C型肝炎ウイルス・B型肝炎ウイルス・アルコールなど、さまざまなものが肝硬変の原因になります。肝硬変は以前、不治の病とされていました。しかし近年、肝硬変は治る病気になりつつあります。長年肝臓の診療を行い、今も第一線で日々患者さんと向き合っている湘南藤沢徳洲会病院の岩渕省吾先生に、肝硬変が治るようになってきたメカニズムについて、専門的なお話を含めてお伺いしました。
「肝硬変は治る病気か?」という質問はよくあります。今までは「不治の病」として有名でしたし、この疑問に関してはまださまざまな意見があると思います。
「治る」という表現に反対する人がいるかもしれませんが、あえて述べるならば、今後は一部の方において「臨床的治癒」が得られる時代になってくると考えます。
これは、肝臓がガチガチになっている「見た目」まで全部が治るわけではなくとも、少なくとも肝臓の「機能」は正常にもどるということです。見た目よりも機能の方が大切ですから、これは治癒したと考えてもよいのではないでしょうか。ただし、一度肝硬変まで進行すると肝臓がんができる可能性は残るので、その点に注意は必要です。
なぜ「臨床的治癒」が得られるようになったかという理由は、肝硬変の原因として最も多いC型肝炎が治る時代になってきた、つまり、C型肝炎ウイルス自体が90%以上のケースにおいて消えるようになってきたからです。
ここからは少し難しい話になります。
肝硬変の状態で肝生検(肝臓に針を刺して細い肝組織を直接採取すること)をして、顕微鏡で肝臓の組織をみると、肝炎にともなって出来る線維化によって肝臓の構造が分断され、「偽小葉」という異常な構造に歪められているのが分かります。
肝臓の組織は通常、肝臓を栄養する血管(流入血管:動脈と門脈)と肝臓から出ていく血管(流出血管:肝静脈)、さらに肝臓で作られた胆汁を排出する胆管の合計4本の管を軸に、肝細胞が索状配列できれいに並んでいます(図を参照)。しかし、線維化が酷くなると正常な小葉構造が壊されてしまい、肝細胞だけが再生・増殖すると、異常な再生結節(ごつごつした小さなしこり)ができてしまいます。肝硬変の肝表面がごつごつして見えるのは、この再生結節によるものなのです。
このようにして小葉の構造がゆがんでくると、肝細胞自体は残って働こうとしても、有効な血流構造が失われるため、肝臓の機能において重要な代謝や解毒の効率が悪くなります。さらに肝臓の血流循環が悪くなると、肝臓に流れ込む門脈の血流が肝臓に入りにくくなり、その流域の静脈圧が上がりやがて門脈圧亢進が起きて、胃静脈瘤や食道静脈瘤ができてしまうのです。
上図ははきれいな肝臓です。この肝臓の小葉構造が線維により壊されてしまうと、下図の偽小葉という状態になります。
さて、ここで具体例を挙げてみましょう。肝硬変を患った患者さんに、C型肝炎ウイルスの治療をするとします。仮に、無事ウイルスが消えたとしましょう。そうなると、「偽小葉や再生結節は元のように治るのか?」という疑問を持つ方もいらっしゃると思います。しかし、そうではありません。肝生検をして顕微鏡で見ても、「組織が完璧に治る」というわけではないのです。
ところが、小葉の構造を乱していた犯人である「線維」は、少しずつ細くなっていくことが分かってきました。繰り返しますが、一度乱れた小葉の構造の“歪み”は治りません。それでも、線維が細くなってくることで、血流の流れが良くなっていくのです。
肝硬変で原因ウイルスが消えるケースが明らかになり増えてくると、病理学者のグループから「同じ肝硬変(chirrhosis)でも治って行く肝硬変については、別のカテゴリ-(Beyond chirrhosis)としたらどうか」という提言も出てきました。
肝硬変の線維には2通りあり、ひとつは退行性の線維です。肝炎の原因(ウイルス)が消えて肝炎が治り時間が経つと、太く幅の広かった線維が収縮して細くなります。溶けて消えてしまう線維もあります。このように収束・消退に向かう線維のことを退行性の線維(regressive fibrosis,リグレッシブ ファイブローシス)といいます。
一方ウイルスが活動を続け、慢性肝炎から肝硬変、さらに肝硬変でも線維化が拡がる過程での線維を進行性の線維(progressive fibrosis,プログレッシブ ファイブローシス)として区別することができます。したがって、組織検査ではそれぞれを見極めて表現する必要があるという見解が出て来ました。
両者の違いを具体的に示したのが上の画像です。溶けかかった線維の様子がよく分かります。この違いは、肝硬変症の予後を知るうえで重要な問題であり、肝臓がんの合併にも大きく関連していることが将来的に明らかになる可能性もあります。
線維が細くなれば肝臓全体の堅さも改善傾向となり、血流がよくなれば肝機能も良くなります。つまり、顕微鏡で見なければわかりませんが、肝硬変としてできあがった偽小葉は構造的にまでは元に戻らない一方、線維が溶けて血流が良くなることにより肝機能は正常近くまで戻るのです。だからこそ、「臨床的治癒」という言葉が使われてよいと思います。
ただし、一度肝硬変まで進行した方は、ウイルスが消えて肝機能が良くなったとしても肝臓がんの発生には十分に注意し、半年に1回は画像診断などのため通院を続けなければなりません。
湘南藤沢徳洲会病院 肝胆膵消化器病センター センター長
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