インタビュー

胆道閉鎖症治療の第一選択・「葛西手術後」の経過について

胆道閉鎖症治療の第一選択・「葛西手術後」の経過について
田口 智章 先生

学校法人福岡学園 福岡医療短期大学 学長、九州大学 名誉教授

田口 智章 先生

この記事の最終更新は2016年01月12日です。

黄疸や白っぽい便などで異常に気づくことが多い胆道閉鎖症ですが、正常な黄疸と病的な黄疸の区別をつけるのはなかなか難しいものです。早期発見して手術をした後も、黄疸が再発したり、手術の効果がみられなかったりということもあるようです。胆道閉鎖症の治療とその後の経過について、九州大学病院小児医療センター長の田口智章先生にお話を伺いました。

新生児期から乳児期にかけて好発する胆道閉鎖症は、黄疸や便の色が白っぽくなることなどで発見される病気です。患者数は推定約3,500人で、これまで小児慢性特定疾患に指定されていましたが、厚生労働省の難病対策の見直しによって、2015年に難病にも指定されました。

胆道閉鎖症とは、肝臓と十二指腸をつなぐ胆管や総胆管という管が先天的にふさがっている難病で、そのため胆汁が分泌されず体内(肝内)に溜まることで黄疸が現れます。治療は、胆汁が肝臓から排出されるようにするための手術が第一選択として行われます。

胆道閉鎖症で一般に広く行われているのが葛西手術という手術法です。これはその名の通り、日本人の葛西森夫医師という小児外科医によって考案された術式です。葛西手術は、肝臓と腸を直接つなぐ手術で、1970年代頃から世界中で行われるようになりました。葛西手術の登場で、胆道閉鎖症の外科的治療が可能となりました。しかし、この手術は遅くとも生後90日以内という早い段階で診断をつけて行わなければ効果が期待できません。

早期発見の絶好のチャンスが生後1か月の時に行われる新生児1か月健診ですが、新生児はもともと生理的黄疸や母乳性黄疸など、正常でも黄疸が起きやすいことや、我々日本人自体が黄色人種であることなど、見た目ではなかなかわかりづらいということで発見が遅れることが少なくないのです。

昔であれば、3世代同居などの大家族が多かったので、おじいちゃんやおばあちゃんが異常に気づくということがあったわけですが、核家族化が進んだ現代社会においては、それも難しいのが現状です。

黄疸の指標となるビリルビンの値について実際のデータでみてみると、白目が黄色くなってくるなど、見た目でも黄疸が確認できるのはビリルビン値が7mg/dlを超えたあたりです。正常値が1.2mg/dl程度なので、外見的に判断するのにはかなりのハードルがあります。

葛西手術を受けたあとの経過については、大きく3つに分かれます。それぞれ3分の1ずつの割合ですが、まずひとつめは、手術後、順調に経過するタイプです。このタイプでは、葛西手術を行ってから1か月くらい経つと黄疸が正常化してきます。遅くても3か月後くらいには黄疸が消失します。そして、それ以降も継続して安定した経過をたどることが多いようです。このタイプの子どもたちは、もう成人して、中には子どもが生まれたりしている子もいます。これらのタイプが約30%です。

次の3分の1は、一旦黄疸は消失するものの、その後、感染などを起こしながら肝硬変へと進行していくタイプです。この病気は感染を起こしやすいため、胆管炎を繰り返すことで、だんだん肝硬変へと進行していってしまいます。このタイプの子どもたちは、早い子の場合は2~3歳、多くは幼稚園や小学生あたりの幼児期から学童期に肝硬変が進んで肝不全となり、肝移植が必要になってきます。

そして最後の3分の1が、葛西手術をしても胆汁の分泌が悪く、黄疸が消えないタイプです。このタイプの子どもたちは術後も肝硬変が進行していくため、1歳前くらいで肝移植が必要になってきます。

患児の3分の1は葛西手術で治るようになりました。このタイプの子どもたちはすでに成人に達している子もいますが、しかし全く正常というわけではありません。黄疸は現れないものの、肝臓の繊維化が進んでいることがあり、思春期頃になって食道動脈瘤などの出血が起こることもあるのです。そうなるとコントロールできなくなって、肝移植を行わなければならないことも出てきます。また、この病気は女児に多いため、成人になって妊娠・出産を契機として悪化することもみられます。

葛西手術
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    日本小児科学会 小児科専門医・小児科指導医日本外科学会 外科専門医・指導医

    田口 智章 先生

    九州大学大学院教授、九州大学病院小児医療センター長。日本外科学会理事。2013年、日本初となる小児外科の手術書「スタンダード小児外科手術」の執筆・監修を行った。2016年5月に福岡で開催予定の日本小児外科学会会長・アジア小児外科学会会長を務める。

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