札幌医科大学医学部消化器・免疫・リウマチ内科学講座の仲瀬裕志先生は、サイトメガロウイルスと大腸がんとの関連や、炎症性腸疾患の病態の研究をすすめていらっしゃいます。最新の研究についてお話をうかがいます。
潰瘍性大腸炎の患者さんのなかでもサイトメガロウイルスが悪さをする場合、慢性的に持続するか炎症を繰り返す方が多いことがわかっています。その方たちは、局所でサイトメガロウイルスが再活性化しやすい状況になっており、内視鏡で見た様子はきれいでも、実は炎症はなくなっていない状態です。火は消えているのに、熱はまだ残っている状態とイメージしていただくとわかりやすいでしょう。動物での実験によると、同じような腸の状態ではIL-6やIL-17、TGF-βの値が高いことがわかっています。熱の源になっているこれらの物質はTNFaなどと同じ炎症性サイトカインで、発がんに関わります。そのため、これら3つのサイトカインの慢性的な炎症ががんを引き起こすと考えると、その炎症をより大きくするサイトメガロウイルスもがんを引き起こす原因のひとつかもしれません。ですから、このウイルスを持っている方で再活性化しないようにコントロールすることは発がんの抑制につながると考え、現在研究をすすめています。
2012年、私が所属していた京都大学医学部附属病院の研究チームは、英国のランセット誌に家族性地中海熱遺伝子の異常が炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)によく似た病気を発症することを報告しました。さらに、一錠のコルヒチン投与でびらんの消失と炎症性ポリープの著明な減少が認められることがわかったのです。そこで推測されたのは、同じ症状でもアジアと欧米では病気の起こりが異なる、病態の違う病気が存在するのではないかということです。つまり、アジアでは腸疾患の一部が「家族性地中海熱遺伝子によって起きている」可能性があり、日本で「炎症性腸疾患」と診断された方のなかに、この「家族性地中海熱遺伝子による腸疾患」の患者さんが隠れているのではないかということが少しずつわかってきたのです。
医師や研究者は、長く欧米のデータを参考に炎症性腸疾患の治療を行ってきました。炎症性腸疾患という病気は、欧米に圧倒的に多いからです。しかし、もちろん欧米と同じ病態で発症しているケースはあるものの、トルコからシルクロードに乗ってやってきた家族性地中海熱遺伝子のように、アジアに特異的な病態をはじめとして腸に炎症を起こす病態はもっとたくさん存在する可能性があります。また、家族性地中海熱は、従来消化管に病変は起こらず、子どもにしか発症しない病気と考えられていました。ですから、今後の炎症性腸疾患の治療においては、小児科や感染症科など腸の病変とは一見関係ないとも思われる他科との連携も、より重要になると考えています。同じ病気に見えても、本当にそうであるか疑う姿勢を忘れず、鑑別のためのアナムネ*の重要性を再周知する時期が来ていると感じています。
アナムネ・・・患者さんの既往歴を追うこと。既往歴とは、病歴や飲んでいる薬とその経過、ライフスタイル、最近の食事内容まで及ぶ。
札幌医科大学附属病院 消化器内科 教授
札幌医科大学附属病院 消化器内科 教授
日本炎症性腸疾患学会 副理事長日本消化器免疫学会 理事日本小腸学会 理事日本高齢消化器病学会 理事日本内科学会 評議員・総合内科専門医・指導医日本消化器病学会 財団評議員・消化器病専門医・消化器病指導医・炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン作成委員会副委員長・北海道支部 幹事日本消化器内視鏡学会 社団評議員・消化器内視鏡専門医・消化器内視鏡指導医
炎症性腸疾患の病態研究における第一人者の一人。炎症性腸疾患とサイトメガロウイルスの関連などの研究のみならず、消化器内科分野における外科、放射線科、化学療法部との密接な協力体制により患者さんのよりよいQOLのための高度先進医療を目指す。
仲瀬 裕志 先生の所属医療機関
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