これまで肝硬変、肝がんにつながる肝臓疾患としてC型肝炎などのウイルス性肝炎にばかり注目が集まっていましたが、最近はウイルス性肝炎患者の減少の一方でNASH患者が急増しており、研究が進みつつあります。ここではNASHと肝がんや肝硬変の関係について大阪府済生会吹田病院総長の岡上武先生にお伺いしました。
これまで肝臓の病気といえば、B型肝炎、C型肝炎の2つをはじめとするウイルス性肝炎の患者さんが多く、この2つのウイルス性肝炎に対して研究、臨床に多くのエネルギーが注がれていました。
ただ、B型肝炎、C型肝炎患者の多くは輸血による感染が多く、検査体制が確立されて以降はほぼ感染により発症することはなくなりました。またC型肝炎については特効薬も開発され、ほとんど治るようになっています。B型肝炎、C型肝炎患者さんは確実に減少しています。代わりに今後確実に増加するのがNASHです。
これまで肝がんの発生の多くはB型肝炎やC型肝炎ウイルスに感染している患者によって大半が占められてきましたが、過去10年で肝炎ウイルスに感染していない肝がん患者が倍増しています。
私自身もかつては主にウイルス性肝炎を臨床、研究の対象としていましたが、早くからNAFLDとNASHの重要性に着目し、研究の必要性を訴えていました。その結果、2008年にようやく厚生労働省に研究班が設置され、その班長として日本におけるNASHの研究を本格的にスタートさせることとなりました。2007年に大阪府済生会吹田病院の院長になり、NASHをテーマにテレビ出演や、講演も行う機会が多くなり患者さんに注目されるようになりました。
当院に赴任して9年近くになりますが、現在までに800例以上のNAFLD患者の肝生検を実施し、血清、組織、DNAのデータを保存し、遺伝子解析も進めてきました。当院は一般病院でありながら日本におけるNASHの臨床研究の中心になっています。
これらのデータを分析した結果、さまざまなことがわかってきています。NASH患者のうち4、5%は肥満、糖尿病、高脂血症などとは何の関係もないことがわかりました。遺伝子解析を行ったところ、22番目の染色体にのっている脂質代謝に関係した遺伝子PNPLA3(アディポニュートリン)に変異があるSNP(スニップ)が関係していることがわかりました。
また、NASHになるとすべての患者が肝硬変、肝がんに進行するかというとそうではなく、4割は進行するものの、3割はむしろ改善し、残りの3割は維持するという結果が明らかになっています。進展しやすい人を調べたところ、19番目の染色体にのっているTM6SF2という遺伝子のSNPが発がんに関係していることもわかりました。
糖尿病患者は脂肪肝になって当たり前というとらえ方をされていますが、糖尿病患者さんの何と13.3%が肝がん、肝硬変で死亡しており、NASH由来の肝障害が非常に多いことが明らかになっています。
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