
肝がんとは、人の体の中でもっとも大きい臓器である肝臓に生じる悪性腫瘍です。肝がんは大きく分けると、肝臓の主要な細胞である肝細胞に生じる“肝細胞がん”と肝臓内を通る胆管に生じる“肝内胆管がん”に分けられます。日本の肝がんの9割以上は肝細胞がんであるため、ここでは肝細胞がんを肝がんと呼び、解説していきます。
一般的に肝がんには原因となる肝臓の病気が存在するため、それに対する予防がもっとも重要です。また、肝臓病をすでに指摘されている方には、それぞれの適切な治療と早期発見を目指した定期的な検査が重要となります。では、肝がんはどんな病気が原因となるのでしょうか。また、予防するためには何をすればよいのでしょうか。
肝がん(肝細胞がん)の主な原因は、B型・C型肝炎ウイルスの持続感染による慢性肝炎や肝硬変です。
B型・C型肝炎ウイルスが体内に長く留まると、肝臓に持続的な炎症が起こり慢性肝炎となります。さらにこの状態が続くと肝臓の線維化(硬化)を引き起こし、肝硬変と進行します。肝がんは肝臓の線維化の悪化に伴ってリスクが高くなることが分かっているため、この結果として肝がんが発生しやすくなると考えられています。
1990年代、日本では肝がんと診断された方の約9割の方でB型・C型肝炎ウイルスの感染が原因とされていましたが、2010~2015年にはB型・C型肝炎ウイルスによる肝がんの患者さんは約7割と減少傾向にあります。日本ではウイルス性肝炎のうち、C型肝炎ウイルスによる肝がんの割合が高く、1991年には肝がん全体の約7割を占めていました。
しかし、近年はC型肝炎の治療薬が登場したことなどにより、C型肝炎ウイルスを原因とする肝がんが減少傾向にあるといわれています。
一方、近年はB型・C型肝炎ウイルスに感染していない方の肝がんが増加しています。1990年代は非ウイルス性(B型肝炎でもC型肝炎でもない)の方は約1割であったのに対し、2015年には肝がんの約3割を占めるようになってきており、約3倍の著しい増加を認めています。
この場合の原因としては、多量なアルコール摂取や喫煙のほか、肥満、脂肪肝*、糖尿病などの病気が関与していることが考えられています。中でも脂肪肝では、アルコールを飲まない方であっても進行性の非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis :NASH)と呼ばれる病気を発症することがあります。非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は自覚症状のない病気で、放置すると肝硬変、肝がんを引き起こすことがあるため注意が必要です。
*脂肪肝……肝臓に中性脂肪がたまった状態のことで、多くはメタボリックシンドロームに伴って起こる
肝がんを予防するためには肝炎ウイルスへの感染を予防し、肝がんになりやすい生活習慣を改善することが大切です。
B型・C型肝炎ウイルスは、感染者の血液など“体液”から感染することが一般的です。感染経路として、皮膚の傷口からの感染や性行為による感染、出生時の母親からの感染(母子感染)などが挙げられます。そのため、他人の体液に触れたものは洗浄・消毒し、歯ブラシやカミソリなどは共有をしないなど、他人の体液に触れる機会を減らすことを心がけましょう。また、B型肝炎に関してはワクチンが開発されているため、ワクチンを接種することも有効です。
過度の飲酒、肥満など肝がんを引き起こしやすい生活習慣を改善することを意識しましょう。バランスのよい食事を取り適度な運動をすることによって、痩せすぎず太りすぎない適正な体型を保つことも大切です。
すでに肝炎ウイルスに感染している方は、肝炎ウイルスに対する治療を行うことがもっとも重要です。しかし、肝炎ウイルスは長期に感染していても自覚症状が現れないことが一般的です。自身の肝がんを予防し周囲への感染拡大を防ぐためにも、一度は肝炎ウイルス検査を受けておくことが望ましいといわれています。肝炎ウイルス検査は地域の保健所や医療機関などで受けることができ、採血によって行われます。
肝炎ウイルス検査などでB型・C型肝炎ウイルスに感染していることが分かった場合、薬物療法による治療を受けることによって、肝がんを予防する効果が期待できると考えられています。
B型肝炎ウイルスの場合、薬物療法によってウイルスの量を減らすことができるため、肝臓に起こる炎症を抑え、肝がんのリスクを抑えることができます。C型肝炎ウイルスの場合は、薬物療法によって90%以上のウイルスを排除できるようになってきており、排除できた場合には肝がんのリスクを抑えるとともに、感染拡大の心配はなくなります。肝炎ウイルスの感染を指摘された方は適切な治療とともに肝がんの定期的な検査(サーベイランス)が必要です。肝がんサーベイランスは血液検査による腫瘍マーカー(AFP・PIVKA-II)と腹部超音波検査などの肝臓の検査を行います。肝がんサーベイランスの間隔は肝臓の線維化の進行度などによって異なります。
肝がんはある程度進行するまで自覚症状がなく、発症初期に病気を発見することが難しい病気です。しかし、多くの方は肝がんの原因となる肝臓病を認めることが分かっているため、予防や対策が可能な病気でもあります。B型・C型肝炎ウイルスに感染している方や脂肪肝、糖尿病などの病気にかかっている方など発症のリスクが高い方は、治療を継続するほか、定期的に検査を受けるなど早期発見に務めることを検討しましょう。また、日頃から肝がんを引き起こしやすい生活習慣に注意するよう心がけましょう。
今井 則博 先生の所属医療機関
東京大学大学院医学系研究科 消化器内科学 教授、名古屋大学大学院医学系研究科 消化器内科学 客員教授
日本内科学会 総合内科専門医・内科指導医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・消化器内視鏡指導医日本消化器病学会 消化器病専門医・消化器病指導医日本消化管学会 胃腸科専門医
1970年生まれ。1995年、東京大学医学部を卒業後、東京大医学部附属病院研修医。1996年より、日立製作所日立総合病院研修医、国立がんセンター中央病院消化器内科レジデント等を経て2005年、東京大学医学部附属病院消化器内科助手(助教)。2009年、東京大学医学部附属病院光学医療診療部部長・准教授、2019年、名古屋大学大学院医学系研究科 消化器内科学 教授、2021年東京大学大学院医学系研究科 消化器内科学 教授、現職に至る。内視鏡機器や処置具の開発から携わることで患者の負担を減らし、かつ、早期発見・的確な診断、治療が行える方法の研究を続ける。
藤城 光弘 先生の所属医療機関
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