インタビュー

B型肝炎の診断・治療方法

B型肝炎の診断・治療方法
尾上 泰彦 先生

プライベートケアクリニック東京 院長

尾上 泰彦 先生

この記事の最終更新は2016年01月01日です。

B型肝炎の主な症状については「B型肝炎の症状-ごくまれに劇症化することもあるが、大半は自然回復する」のなかで詳しくご説明しました。今回はB型肝炎を診断されるまでの流れと治療方法について、わが国における性感染症治療の第一人者尾上泰彦先生に教えていただきました。

B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)に感染したのち体内では「HBs抗原」というタンパク質が作られます。HBV感染の可能性があるときにまず調べるのは、このHBs抗原の有無です。HBVの感染経路が性行為によるものと考えられる場合には2~6週間、針刺しや輸血が原因と考えられる場合には数日から数週間と、感染原因によって潜伏期間に差が生じます。これは体内に侵入したウイルスの量によるものと考えられています。

このHBs抗原は、HBV感染後比較的早い段階で消失してしまうことがあります。特に症状が重症化するほどHBs抗原は消失しやすくなる傾向があるために、劇症肝炎ではHBs 抗原によっては診断ができないことも多いです。

こうした状況から、急性肝炎の診断には「IgM型HBc抗体」の方が適しているといわれています。しかしこのIgM型HBc抗体は、HBVキャリアの方が急性肝炎を発症したときにも同じように陽性反応を示します。患者さんが急性肝炎の症状を訴えたとしても、一過性感染による急性肝炎なのか、慢性感染をしていた状態から急性肝炎を引き起こしたのか、IgM型HBc抗体だけでは判断することは難しいといえるでしょう。このような場合には、以前のHBs 抗原検査での陽性反応の有無や、抗体価によって総合的に判断することもあります。

ほかにもHBV-DNAを使用してHBVそのものを測定する方法もあり、現在では「リアルタイム(TaqMan)PCR法」が普及しています。しかし肝炎が長期化して慢性化する恐れがあるときや、HBs抗原消後も関わらず重症化する場合に行われるので、B型急性肝炎発症時にHBVを測定するのはまれなケースといわれています。

B型肝炎と診断されると、「HBe抗原」と「HBe抗体」の測定をします。

HBe抗原とは、HBVが増殖する際につくられるタンパク質です。このHBe抗原が陽性ということは、肝臓内でHBVが活発であり感染力が強いということをあらわしています。

HBe抗体とはHBe抗原に対する抗体です。倦怠感や赤褐色の尿など肝炎の症状があらわれた後に検査を行うと、このHBe抗原が陽性反応を示します。

HBe抗原の陽性反応が続く場合には、一過性感染による急性肝炎ではなく、HBVを保有していた「キャリア」の状態からの発症の可能性があります。

B型肝炎のキャリアについて。詳しくはこちらをご参照ください「B型肝炎の「キャリア」とは?」

HBVには8種類の遺伝子型がありますが、この中でも特に「遺伝子型A」のB型肝炎が慢性化しやすいことがわかってきました。特にMSM(男性間性交渉者。Men who have sex with men)の方ではこの確率が上がるといわれています。

急性肝炎の多くは自然に軽快し慢性化することもほとんどないため、慎重に経過観察を行うのがほとんどです。しかし、黄疸の症状が激しい方、血清GPT値(トランスアミナーゼ)が300IU/Lを超える方は、経過観察のために入院していただくこともあります。

B型肝炎の治療に際して、副腎皮質ホルモンの使用は原則的に禁忌とされています。これは副腎皮質ホルモンがHBVの繁殖を促してしまうので、使用中止後に肝炎が劇症化するのを避けることと、免疫機能の低下作用のため肝炎を慢性化することを避けるふたつの目的があります。

劇症化が心配される場合や、慢性肝疾患を患っている方が急性肝炎を併発し肝不全を起こす可能性があるときには、抗ウイルス剤を使用することがあります。しかしこのような事態になった際には、専門医のもとに速やかに転送するのが望ましいとされています。

慢性肝炎の治療方法には、「抗ウイルス療法」「肝庇護療法」「免疫療法」の3種類があります。慢性肝炎の治療は肝硬変肝がんへの進展を防ぐことが目的とされています。

インターフェロン(IFN)、拡散アナログ製剤などを使用します。とくにインターフェロン療法は肝機能改善の効果があることがわかってきたため、肝細胞がんへの進行を防ぐことが今後期待されています。

肝機能の改善と肝臓の破壊を目的とした治療方法です。グリチルリチン製剤やウルソデオキシコール酸、漢方薬の一種である小柴胡湯(しょうさいことう)などを使用します。

白血球やリンパ球などを活性化、免疫機能を強化することで治療を行います。予防接種やステロイドリバウンド療法のほかに、プロパゲルマニウムや日本では未承認のサイモシンa1を使用した治療方法もあります。

 

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