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インタビュー

直腸がんにおけるISRの有用性-肛門機能の温存が可能

直腸がんにおけるISRの有用性-肛門機能の温存が可能
伊藤 雅昭 先生

国立がん研究センター東病院 大腸外科長、 国立がん研究センター/ 先端医療開発センター 手...

伊藤 雅昭 先生

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この記事の最終更新は2016年04月13日です。

直腸がんの手術では、肛門を切除してその結果、永久的な人工肛門が必要となる場合があります。しかし、近年はなるべく人工肛門を避けて肛門の機能を温存するISR(括約筋間直腸切除術)という方法が広まっています。本記事では、ISRとは何か、その有用性と課題について国立がん研究センター東病院 大腸外科長ならびに先端医療開発センター 手術機器開発分野長の伊藤雅昭先生にお話しいただきました。

直腸がんのなかでも肛門に近い場所(多くは肛門から指をいれて指が届く範囲)にできた直腸がんでは、肛門ごと広く切除して永久的な人工肛門をつくる手術法が1908年から約100年のあいだ標準治療とされてきました。この手術法はマイルス医師が提唱したことから、マイルス手術(直腸切断術)と呼ばれています。その後1994年にオーストリアのウィーン大学のシーセル医師が括約筋間直腸切除術(ISR)の治療成績を発表しましたが、それまでの約100年間は、直腸がんは肛門ごと広く切除しないと治らないと考えられていたのです。

括約筋間直腸切除術(ISR)
括約筋間直腸切除術(ISR)

括約筋間直腸切除術(ISR)とは、永久的な人工肛門を避けるために、肛門括約筋(肛門を締める筋肉)のうち内側の括約筋である内肛門括約筋を切除して、残りの結腸と肛門を縫い合わせる手術です。

通常は外側の括約筋である外肛門括約筋は温存します。直腸がんにおいては、切除する範囲を狭くして肛門の機能を温存すればするほど、局所再発(がんを切除したあとに同じ部位に再発すること)が起こる可能性が高くなり、がんの根治性を落としかねません。しかしながらマイルス手術のように、がんから何センチも離れている範囲までも余分に切除する必要がないということも近年わかってきました。

現在は、少なくともがんから2ミリ程度離して切除すれば、根治性も担保できるというデータが出てきており、不必要に広く切除する必要はないということが分かってきました。繰り返しになりますが、がんの根治性の観点で考えると切除部分を増やせば増やすほどよいというのは確かに言えることですが、余分に多く切除する必要はないというのも事実です。このように、根治性と肛門の機能温存のバランスをとりながらISRは広まってきました。

ISRは私の前任である国立がん研究センター東病院の齋藤典男医師と久留米大学白水和雄教授によって、1999年に日本で初めて行われました。直腸がんに対しては永久人工肛門の手術しかなかった時代に、肛門を残すというISRは非常に画期的な手術でした。それゆえ、当時はこの手術が安全に根治的に行うことができるのか、残る肛門の機能はどのくらいなのか、という点が大きな議論となっていました。

その疑問に答えるために、2003年から110例の患者さんを対象に臨床試験を行いました。その結果、従来の肛門をすべて切除してしまうマイルス手術とISRの治療成績はほぼ同等でした。また手術後、肛門の機能回復には2年程度要するものの、70%の患者さんが比較的満足した肛門機能が保てることがわかりました。しかしISRを行った患者さんのうち約7%の方に、毎日便が漏れるという症状が起こってしまいました。その後、このような肛門の機能が回復しない患者さんを減らすための対策が考えられました。

ISRによって肛門機能が回復しない方を減らすために、現在3つのアプローチがあります。1つは、手術前に肛門機能の回復が悪い方を予測し、そのような方にはISRを避けるという方法です。機能の回復が悪いとされているのは、男性・手術前に放射線治療を行う方・括約筋を多く切除する必要がある方です。これら3つの要素がある場合、ISRを行っても肛門機能が回復しないことがわかっているため、患者さんにはきちんと説明したうえで、ISRかマイルス手術(永久人工肛門)を選択するか話し合います。

2つめは、バイオフィードバックや薬物療法などの保存的治療です。バイオフィードバックとは、肛門内圧を計測する装置を肛門に挿入し、計測結果を視覚的に確認しながら、肛門を締めるのに必要な力の入れ方を体で覚えるというものです。ただし、保存的治療だけでは改善が見られない場合は「仙骨神経刺激療法」と呼ばれる肛門のペースメーカーのような装置をお尻に埋め込む方法を行います。これが3つめのアプローチです。日本では2015年の4月に保険収載されました。仙骨神経に刺激を与えることで、肛門を締める効果があります。国立がん研究センター東病院では、毎日便が漏れるような方に対する補填療法として7名の患者さんに行いました。そのうち、約半数の方の肛門機能が改善されています。

(※関連記事:国際医療福祉大学教授・山王病院外科副部長の高尾良彦先生の記事「便失禁の外科治療をめぐる最新の話題」

たとえISRを受けて肛門の機能が回復しない場合でも、上記のようなアプローチを用いて機能回復を目指します。すべての方がISR後に肛門の機能が回復するようなアプローチを今後も研究する必要があると考えています。

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  • 国立がん研究センター東病院 大腸外科長、 国立がん研究センター/ 先端医療開発センター 手術機器開発分野長 、株式会社A-Traction 取締役、日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会 ストーマ認定士

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