インタビュー

小児の肝臓移植、拒絶反応の抑制と長期生存率95%を維持する工夫

小児の肝臓移植、拒絶反応の抑制と長期生存率95%を維持する工夫
水田 耕一 先生

埼玉県立小児医療センター 移植センター センター長、移植外科 科長

水田 耕一 先生

日本における小児肝移植の生存率は約9割と高い数値を示しており、現在では成功率の向上のみならず、患者さんのQOL向上も目指した手術が行われています。15年生存率95%という国内最高レベルの治療成績を維持する自治医科大学では、乳幼児期に移植を受けた患者さんが、傷跡に悩むことなく成長していけるような工夫も取り入れています。

また、小さなお子さんが長期入院するときには、患者さんのご兄弟のケアも見落とすことなく行っていかねばなりません。自治医科大学移植外科教授(当時。現埼玉県立小児医療センター)の水田 耕一(みずた こういち)先生に、小児肝移植手術の具体的な方法と、術後のフォローについて解説していただきました。

記事2『小児肝臓移植、ドナーの術後後遺症-家族からの臓器提供を当然と捉える風潮への警鐘』では、ドナー手術について詳しくお話ししました。本記事のテーマであるレシピエントの手術は、自治医科大学の場合、10~12時間と多少時間をかけて行っています。

時間をかけて肝移植を行う理由は、安全性を確保するためだけに留まりません。当院では、術後の患者さんの生活の質(QOL)を高めるために、皮膚切開や閉創にも後述する様々な工夫を取り入れているのです。

現在、小児肝移植の治療成績は非常に安定しています。日本国内でみると1年生存率は90%近くにまで向上し、当院では95.6%という数値を維持しています。

この高い数値は、小児肝移植が日本において非常に安全に行われているということ、また、約5%の患者さんを救命することは極めて困難であること(これ以上の生存率向上は難しいこと)を物語っています。

そのため、小児肝移植における目標は、治療成績の更なる向上からQOLの向上へとシフトしはじめています。

悩んでいる高校生

乳幼児期に小児肝臓移植を受けた患者さんのなかには、成長と共に腹部の傷跡を気にされるようになる方もおられます。こうした傾向は特に女性の患者さんに多くみられ、10代後半頃になると形成外科手術を受ける方も増え始めます。

そのため、当院では葛西手術の傷跡をなるべく利用して肝移植の皮膚切開を行っています。

胆道閉鎖症と診断された場合、多くは生後90日頃までに必ず肝臓と腸をつなぎ合わせる葛西手術を行います。

葛西手術を行っても胆汁分泌が改善せず、肝硬変が生じてしまう患者さんには肝移植を行うため、肝移植を受ける時点で既に患者さんの体には葛西手術の傷があります。

葛西手術の皮膚切開は、横一文字に行うケースと斜めに行うケースがありますが、斜めの傷跡がある場合、その手術創を用いて肝移植の皮膚切開を行うことができます。

斜めの傷跡は、成長と共に胸の方向へと上がっていくため、形成手術を行うことなくセパレートタイプの水着を着られるようになった患者さんもいらっしゃいます。

肝移植手術の傷跡
葛西手術が、上腹部斜切開または腹腔鏡下で行われる場合、上図のように目立
たない創での生体肝移植が可能 提供:水田耕一先生

 

ただし、このような皮膚切開法は全ての患者さんに行えるわけではありません。傷の大きさだけを意識してしまうと、安全な手術に欠かせない術野の確保が十分に行えないこともあるからです。

これはレシピエントだけでなく、ドナー手術についても同様です。過去にはドナーの傷口を小さくすることに移植医の意識が向いていた時代もありましたが、これにより手術時間が長くなったり、操作が難しくなったという事例も発生しました。そのため、現在では全国どの施設においても、傷口の大きさ以上に安全性の確保を最優先に考え、ドナーおよびレシピエントの手術を行っています。

