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大腸がんの手術治療―内視鏡治療・腹腔鏡手術

大腸がんの手術治療―内視鏡治療・腹腔鏡手術
渡邉 純 先生

横浜市立大学附属市民総合医療センター 消化器病センター外科 講師

渡邉 純 先生

目次
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記事4」では、大腸がんの治療法についてひとつずつ解説しました。本記事では大腸がんの治療法のうち、内視鏡治療および腹腔鏡手術の種類と方法、合併症などについて詳しく説明していきます。引き続き、横浜市立大学附属市民総合医療センター 消化器病センター外科 講師の渡邉純先生に教えていただきました。

内視鏡治療―開腹がなく低侵襲

早期大腸がんにおける内視鏡治療

大腸内視鏡は、本来、大腸の中を観察して大腸がんの有無や進行の程度を確認するために用いられるものです。ただし、大腸壁の粘膜で進行が留まっているステージ0の早期大腸がん、あるいは粘膜下層まで進行しているステージⅠの進行大腸がんでも比較的浸潤*が浅い場合にも、内視鏡を用いた治療が行われます。内視鏡治療は、早期大腸がんの第一選択肢となっています。

*がんが周辺器官に染み出るように直接広がること。

内視鏡で大腸がんを切除する方法とは?

内視鏡治療では、小型のカメラを肛門から挿入し、大腸の内部および患部を直接画像として映し出しながら患部を特定、同様に肛門から挿入した小型の手術器具を用いて腫瘍を切除します。大腸の粘膜には神経が通っていないため、腫瘍部分を切除しても痛みを感じることはなく、開腹手術に比べて体への負担も小さいことが特徴です。

内視鏡で大腸がんを切除する方法は、腫瘍の形や大きさによって異なり、大きく分けて「ポリペクトミー」、「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」、「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」の3種類があります。

ポリペクトミー・EMR・ESDそれぞれの治療方法
ポリペクトミー・EMR・ESDそれぞれの治療方法

ポリペクトミーと内視鏡的粘膜切除術(EMR)は外来で対応可能です※が、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は数日の入院が必要となります。

※場合によっては、内視鏡的粘膜切除術(EMR)でも入院が必要となることがあります。

ポリペクトミー

ポリペクトミーは、腫瘍が2cm未満で、なおかつキノコのような形(粘膜から細い茎が形成されていて、その先に太い傘(腫瘍部)がある)をしている場合に用いられます。

ポリペクトミーによる治療は、内視鏡の先端から出る細い金属の輪(スネア)をキノコ状の腫瘍の茎の部分に引っ掛け、スネアでその茎の部分を縛り、高周波電流を流して腫瘍を茎の部分ごと焼き切ります。

内視鏡的粘膜切除術(EMR)

内視鏡的粘膜切除術(EMR)は、腫瘍部分に茎が形成されていない場合に用いられます。スネアを使用するため、ポリペクトミー同様、対象となる腫瘍の大きさはおよそ2cm未満となります。

内視鏡的粘膜切除術による治療では、まず内視鏡の先端から出る注射器で粘膜下層に生理食塩水などを注射し、腫瘍を固有筋層から持ち上げて腫瘍と粘膜の間に茎となる部分を形成します。そして、その茎の部分にスネアを引っ掛けて縛り、高周波電流で焼き切ります。

腫瘍を一括で切除できないような大きさのがんが対象となる場合は、分割して腫瘍を切除する「内視鏡的粘膜分割切除術(EPMR)」が行われます。分割すること以外は、基本的には内視鏡的粘膜切除術(EMR)と同じ治療方法といえます。

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は、内視鏡的粘膜切除術(EMR)では切除することが困難な大きさの腫瘍(最大径2cm以上の早期大腸がん、2cm以下で線維化を伴う早期大腸がん)を切除する場合に適応となります。

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)による治療では、全身麻酔を行い、内視鏡的粘膜切除術(EMR)同様に生理食塩水などを腫瘍の下に注射して腫瘍を固有筋層から持ち上げ、電気メスを使って粘膜下層を剥離し切り取ります。

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は、主に胃がんの治療に用いられ、大腸がんで用いられることはまだそれほど多くありません。その理由は、大腸壁が胃壁よりも屈曲していて、なおかつ薄いゆえに、穿孔(大腸壁に穴が開く)や出血で腹膜炎などの合併症のリスクが高くなるためです。その一方で、ポリペクトミーや内視鏡的粘膜切除術(EMR)に比べて、小さな腫瘍の取り残しが少ないというメリットがあります。

当院では、早期大腸がんに対しても内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を導入し、積極的に実施しています。治療後に再発した病変や、潰瘍性大腸炎に併発した大腸がんに対しても、適応可能な症例に対しては内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を行う場合があります。

進行大腸がんに対する外科手術―開腹手術と腹腔鏡手術

進行大腸がんへの手術には、腹部を大きく切開する開腹手術と、腹部にあけた数か所の小さな穴から内視鏡や手術器具をそれぞれ挿入して行う腹腔鏡手術があります。腫瘍の進展、部位や医師の熟練度などを総合的に判断して、患者さんにとって、もっとも適切な手術方式が選択されます。

患者さんの体への負担が小さいとされる腹腔鏡手術では、内視鏡を操作し組織を拡大してみることができるため、細かい作業が可能であるといった利点があります。その一方で、たとえば進行大腸がんの場合は腫瘍の広がりや位置(特に骨盤の中にある直腸)によっては腹腔鏡手術での対応が難しいことがあります。

