かつては治療が非常に困難といわれてきた肝硬変ですが、近年は少しずつ治療できる病気になりつつあります。肝硬変になってしまった場合の予後(治療後の状態の経過)、余命(残された寿命)はどのように考えるのでしょうか。湘南藤沢徳洲会病院の岩渕省吾先生にお話をお伺いしました。
これまで一般的には「肝硬変になったらおしまい、余命幾ばくもない」などとの印象が強く、とても肝硬変の診断を口にすることすらできませんでした。肝臓病で通院の患者さんには、肝硬変恐怖症ともいえる方が多く、いまだにその傾向は残っています。
これまで肝硬変の予後については、別記事「肝硬変を含む肝臓病を見つける検査について」で紹介した「Child分類」が予測のために重要な目安として使われてきました。このChild分類は、簡便かつとても優れた分類であり、今なお肝硬変の残された機能(予備能)の目安として、世界共通に用いられています。ただし今後は、このChild分類が肝硬変の予後を必ずしも規定するものにはならないと考えます。
かつてChild分類が絶対的であったのは、肝硬変は治らない病気だったからです。しかし、肝硬変の原因として多いC型肝炎ウイルスの治療法が次々と出てくる中で、Child分類は、必ずしも予後や余命を考えるための絶対の指標というわけではなくなりました。そのときの肝硬変の程度、肝予備能を表すものとなったのです。現在では、Child指標にしたがって「どの程度の手術ができるか」「合併症の治療はどこまでできるか」「生活状況をコントロールできるか」という観点で予後を考えていきます。たとえば、ChildのB程度までの場合、たとえ患者さんが肝硬変になっていても、ウイルスが消えれば予後はかなり良くなります。
また、C型肝炎の治療の際にもこのChild分類が指標として使われます。経口で用いる2剤(アスナプレビル、ダグラタスビル)は、非代償性肝硬変(Child分類の B、C)には投与してはいけないことになっていますが、Child Aでは慢性肝炎の患者さんと治療効果には差はなく、治療をした患者さんのうち90%ぐらいでウイルスは消えます。このように、C型肝炎の治療をする際に参考にすることはあります。
今やC型肝炎ウイルスの90%以上を除去することが出来る時代になってきました。これからの時代、予後を左右するのはこれらの「合併症」です。
現在では、「肝臓がん」「消化管の出血」「肝不全」の3つが肝硬変の患者さんの予後を大きく左右すると言われています。なかでも、肝臓がんの合併は最も予後に影響します。日本の肝硬変の患者さんの大多数は、亡くなるときに肝臓がんを合併しています。
かつては、「ウイルスが消えたら肝臓がんが現れなくなるのではないか」と言われていました。肝硬変まで進んでいて、AFPという肝臓がんのマーカーが高い数値であり、肝臓がんの出来る可能性の高い群(ハイリスクグループといって、1年で10%ほどの人に癌ができる)の方からウイルスを除去すると、この年率が4%ほどに下がります。つまり100人に10人に肝臓がんができていたところ、100人あたり4人に減るということです。
ただ、ウイルスがいなくなれば肝臓がんはもっと減るのではないかと考えられていました。実際半分以下まで減ってはいますが、やはり十分に注意を払い、ウイルスが消えたあとも通院は継続する必要があります。
また、「肝臓がんはどのような人にできやすいのか・できにくいのか?」という問題は、長期にわたり学会で検討されてきました。たとえば、お酒やC型肝炎ウイルスは確かに明らかなリスクです。しかしこれに加えて、近年C型肝炎ウイルスを消せるようになりわかってきたのは、糖尿病を合併している人は肝臓がんができやすいということです。
肝硬変があると「インスリン抵抗性」が生まれ、糖代謝異常が起こることは以前より知られていました。メカニズムの詳細はまだ分かりませんが、糖尿病の方は肝臓がんを合併しやすいため、注意が必要です。
※B型肝炎ウイルスの場合は「核酸アナログ製剤治療」という方法で肝臓がんの発生を抑えられることが知られています。
湘南藤沢徳洲会病院 肝胆膵消化器病センター センター長
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