胆道閉鎖症の治療は、葛西手術の登場によって手術可能となり、生体肝移植によって治癒可能な病気となりました。胆道閉鎖症と診断されてまず行われる葛西手術で黄疸が消失するのは患児全体の約60%だといいます。手術をしても再び黄疸が現れたり、黄疸が消えなかったりする子どもたちは、最終的に肝移植が必要になります。
日本初となる小児外科の手術書「スタンダード小児外科手術」を執筆・監修した九州大学病院小児医療センター長の田口智章先生に胆道閉鎖症における肝移植についてお話を伺いました。
胆道閉鎖症は、肝臓から十二指腸へと続く胆管が先天的にふさがっている病気です。そのため、肝臓で作られる胆汁という消化液が分泌されずにからだの中に溜まるため、黄疸などの症状となって現れることで発見されます。
原因不明の難治性の疾患で、出生およそ1万人にひとりの割合で発症するといわれています。好発年齢は新生児期から乳児期にかけてで、新生児の1か月健診の時などに発見されることもありますが、見逃されることも少なくありません。
胆道閉鎖症と診断されると、第一選択として行われるのが葛西手術です。この手術は、簡単にいうと肝臓と腸を直接つなぎ合わせて胆汁の分泌を促すというものです。手術手技が確立されたことで胆道閉鎖症の治療成績は好転しましたが、葛西手術で黄疸が治るのは手術を行った患児全体の約60%です。そのうち、約30%は一旦黄疸が消失しても再び黄疸が再発してしまいます。また、葛西手術をした残りの患児30%に関しては、手術をしても黄疸が消失しないため、いずれは肝硬変から肝不全へと進行して、最終的には肝移植の適応という経緯をたどることになります。
肝硬変が進み、肝不全になると肝移植の対象となります。肝硬変が進行してくると、門脈圧亢進症や食道静脈瘤などで吐血(食道や胃などの消化管からの出血)を起こすようになります。また胆汁酸が高いため体がかゆくてQOLが極めて悪い場合も移植を考慮します。この頃になると 肝臓はもちろんのこと、腎臓などさまざまな臓器に障害を及ぼす肝腎症候群などが出てきます。黄疸も強く現れるので、ビリルビン値は10mg/dl以上にはなっていると思います。
また、この病気は子どもの病気ですので、身長が伸びないといった症状も出てきます。肝臓では、からだの成長に必要な物質も作っているので、肝機能が低下することで成長がとまるわけです。肝移植を行うかどうかは、これらの症状を総合的にみて判断します。
肝移植には、脳死(脳の全機能が停止した状態)の人から臓器を提供してもらう「脳死移植」と、健康な人から臓器の一部を提供してもらう「生体(部分)肝移植」の2種類があります。
現実問題として、日本においては脳死移植がまだ十分に普及していないという背景があるため、胆道閉鎖症における肝移植は、生体肝移植が行われることがほとんどです。肝臓などの臓器を提供する人のことをドナーといいますが、ドナーは三親等以内と決められています。多くの場合、両親が提供者です。特にお母さんであることが多いですね。
生体肝移植に関しては、ドナーが提供するといえば実質的には可能なわけですが、健康な人のからだにメスを入れるわけですから、ドナーの安全には最善の注意を払わなければなりません。移植を行うにあたっては、日本移植学会が決めたルールがありますので、その規定に沿って行われます。その他、九州大学病院内には独自の肝臓移植小委員会というのがあって、生体肝移植を行う場合には、必ずこの小委員会を通すという決まりになっています。
生体肝移植に関して最も重要なことは、ドナー自らの意思で提供することを決断しているということです。たとえ我が子であっても、そこに強制や脅迫といったことがあってはいけません。九州大学病院では、院内に移植コーディネーターがいるので、我々のような移植医以外の第三者がインフォームドコンセント( IC : 説明と同意)を行いドナーの意思確認を行っています。
学校法人福岡学園 福岡医療短期大学 学長、九州大学 名誉教授
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