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インタビュー

大腸がん手術における機能温存と腫瘍学的な治療の両立

大腸がん手術における機能温存と腫瘍学的な治療の両立
(故)渡邉 聡明 先生

東京大学 腫瘍外科・血管外科 教授、東京大学医学部附属病院 大腸・肛門外科および血管外科 科...

(故)渡邉 聡明 先生

この記事の最終更新は2016年04月18日です。

  1. 大腸がんの中でも発生頻度の高い直腸がんの手術では、狭い骨盤内に重要な血管や神経が張り巡らされているため、排便・排尿機能や性機能が障害される場合があります。東京大学腫瘍外科・血管外科教授の渡邉聡明先生は、大腸がんにおける腹腔鏡手術のエキスパートとして、患者さんの負担が少ない低侵襲な手術を追求するとともに、機能を温存しながらがんをより確実に治す治療に取り組んでおられます。機能温存の面でも期待される手術支援ロボット「da Vinci®」の可能性について、渡邉聡明先生にお話をうかがいました。

骨盤に囲まれた狭い空間で、非常に自由度の高い鉗子(かんし・ロボットアームの先に装着された手術器具)を使えるので、手術が行いやすくなります。特に腹腔鏡では到達しにくいような奥のほうであっても、ロボットアームには関節機能があるので到達しやすいという利点があります。

このようなロボット支援下手術の利点から我々が期待しているのは、側方郭清(そくほうかくせい)に有効なのではないかというところです。側方郭清というのは狭い骨盤内の入り組んだところや細かい血管のあるところで、腫瘍の転移を防ぐためにリンパ節を郭清(全てを取ること)することをいいます。そういった処置を行うときには、やはり関節の自由度が高い道具を使うことが、腹腔鏡に比べると行いやすいのではないかという期待があります。

また、ロボットで側方郭清を行うと神経の走行(動き)をより詳しく見ることができます。神経を傷つけることなく完全に残して機能障害を回避できれば、たとえば術前の放射線照射をせずにロボット手術に置き換えることが可能なのではないかという意見もありますが、たしかにその可能性もゼロではないでしょう。

しかし、ロボットで非常に繊細な手術が可能になったとはいえ、何らかの処置を行う以上、神経への影響がまったくないとは言い切れません。術前放射線照射では骨盤内の神経に一切触ることがないので、それが原因で神経の機能を損なうことはありません。ロボット手術で側方郭清を行なえば、神経を温存できるため影響は少なくなるといわれていますが、神経にまったく触らないというところまで精密にできるかどうかはわかりません。

ロボット手術は導入されてからまだ歴史が浅いため、その点についてはまだ細かいデータが揃っていません。しかし、方向性として機能障害をより少なくするために、ロボット手術が有用な選択肢になる可能性はあります。もちろん、腹腔鏡で手術がやりにくい部分については、ロボット手術が期待されるところです。

神経を傷つけてしまうと排尿・排便に支障をきたすことがありえますし、男性の場合は勃起や射精などの性機能も考慮しなければなりません。

かつて1970〜80年代の頃には、がんを治すためにはある程度の障害が残ってもやむを得ないという考えが中心でした。つまり拡大手術(がんを完全に治すために、がんの病巣部・周辺のリンパ節・組織も切除すること)を行って腫瘍学的にがんを治すことが優先され、そのために機能が犠牲になることがあっても仕方がないという時代だったのです。

しかし、その後手術自体がより低侵襲になっていくと同時に、そういった機能障害をできるだけ回避して機能を残そうという方向に時代が移り変わってきました。現在ではできるだけ機能を残して、なおかつ腫瘍学的にもがんを治せる手術、この両方を目指すという時代になってきています。

その中で重要なのが腹腔鏡であり、ロボットであり、術前放射線照射もそのひとつです。そういった位置づけの中で、我々は患者さんのために新しい術式や医療用画像機器を最大限に活用しています。

我々は手術となればどんな状況であれ、患者さんのために最善を尽くしますが、何よりも大切なことはまず早期発見です。その意味で便潜血検査大腸がんを見つける上で非常に重要であり、すべての方が必ず受けるべき検査です。

しかし一番の問題は、便潜血検査で陽性になったときに大腸内視鏡の精密検査を受けない方が多いということです。その受診率はおよそ半分といわれています。つまり、便潜血検査で陽性の結果が出た方のうち、その半分はがんがあったとしても見逃されている可能性があるということです。

これは大変残念であり、もったいないことです。便潜血検査で陽性の結果が出たときには必ず精密検査を受けることをおすすめします。

  • 東京大学 腫瘍外科・血管外科 教授、東京大学医学部附属病院 大腸・肛門外科および血管外科 科長、東京大学医学部附属病院 副院長

    日本外科学会 外科専門医・指導医日本消化器外科学会 消化器外科専門医・消化器外科指導医・消化器がん外科治療認定医日本大腸肛門病学会 大腸肛門病専門医・大腸肛門病指導医日本消化器病学会 消化器病専門医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・消化器内視鏡指導医日本内視鏡外科学会 技術認定取得者(消化器・一般外科領域)日本消化管学会 胃腸科専門医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医

    (故)渡邉 聡明 先生

    大腸がん・直腸がんにおける腹腔鏡手術のエキスパート。患者さんの負担が少ない低侵襲な手術を追求し、ロボット支援下での手術にも取り組んでいる。また、がんの根治性と安全性を確保しつつ、排尿・排便機能や性機能を温存してQOL(生活の質)を維持するため、術前化学放射線療法の併用も行っている。大腸癌研究会では「大腸がん治療ガイドライン」の作成委員会の委員長を務めた。

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