肝臓はヒトが生きていくうえで欠かすことのできない機能を担う重要な臓器です。さらに肝臓は「予備能」とよばれる大きな余力を備えており、細胞再生能力をもことから一部ががん化したとしても、大きく切除することや移植を行って治療をすることが可能な臓器です。
このように肝臓は他の臓器にはない特徴をいくつももつ特殊な臓器といえます。本記事では肝臓がもつさまざまな機能についての詳しく解説するとともに、どのような状態になったら肝移植が必要となるのかについて、肝移植に詳しい広島大学大学院医歯薬保健学研究科消化器・移植外科学 教授 大段秀樹先生にお話いただきました。
肝臓は主にこの3つの機能を持っています。
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こうした生体に対してとても重要な機能をもつのが肝臓です。
こうした機能をもつ肝臓に障害が起きると、この3つの機能の低下があらわれます。具体的には以下のような機能障害があらわれます。
代謝機能が低下することで低栄養に陥り、体重低下がみられる
解毒が行われないためアンモニアが体内血液中に蓄積し、アンモニア脳症を発症する
胆汁の生産や分泌が滞ることから、皮膚や眼球結膜が黄色くなる「黄疸」があらわれる
肝臓からのびる門脈という血管の圧が亢進することで、食道静脈瘤(消化管の血管が瘤のようになる疾患)を発症する
血液の凝固に関わる酵素(プロトロンビンやフィブリノゲンなど)が肝臓で生産されているため、肝機能が低下すると出血傾向がみられる
こうした症状があらわれた場合には肝機能障害を疑います。肝機能障害があるとわかった場合には治療を開始することが必要です。
治療を開始していく、もしくは進めているときに、薬物治療などの内科的治療では治療が難しいと考えられる場合には「肝移植」を検討していくこととなります。
また多くはこうした症状が徐々に進行していく病態ですが、一方で障害が起きた肝臓にがんの発症がみられる場合には、速やかに治療が必要です。肝障害と程度が深刻であれば、手術や抗がん剤による治療を行うことが困難になっているケースが多いため、移植を検討していきます。
また肝炎のなかでも特に症状が急速に深刻化する「劇症肝炎」を発症した場合には、命に影響を及ぼすほど待ったなしの状態となりますので移植を検討することとなります。
このように肝臓不全状態になるすべての疾患で肝臓移植が検討されていきます。
肝臓移植とは、肝臓の機能が低下し移植でしか治療を行うことができない方に、肝臓を移植する治療方法です。
肝臓移植は主にふたつの種類があります。
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脳死移植の場合には、肝臓をそのまますべて移植する全肝移植が可能です。一方、生体移植の場合には、肝臓すべてを移植することはできませんので、右側(右葉)・左側(左葉)のどちらかを移植します。
日本全国の脳死移植は年間50~60件ほどしかなく、そのほとんどは命に危険が差し迫った劇症肝炎の患者さんへ提供されています。そのため肝硬変や肝がんの患者さんが日本で移植を受けるには、生体移植が主になります。
肝臓は大きな余力(肝予備能)を持った臓器であり、細胞の再生能力が旺盛です。そのため正常な肝臓は約60%~70%を切除することが可能です。
体内に残った肝臓は、術後1カ月程度で元の肝臓の70~80%ほどまで回復します。そしてそこからじっくりと大きくなっていき、術後1年で術前とほぼ同等の大きさまで回復していきます。このとき肝臓の形はすこしいびつになりますが、体積や機能はもとの肝臓と同じくらいまで戻ります。術前と同等の大きさまで回復した後は、肝臓の回復は自然ととまります。
このような肝臓の再生能力があることで生体移植が成立するのです。
先ほどもお話したように生体移植では、提供者(ドナー)の右葉もしくは左葉を、臓器の受容者(レシピエント)に提供します。移植が成立させるには、ドナー側とレシピエント側それぞれの条件が合致しなければなりません。
まずはドナー側の条件をみてみましょう。一般的に肝臓は、右葉のほうが左葉より大きくなっています。大きさはそれぞれ右葉が約60%、左葉が約40%です。
移植の際には必ず肝臓の約30%(広島大学大学院医歯薬保健学研究科消化器・移植外科学ではドナーの安全性を重視して約35%)をドナーの体内に残しておくことが必要ですので、もしドナーの左葉が30%以下であれば、右葉を提供することはできず、左葉のみしか提供できないということになります。
次にレシピエント側の条件をみてみましょう。これまでの研究から、レシピエントがもらう肝臓の大きさは、レシピエントの体重の0.7%以上が必要になることが示されています。この基準を下回ると、移植したとしても移植後1年後の肝臓生着率が8~9割まで届かないとのです。そのため、ドナー側で大きな領域の肝臓を切除ができたとしても、レシピエントの体重に換算したときに0.7%以上にならないと、移植は成立しません。
このように移植を行う際にはドナー側、レシピエント側、それぞれの条件を見合わせる必要があります。現在では移植手術前に3DCTスキャンという技術で肝臓の形や大きさをコンピューターで再現し、体積を測定していくことで、移植が可能かどうかを検討することが可能になっています。こうした技術を用いていくことで、移植の可否を決定していきます。
肝硬変や肝がんを発症する方の多くは50~60代ですので、兄弟や配偶者だけでなく子どもからも臓器の提供を受けることが多いです。そのほかの臓器の移植では親側から臓器の提供を受けるケースが多いため、これは肝臓移植の特徴ともいえます。
上図のように、まずはドナーの肝臓の大きさを把握したのち、移植に適した肝葉を摘出します。ドナーから摘出された肝臓は灌流(かんりゅう:移植する臓器を臓器保存液に浸して保存すること)を行い、レシピエントが手術を受ける場所へ運ばれます。一方、レシピエントは肝臓を全摘出し、そこへドナーからもらった肝臓を移植します。一般的にはドナー側の手術に4~5時間、レシピエント側の手術に10時間程度を要します。
レシピエントでは、生体移植手術後、約4~5割の方でなんらかの合併症がおきてしまうとされていますが、ほとんどの方は合併症を乗り越え、無事に移植を終えることができています。なかでも多い合併症は術後の「感染症」です。移植後には拒絶反応が起きないように免疫抑制剤を用いますが、その結果、体内の免疫システムの機能が弱まり、感染症を引き起こしやすい状態になります。その結果多くの方が感染症を引き起こしやすい状態になっています。
引き続き記事2では大段先生に、生体移植後の生存率を向上させると期待されている「ナチュラルキラー(NK)細胞を用いた新しい治療法」についてご解説いただきます。
広島大学 消化器・移植外科学 教授
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