C型肝炎ウイルス・B型肝炎ウイルス・アルコールなど、さまざまな因子が肝硬変の原因になります。肝硬変はかつて、不治の病とされていました。しかし近年、医療技術の進歩によって治る病気になりつつあります。肝硬変の治療では、具体的にどのようなことが行われるのでしょうか。この記事では、「原因に対する治療」を中心に、湘南藤沢徳洲会病院の岩渕省吾先生にお話を伺いました。
肝硬変は一般に、肝機能がある程度保たれている「代償期」と、肝機能が低下し、腹水や脳症、黄疸などが現れてくる「非代償期」に分けられます。
「肝硬変を含む肝臓病を見つける検査について」でご説明したの肝硬変の重症度分類(Child分類)で、Child AからBの一部までを代償期といい、この時期には筋肉の攣りなどを除いて自覚症状はほとんどありません。日常生活も問題なく、傍から見ても健康人と変わりなく、この代償期に抗ウイルス療法など根本治療が行われるのが理想的です。
一方、非代償期に入ると、肝機能の低下による様々な症状・合併症が出てきます。非代償期では、抗ウイルス治療の影響などで肝機能がさらに悪化し肝不全になることも心配されるため、原因に対する根本治療は難しくなります。したがって、むくみや腹水、食道静脈瘤、肝性脳症の対する治療など、肝硬変の合併症に対する治療が中心とならざるを得ません。これらのコントロールがつけば、原因治療が可能となる患者さんもいます。
以上をまとめると、「なるべく代償期で肝機能が保たれているうちに原因に対する治療を行う」ことで、肝硬変の進行停止から臨床的治癒(後に説明)を目指すことが基本的な考え方となります。
肝硬変の原因に対する主な治療としては、一般的に以下が挙げられます。
2014年9月に、肝硬変の原因として最も多いC型肝炎ウイルス(HCV)に対して画期的な直接的抗HCV剤(DAA)が発売になりました。この10年、ウイルス肝炎治療の進歩は目覚ましく、数年前からはIFN+リバビリン(抗ウイルス剤)に加えてDAA(シメプレビルナトリウム)の3剤併用が行われるようになり、C型肝炎の90%近くのケースでウイルスが排除可能となってきました。しかし、肝硬変や高齢者の場合は、副作用の心配や身体への負担が大きいためIFNを併用するこの治療が難しい方も多かったのが現実でした。
ところが昨年登場したDAAは、2種類(ダクラタスビル、アスナプレビル)の経口剤を飲むだけで、90%前後のウイルス排除が可能となったのです。しかも副作用は少なく、80歳を超えたご高齢でも、血小板の減った肝硬変の患者さんでも治療可能になりました。
加えて2015年の6月からは、C型肝炎ウイルスの2型(HCVグループ2)に対し、高額で話題となったDAA剤(ソホスブビル+リバビリン)が発売となり、飲み忘れなければ95%は治るといわれるほどの高い効果が得られるようになりました。さらに9月からは、日本人に多い1型(HCVグループ1)に対しても新規2種類のDAA(ソホスブビル+レジパスビル)の合剤が登場する予定です。この合剤は新聞などでも報道され、一錠の薬価が8万円と高額なのにも驚かされますが、服用に適した患者さんでは100%近くウイルスが排除されるという効果も卓越したものです。
なおこの新規経口剤治療は保険適用となりますが、いずれも高額なので、公的助成金制度が適応となります。具体的には肝臓専門医(肝臓学会認定、専門医)での診察・治療ということになりますが、保健所に行き肝炎助成金申請書類を取り寄せる必要があります。詳細は肝臓専門医のいる病院にお尋ね下さい。今のところこれら新規経口薬は、進行した肝硬変には適応となっていませんが、C型肝炎が原因となる肝硬変の方には大きな福音となるはずです。
どの抗ウイルス治療が向いているかなどは、肝臓専門医の指導を受けることになりますが、来年も新薬発売の予定があり、一部の進行した肝臓病以外のケースで、C型肝炎はほぼ全例についてウイルスが排除できる可能性があります。
一方、B型肝炎に対しても、10数年前に開発された経口薬(核酸アナログ)の効果は絶大で、HBVウイルスキャリアの慢性肝炎から肝硬変への進展防止や、肝硬変の改善にも役立っています。またB型の肝臓がん発症防止にも働いており、この核酸アナログはHBVウイルスキャリアの方を大いに助けています。
これらHCVやHBVに対する抗ウイルス剤の進歩のおかげで、肝硬変も治る病気になってきたともいえます。
次の記事「肝硬変の合併症と食事療法―肝硬変を「治す」ために(2)」では、引き続き肝硬変の合併症について、加えて食事療法についてご説明します。
湘南藤沢徳洲会病院 肝胆膵消化器病センター センター長
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