大腸がんに対する腹腔鏡手術の詳細は、記事7で詳細に解説しています。

進行大腸がんに対する具体的な手術の方法と流れ

手術中の画像1
手術中の画像1
手術中の画像2
手術中の画像2

結腸がんの手術

結腸がんの手術では、腫瘍だけではなく、がんが広がっている可能性がある周辺組織および周辺臓器も、安全のために併せて切除します。切除後は、残っている腸管同士を縫い合わせてつなぎます。腸管を縫い合わせることができない場合には、人工肛門を造設します。

切除範囲や切除術は、腫瘍が結腸のどの部位にあるかによって決まります。

具体的には、以下の術式があります。

回盲部切除術

右下腹部にある盲腸と回腸(小腸)の中間部位にあたる回盲部にある腫瘍を切除します。

結腸右半切除術

右側腹部にある盲腸や上行結腸の間にある腫瘍を切除します。

結腸左半切除術

左側腹部にある下行結腸にある腫瘍を切除します。

横行結腸切除術

右結腸と左結腸をつなぐ横行結腸にある腫瘍を切除します。

S状結腸切除術

下行結腸末端と直腸上部を結ぶS字型の屈曲した結腸にある腫瘍を切除します。

直腸がんの手術

直腸がんの手術も、腫瘍のある場所や進行の程度などから切除範囲や切除術が決まります。直腸は肛門の直上から15cm程度奥の場所にあり、骨盤に囲まれた狭い場所に位置すること、生殖器や泌尿器に関連した自律神経が存在していることなどから、結腸がんの手術に比べると難易度が高いとされています。術式としては以下があります。

直腸局所切除術

切除範囲を最小限に抑えた術式で、肛門は切除せずに温存することが可能な術式です。リンパ節郭清を行わない場合もあります。

前方切除術

直腸S状部や上部直腸にある腫瘍を切除します。前方切除術は、次の3つに分けられます。

  • 高位前方切除術:直腸の腹膜反転部より上で腸をつなぐ方法。
  • 低位前方切除術:直腸の腹膜反転部より下で腸をつなぐ方法。
  • 超低位前方切除術:下部直腸の腫瘍に対し、肛門から2cm程度直腸を残して切除する方法。肛門を切除せずに温存することが可能。

直腸切断術(マイルズ手術)

肛門付近にある腫瘍を切除します。直腸と併せて肛門も切除し肛門部を縫合するため、人工肛門が必要となります。

括約筋間直腸切除術(ISR)

肛門付近にある腫瘍を切除する術式です。肛門の開閉に必要な筋肉のうち内肛門括約筋を一部切除しますが、その外側にある外肛門括約筋の切除は必要ないため、肛門を温存することができます。ただし、内括約筋の一部切除により、肛門機能がある程度低下することは避けられず、排便障害が生じることもあります。

進行大腸がんに対する手術の合併症

進行大腸がんの手術に伴う合併症の種類はさまざまで、出血や縫合不全、吻合部狭窄、膿瘍、腸閉塞、感染症、排便・排尿障害、性機能障害などが挙げられます。手術後に合併症が現れるかどうかは、症状や選択した術式などによっても異なると考えられます。

出血

手術中に生じる出血の量は手術の難易度に比例し、早期大腸がんよりも進行大腸がん、また結腸がんよりも直腸がんで多くなります。手術時の閉創前止血確認(傷を閉じる前に止血できているかチェックすること)はもちろん行われますが、それでも手術後に再出血する場合があります。再出血量が多い場合は輸血、あるいは再手術での止血が必要となります。

縫合不全

手術では、腫瘍およびその周辺の腸管を切除した後に腸同士を縫ってつなぎあわせます。このつなぎ目から腸液などの腸内容が漏れ出して、周囲に感染や炎症が広がり、腹痛や発熱を生じることがあります。軽症であれば食事制限と点滴治療で治癒が期待できますが、炎症が強い場合や重症化した場合などでは、縫合部の上流の腸管に一時的な人工肛門を作成し、縫合部の治癒を待つことになります。

吻合部狭窄(ふんごうぶきょうさく)

吻合部(腸管同士を縫ってつないだ部分)に生じる一過性の炎症などが原因で吻合部が狭くなることがあります。このような状態になると便の通過に支障をきたして、満腹感や食欲不振、嘔気、嘔吐などの症状が現れます。吻合部狭窄は、吻合部の拡張処置や再吻合の手術を受けることで改善が期待できます。

腸閉塞

腸同士や腸と腹壁が癒着することで起こります。満腹感や食欲不振、嘔気、嘔吐、腹痛などの症状が現れます。食事制限と点滴治療、また鼻からチューブを挿入して胃液や腸液を排出することで改善が期待できます。

感染(症)

手術の創(傷)に細菌が付着して化膿すると腫れや痛み、発熱などの症状が現れます。手術中には感染防止のための装具を使用したり、抗生物質の投与を行ったりしますが、大腸は細菌を多く含む便が通るため、ほかの消化管手術よりも感染のリスクが高くなります。感染による症状の多くは抗生物質の投与や創を開放して排膿を図ることで改善します。

排便障害

直腸切除後に肛門を温存した場合でも、排便の様子に変化が現れます。もっとも顕著な症状は、排便回数の増加と分節排便(短時間の間に複数回の排便を生じる)です。また、便を溜める能力の低下などで便失禁が起こる場合もあります。多くの場合は、手術後から数か月で自然に改善します。

排尿障害

直腸がんを手術した際の自律神経の損傷によって起こる障害です。排尿ができなくなったり、残尿が増加したりします。自己導尿(自分で尿道カテーテルを用いて採尿する)が必要な場合もありますが、排尿障害も手術後から数か月で自然に改善することが多いです。

性機能障害

排尿障害と同様で、手術時の自律神経の損傷によって引き起こされます。男性の勃起・射精障害が主な症状です。手術後から数か月で改善する場合もありますが、永久的に障害が残る場合もあります。