肝硬変とは、肝臓が炎症と修復を繰り返すうちに徐々に硬くなった状態です。記事1『肝硬変の原因・症状』では、肝硬変の原因と症状についてご説明しました。肝硬変が進行すると、さまざまな合併症が起こる可能性があります。本記事では、肝硬変の合併症とその治療について、山形大学医学部の上野義之(うえの よしゆき)先生にお話を伺います。
肝硬変が進行すると、以下の合併症(ある病気が原因となって起こる別の症状)が起こることがあります。
・腹水:
おなかに水が溜まり、体重が増加します。腹水が進行すると胸に水が溜まり(胸水)、呼吸に障害が起こることがあります。
・肝性脳症:
肝機能障害によって肝臓で分解されるべき毒素や有害物が血液に流れ、脳の症状をきたします。たとえば、人柄が急に変わる、意味不明なことをいい出す、行動パターンが急激に変化する、羽ばたき振戦(羽ばたくように手が震える症状)などの症状があります。場合によっては昏睡状態に陥ることもあるため、注意が必要です。
・食道静脈瘤:
食道粘膜下層の静脈がこぶのように腫れる症状です。肝硬変によって肝臓に血液が流れにくくなると、肝臓を迂回して心臓に戻ろうとする血液の流れができ、その血液量が増えると、静脈瘤(こぶのように腫れた静脈)になります。
静脈瘤が破れた場合、食道内に出血が起き、口から大量に吐血することがあります。重症の場合、生命にかかわることがあるため、注意が必要です。
・血小板減少による出血傾向:
肝臓が硬くなると、脾臓(ひぞう)から肝臓へ血液がうまく流れず、脾臓が大きくなります。血小板(止血作用を持つ、血液の細胞成分の一種)には、血液を凝固させる働きがあります。
肝硬変によって肝臓でつくられるトロンボポエチン(血小板をつくる機能を促す)が減少し、また、血小板を壊す脾臓の機能が促進することによって、血小板が減少し、出血傾向(出血すると止まりにくい状態)があらわれます。
・肝がん:
肝硬変が進行すると、肝がん(肝細胞がん)の発症リスクが高まります。日本人の肝がんは、肝硬変から進行したものが非常に多いといわれています。
人は通常、排泄物(尿や便)によって老廃物を体外に出しますが、肝臓の機能が低下すると老廃物の排出がうまくできなくなります。
すると、代わりに腎臓がその機能を引き受けることで、老廃物の排出という機能を保持します。(このように、特定の部位・機能が障害されたとき、残存する組織が変化して不足分を補ったり、別の器官がその機能を代行したりすることを、代償機能といいます。)
しかし、代償機能によって腎臓に長い時間負担がかかると、急性腎不全(急激に、腎臓の機能が大幅に低下した状態)を起こし肝腎症候群に陥ることがあります。肝硬変から肝腎症候群になった場合の5年生存率は、10%弱と報告されています。1)このように、肝硬変によって何らかの合併症が発症した場合、生命予後が悪化することがわかっています。
肝硬変の初期には合併症はほとんど起こらないと考えられます。しかし、時間の経過とともに合併症の発症リスクは上がります。
合併症の発症を抑えるためには、肝硬変の原因をコントロールすることがもっとも重要です。たとえばアルコール性肝硬変の場合、アルコールの摂取をやめることで、(アルコールの摂取をやめなかった場合よりも)症状の進行を遅らせ、ケースによっては合併症の発症を抑えることができます。
肝硬変の合併症には、それぞれ以下の治療を行います。
・腹水:
塩分制限を行います。
・肝性脳症:
肝硬変の合併症として肝性脳症がある場合には、血中のアンモニア値が上昇するのを防ぐために、お通じを改善します。また、異常な細菌が繁殖するのを防ぐために、特殊な抗菌薬(細菌を殺したり、増殖を抑えたりする薬)を投与します。
・食道静脈瘤:
静脈や静脈瘤が破れるのを防ぐために、硬化療法(血管内に硬化剤を注入し、静脈瘤を硬化させてつぶす方法)を行います。
・血小板減少による出血傾向:
肝硬変の合併症として起こる血小板減少に対する治療は、確立されていません。
そのため、肝硬変の原因をコントロールし、症状を悪化させないことが重要です。
・肝がん
肝硬変が肝がんになるのを防ぐためには、とにかく早期発見と治療開始が望まれます。肝硬変と診断された場合、少なくとも年に4回ほどの頻度で、血液検査と、CT(X線を使って体の断面図を撮影する検査)やMRI(磁気を使い体の断面を写す検査)、超音波検査などの画像診断を行います。
肝硬変に対する食事療法では、カロリーを摂りすぎず、バランスよく栄養をとることがもっとも重要です。以前は、肝硬変の食事療法ではタンパク質の制限を推奨していました。
しかし継続的な低タンパク食は筋肉の萎縮につながり、結果的に歩行が困難になったり、サルコペニア(筋肉量の減少による身体機能の低下)を起こしたりすることがわかっています。そのため、肝硬変の食事療法では基本的にバランスよく栄養をとることが推奨されています。
肝硬変で肝機能が低下すると一度に代謝できる糖の量が減ります。
そのため、1回の食事量を少なめに調整する、食事の回数を小分けにする(たとえば1日に4〜5回)などの方法で血糖値の急激な上昇を抑え、肝臓の負担を軽減します。
肝硬変の治療中は主治医の指導のもと、食事療法に加えて、代償期には適度に運動負荷をかけることも大切です。不明な点、気になることがあれば遠慮せずに主治医に質問しましょう。
肝硬変と診断されても、諦める必要はありません。以前は、肝硬変は不可逆的に進行する病気であり、肝疾患の終末像といわれていました。
しかし、2018年現在では、原因に対する治療がなされて肝硬変から慢性肝炎(肝臓の炎症が6か月以上持続する)程度の状態にまで改善する症例も増えています。肝硬変の原因をしっかりとコントロールすることができれば、肝臓の線維化の状態を回復することは可能ですから、希望を持って治療を続けましょう。
肝硬変に対する治療法や食事療法は、日々進歩しています。もし肝硬変と診断されたら、主治医とよく相談し、患者さんにとって最善の治療法を選択していきましょう。
出典 Planas R et al.: Clin Gastroenterol Hepatol, 4 (11), 1385-94, 2006
山形大学 医学部内科学第二講座(消化器内科学) 教授
山形大学 医学部内科学第二講座(消化器内科学) 教授
日本肝臓学会 肝臓専門医・肝臓指導医日本消化器病学会 消化器病専門医・消化器病指導医日本内科学会 総合内科専門医・内科指導医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・消化器内視鏡指導医日本移植学会 移植認定医
消化器・肝臓病を専門分野とする。Seminars in Liver Disease, Journal of Gastroenterology, Hepatology Research, Hepatology International などの雑誌の Editorial Board をつとめる。ウイルス性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎、原発性胆汁性 胆管炎などの臨床試験の多くに参加している。次世代シーケンサーやマイクロ RNA などの 新規の技術を用いた新しい切り口で研究を進めている。
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