傷口を閉じる皮膚縫合の際には、ホチキス(ステープラー)でとめるのではなく、埋没縫合を行うことも増えました。これも整容性やQOLの向上を意図した工夫のひとつです。

患者さんには手術の1週間ほど前に入院していただき、術後は約40日で退院となります。

ただし、これはあくまで平均的な例です。たとえば他院に入院している方の肝移植を当院で行う場合は、術前の入院期間が平均より長くなります。

また、低体重のお子さん(特に新生児)や術前状態が悪いお子さんの場合は、呼吸の補助などが必要になるため、術後の管理期間が長くなります。

体の大きい小中学生のお子さんの場合、手術時間は長くなるものの、術後の経過は乳幼児に比べ良好であり、退院も早くなる傾向があります。これは、成長の過程で既に風邪などの感染症を経験しており、免疫機能ができあがっているためです。

このような理由から、術後感染症はやはり小さなお子さんに起きやすく、拒絶反応と並んで退院までの期間に大きく影響する要素となっています。

他者の肝臓を異物と認識することにより起こる拒絶反応は、移植後1週間目~1か月目に起きやすく、当院でも3人に1人ほどの割合で生じています。(約35%)

なぜ成人にくらべ小児に拒絶反応が起こりやすいのかは、現時点では解明されていません。

拒絶反応が起きた場合、ステロイド薬(免疫抑制剤)を数日かけて大量に点滴投与するステロイドパルス療法を行います。免疫抑制剤を使用することにより、感染症にかかりやすくなるため、ステロイドパルス療法を受けている患者さんの30%ほどは日和見感染症に罹患してしまいます。この日和見感染症のうち最も多くみられるのは、サイトメガロウイルス感染症です。

ただし、サイトメガロウイルス感染症に関しては、術後の定期的なモニタリング検査により症状が出る前に感染の有無を診断し、治療を始めることができるようになりました。また、ガンシクロビルという特効薬もあるため重症化することはほとんどありません。

とはいえ、拒絶反応の有無によりステロイドパルス療法を行うかどうかが決まり、これにより感染症治療も追加となることがあるため、入院期間への影響は非常に大きいといえます。

拒絶反応が全くみられない場合はステロイドパルス療法を行う必要もなく、感染症に罹患する頻度も低くなるため、スムーズに退院することができます。

肝移植後の生存率が最も落ちるのは、成人も小児も術直後の在院期間です。成人では、この期間に敗血症で命を落とされる方が多いことで知られています。

当院の生体肝移植における1年生存率は95.6%で、その後は患者さんの状態も安定するため、15年生存率もほぼ変わらず94.8%となっています。

したがって、肝移植では手術を成功させ、感染症対策を万全に行うことが最重要事項であるといえます。感染症を防ぐためには、肝移植で肝臓や腸管を剥離する際、腸管を損傷しないことが極めて大切です。

手術中、仮に血管を傷つけてしまったとしても、適切に縫合を行えば血管は元の状態へと修復していきます。しかし、腸管を傷つけてしまった場合、丁寧に縫合したとしても元の状態に完全に戻すことはできず縫合不全の原因になります。縫合不全が起きると汎発性腹膜炎敗血症まで進行し、致命的な事態に陥る危険性もあります。

移植手術においては、絶対に腸管を傷つけてはいけません。これは、現在私が教育の場においても力を入れて教えていることです。

術前状態をできる限りよい状態に整え、多少の時間をかけてでも完璧に手術をこなすことで、患者さんの予後は大きく変わってくるのです。

小児肝臓移植の主な術後合併症には、胆管狭窄や血管狭窄(門脈狭窄・肝静脈狭窄)などがあります。これを防ぐには、優秀なIVR(アイブイアール)を行える医師の存在が不可欠です。

IVRとは、開腹せず放射線の画像をみながら血管などの治療を行う方法です。過去には、術後に血管の狭窄がみられたとき、腹部を再度開き、血管を全てつなぎ直すという治療も行われていました。しかし、これは患者さんの体にとって非常に大きな負担となります。一方、IVR治療を行った後は、4日程度の短い期間で退院することができます。

