のステージが診断されたら、術後に追加で化学療法を行うことがあります。
**高度浸潤:がんが粘膜下層に1mm以上広がっていること。
ステージIVまで進行した大腸がんは、基本的には外科手術で大腸がんおよび転移部分を切除することになります。手術が難しい場合は、化学療法や放射線療法が行われます。
(大腸がんのステージについては記事3で詳しく述べています)
また、いずれの治療も困難な場合には、がんによる痛みや気分の落ち込みなどを緩和することを目的とした治療が行われます。
外科手術、抗がん剤を用いた化学療法、放射線療法のいずれも合併症を生じる可能性があります。よって、治療中だけでなく治療前から医師とよく相談しながら、大腸がん治療を進めていかなければなりません。
また、がんを切除したからといって、手術後に再発や転移が起こらないとは限りません。がん切除後の大腸がんの再発率は、ステージによっても異なりますが、ステージIでは5.7%、ステージIIでは15.0%、ステージIIIでは31.8%ともいわれています1。また、大腸がん再発の約8割は手術から3年以内といわれており、特にこの期間の経過観察が重要です。
さらに、がん細胞がリンパや血液の流れに乗り全身に散らばると、ほかの臓器で新たにがんが発見される可能性もあります。ステージが進んでいればいるほど、再発や転移の可能性も高まるため、手術後も抗がん剤の服用や放射線療法などを継続したり、定期的にフォローアップ検診を受けていただいたりする必要があります。
1大腸癌治療ガイドライン医師用2019年版(大腸癌研究会・全国登録 2007年症例)
関西医科大学医学部 下部消化管外科学講座 主任教授
関西医科大学医学部 下部消化管外科学講座 主任教授
日本消化器外科学会 消化器外科専門医・消化器外科指導医・消化器がん外科治療認定医日本外科学会 外科認定医・外科専門医・指導医日本消化器病学会 消化器病専門医日本大腸肛門病学会 大腸肛門病専門医・大腸肛門病指導医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・消化器内視鏡指導医日本臨床腫瘍学会 暫定指導医
世界も認める大腸がん腹腔鏡手術のニューリーダー
大腸がんの腹腔鏡手術を専門とする消化器外科医。
少年時代に受けた胸腔鏡手術の経験から医学の可能性を見出し、医師を志した。
患者さんへ最良の手術を提供することを信念に、腹腔鏡手術を中心に大腸がん治療を提供。
内視鏡手術の技術認定医であり、その技術力の高さは国際的にも定評がある。
これまで述べ1,500例を超える腹腔鏡手術を執刀。
横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器病センター 外科 准教授を経て、2024年より関西医科大学医学部 下部消化管外科学講座 主任教授に就任。
渡邉 純 先生の所属医療機関
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