B型肝炎ウイルスも、「C型肝炎の治療―大きな進歩を遂げた治療」で説明したC型肝炎ウイルスと同様に肝炎の原因として有名です。B型肝炎においては、C型肝炎ほど画期的な治療の進歩があったわけではありませんが、近年ではきちんと薬を継続することによりコントロール可能な病気になっています。この記事ではB型肝炎の治療について、大阪市立大学肝胆膵病態内科学教授の河田則文先生にお話をお伺いしました。
B型肝炎とは、B型肝炎ウイルスによって引き起こされる肝臓の病気です。これもC型肝炎と同様に肝硬変や肝臓がんの原因になります。肝炎ウイルスの検査は各都道府県では健診に組み込まれていることがあり、そうでない場合も検査は都道府県などが指定した医療機関であれば無料で受けることができます。
B型肝炎の治療におけるC型肝炎との違いは、C型肝炎ウイルスは完全に排除することが出来る一方で、B型肝炎ウイルスは完全に排除することはできないということです。つまり、「完治」の状態に持っていくのは困難なのです。これは、B型肝炎ウイルスが肝細胞の核に入りこんでしまうためです。
しかし、B型肝炎ウイルスの増殖を防ぐための薬(逆転写酵素阻害剤といいます)はいくつか登場してきました。「エンテカビル」「テノホビル」という薬が有名で、これは飲み続けていれば血中ではウイルスの増殖を抑えこみ、血液検査上は検出限界以下(血液検査をしてもB型肝炎ウイルスが現れない)まで抑えることができます。飲み薬を飲めば病気を抑えこみ、ウイルスの増殖を抑えることができるようになったのです。つまり、「薬を飲まない状況にはできない」ものの「薬を飲んでさえいればコントロールは可能」ということです。
ただし、血液検査の見かけ上B型肝炎ウイルスが検出されない方でも危険なケースに「再活性化」があります。再活性化とは、免疫抑制剤や抗癌剤治療をした際に免疫力が落ちてしまうとB型肝炎ウイルスが暴れ出し、急性肝炎様に、時には劇症肝炎化してしまうことです。劇症肝炎は死に至る可能性もあり、非常に危険なので再活性化には注意しなければなりません。
B型肝炎が感染する機会は日常に存在します。特に若者において、性交渉、ピアス、ファッションタトゥーなどによる感染が見られます。現在200万人の方がB型肝炎と診断されていますが、肝炎を発症していなくてもB型肝炎ウイルスが肝臓の中に潜んでいる方は1000万人程度いるとされています。また、最近では海外から日本にはいなかったタイプのウイルスが入ってくるようにもなっています。
そのような経緯もあり、B型肝炎においてはさまざまな感染対策が行われています。「母子感染予防法」ができてからは新規のB型肝炎患者は減少してきています。また、予防接種においても定期接種となることが決まりました。
「C型肝炎の治療―大きな進歩を遂げた治療」ではC型肝炎、本記事ではB型肝炎の治療を主にお話ししてきました。肝炎ウイルスにより引き起こされた肝炎は治療することが可能です。では、肝炎ウイルスにより引き起こされた肝硬変(肝炎が進行し、肝臓の機能が落ちて見た目もゴツゴツと固くなったもの)を治療することができるのでしょうか。
肝炎ウイルスにより引き起こされた肝硬変は軽症のもの(Child分類のAと言われます)であれば治療することができます。その場合、形態学的には元通りにはならないけれども機能的には改善します(つまり、見た目は肝硬変のようにゴツゴツしたままですが、肝臓の機能は元通りになります)。しかし、悪化した肝硬変に関してはまだ治療することができません。
1980年代のはじめには、なぜ肝硬変が生じるのかというメカニズムも分かっていませんでした。肝細胞が壊れて線維(コラーゲン)を作ると思われていました。しかし1985年に画期的な発見がなされ、星細胞という細胞が線維化を生じさせていることが分かりました。
肝硬変を克服するため、大阪市立大学ではこの「線維化」の研究が続けられてきました。そのなかで、星細胞による線維化と発がんが密接に関係しているということを突き止めました。現在、星細胞の活性化を食い止めるための物質の研究を行っています。星細胞の活性化を抑えることができれば、肝臓の線維化、つまり肝硬変を抑えることができます。今後は肝硬変の治療薬にもこの研究をつなげていくことを目指しています。
大阪市立大学医学部附属病院 病院長補佐、大阪市立大学医学部附属病院 肝胆膵内科部長、大阪市立大学医学部附属病院 輸血部部長、先端予防医療部MedCity21 副部長、大阪市立大学院医学研究科 肝胆膵病態内科学 教授
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