術後のフォローを適切に行い、血管の狭窄を発見したときには、早期にIVRを行える医師に治療を依頼することが、術後合併症による長期予後の悪化を防ぎます。

小児肝移植では、もともと胆管がない胆道閉鎖症以外の症例(先天代謝異常症など)であっても、新たなグラフト肝の胆管と小腸を吻合する胆管空腸吻合術により胆管再建を行います。この術式のほうが、自己の胆管が細い小児にとっては有利で合併症が少ないからです。

術後、再建した胆管に狭窄が疑われた場合、一般的な施設ではPTCD(経皮経肝胆道ドレナージ)という治療法により胆汁を排出しますが、当院ではより侵襲の少ない小腸内視鏡治療を行います。これは、小腸内視鏡を開発し、世界で初めて胆管狭窄の治療を行った自治医科大学だからこそできることです。

このように、高い成績を維持していくためには、移植医だけではなく、様々な専門医の力の結集が欠かせません。

肝生検

患者さんの積極的な治療参加をアドヒアランスといいます。肝移植を受けたお子さんが、その後長い人生を健康に生きていくためには、継続的なアドヒアランスが極めて重要です。

小児肝移植の後には、肝機能がよい場合でも、肝生検を行うと線維化がみられることが多々あります。これは、移植した肝臓に目には見えない拒絶反応が起きており、グラフトロス(移植臓器の廃絶)に繋がる慢性拒絶が起こる手前の段階にあるということです。

そのため、当院では移植後2年、5年、10年のタイミングで、定期的に肝生検を行うことをルール化し、気になる所見がある場合は免疫抑制薬を増やすなどして移植臓器を守っています。

乳幼児の頃に肝移植を受けた子どもは、なぜ自分に手術痕があるのか、何のために薬を飲んでいるのか、自分だけではわかりません。これは私たち移植医・コーディネーターや親御さんがお子さんに上手に説明せねばならない問題です。そこで私たちは、説明方法や言い回しをわかりやすく記した絵本や資料を作るなどして、お子さんやご家族の方への教育も行っています。

私は、小児肝臓移植は1人の子どもを生むことと同じであると考えています。移植のみを行えばよいという姿勢の移植医は、赤ちゃんを生んだまま育てない親と相違ありません。

ですから、移植後年数が経ち、外来に来なくなってしまった患者さんを放置してしまうこともあってはなりません。

治療に積極的でない方にも電話などでアプローチを続け、遠方にいるならば近くの病院で採血検査を受けてもらうなど、定期的な検査を受け続けてもらうことが長期予後の維持に繋がります。

最後に、小児肝移植時に大切な「レシピエントのご兄弟のケア」について記します。

小児肝移植を専門に行う施設は全国的にみても少なく、当院にも北関東や北陸・東北地域を中心とした、東日本のあらゆる地域から患者さんが来られます。

先述したように、レシピエントの入院期間は2か月前後、ドナーとなる親御さんも10日~14日ほど入院されます。そのため、治療にかかる約2か月の間は生活拠点を移さざるを得ないご家族も沢山おられます。

このとき見落とされがちなのは、患者さんのご兄弟のケアです。親御さんはどうしてもレシピエントやドナーの看護に集中してしまうため、結果としてご兄弟が見知らぬ土地や祖父母の家で我慢をし続ける状態に置かれてしまうことがあります。実際に、寂しいといえず思いを飲み込み、その後の発達に問題が生じてしまう患児のご兄弟もおられます。

こういった事態を防ぐため、現在私たちはコーディネーターを中心として、患児のご兄弟へのケアを徹底するための工夫を行っています。

自治医科大学附属病院移植外科で作成した、患者さんの兄弟姉妹に向けた絵本『もうひとつの生体肝移植 がんばっているきょうだいへ』 提供:水田耕一先生

病気を患うお子さんがいるとき、ご家族の意識はどうしてもその子どもに集中しがちになります。しかし、小児肝移植に限らず、長期入院を要するお子さんがいる場合は、そのご兄弟のケアも、見落とすことなく行っていただきたいとお伝えしたいです。

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