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「お酒を飲まない」人でも脂肪肝になる?! NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)について知ろう

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  • 公開日:2016/09/20
  • 更新日:2017/01/11
「お酒を飲まない」人でも脂肪肝になる?! NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)について知ろう

脂肪肝と聞くと「お酒をたくさん飲んだり、ご飯を食べ過ぎたりする人がなるもの」と考える方は多いのではないでしょうか。しかし、脂肪肝には様々な種類や発症の仕方があり、お酒を飲まない方や太っていない方でも発症する可能性があります。なかでもNASH(非アルコール性脂肪肝炎)は、お酒を飲まなくても肝硬変や肝臓がんという重症な病気に進行する可能性がある肝障害です。NASHは現在、まだ医療者を含めた社会に十分認知されておらず、見逃されてしまっていることも多いと思われます。今後はNASHについて、医療者は勿論、一般の方も知っておく必要があります。NASHとはどのような病気であり何が課題なのでしょうか。日本におけるNASH治療・研究の最先端である済生会吹田病院副院長の島俊英先生にお話しいただきます。

脂肪肝とは―「肝臓に脂肪がたまりすぎた」状態。太っていない人も要注意

NASHをお話しする前に、まずは脂肪肝の病態についてご説明しましょう。

脂肪肝とは肝臓に中性脂肪が蓄積し、フォアグラ様になった状態を指します。

脂肪肝の原因は、一般的には食べ過ぎ、飲み過ぎ、運動不足、肥満などといわれていますが、なかには非肥満者でも脂肪肝を発症する可能性があります。特に危険なのは、短期間で急な体重増加がみられた方です。たとえば身長160㎝で体重54kg (BMI 21)という痩せ型の場合でも、最近に5㎏以上の急激な体重増加があった場合は脂肪肝のリスクが高まります。

つまり、肥満ではない方でも脂肪肝になる可能性は十分にあり、「私は太っていないから脂肪肝にはなりません」とはいえないのです。まずはこのことをよく知っておいてほしいと思います。

お酒を飲まないのに脂肪肝になる?「NASH」とはどのような病気か

NASH(非アルコール性脂肪肝炎)は脂肪肝のなかでも肝硬変や肝臓がんを発症するリスクが高い病気のことを指します。お酒を飲まない方が発症するという特徴を持ち、初期段階の脂肪肝を主な症状として、進行すると肝臓線維化やがんが起こる場合があります。

NASHの症状―「自覚症状がない」ことが特徴。早めの検査と対策を

肝疾患では総じて自覚症状がなく、NASHにも目立った症状は現れません。気がついたときには進行してしまっているというケースも多くみられます。

C型肝炎などのウイルス性肝炎の場合はHCV抗体などの病気を特定するマーカーがみつかっているため、血液検査を行うことで容易に診断できます。一方、NASHにはそういったマーカーがないので、定期検査していても診断がつきにくく、「たかが脂肪肝」と放置していると10年、20年後に肝硬変、肝臓がんという病気が起こってきます。

お酒によらない肝機能障害の種類―NAFLDとNAFL、NASH

肝臓病の進行

(NAFLDやNASHが進行すると肝硬変や肝臓がんを発症する場合がある)

医学的にはアルコールによらない脂肪肝をNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)と総称します。肝臓に炎症が起こっている場合はNASH、脂肪肝に留まっている場合はNAFL(非アルコール性脂肪肝)に分類されます。また、現在広くこの分野で用いられているMatteoni分類では、NAFLDをタイプ1~4の4種類に区別しています。

Matteoniの分類

 

組織所見

診断

Type 1

脂肪沈着のみ

NAFL

Type 2

脂肪沈着+小葉内炎症

NAFL

Type 3

脂肪沈着+肝細胞の風船様変性

NASH

Type 4

Type 3 +肝線維化あるいはMallory-Denk体

NASH

この表はタイプ1からタイプ4と数字が大きくなるにつれて肝臓の状態は悪くなっていきます。例えば、表におけるタイプ4は肝臓の線維化が起こっている状態ですから、肝硬変や肝臓がんに進行するリスクが最も高いと考えられます。

また、Brunt分類(ブラント分類)という指標では、このタイプ4の線維化の程度をさらに細かく分けています。

病期

 

Stage1

小葉中心部の線維化

Stage2

stage1+門脈域の線維化

Stage3

bridging fibrosis

Stage4

肝硬変

Brunt分類(ブラント分類)におけるステージ3は前肝硬変(肝硬変になる直前の段階)、ステージ4は肝硬変になっている状態です。これらの場合は、将来的に肝不全や肝臓がんに至る可能性が高いため、肝疾患によって死亡するかもしれない段階といえます。ステージ3になる前の段階できちんと診断して治療していくことが重要になっていきます。

ただし、これらの分類を正確に行うためにはどうしても肝生検(かんせいけん:肝臓の一部を採取する検査)が必要です。身体的負担も大きいため肝生検に抵抗がある患者さんは多く、肝生検をせずにNASHの診断を行う方法の確立が世界的な課題とされています。

肝生検

(肝生検:腹部に特殊な針を挿入し、直接肝臓から細胞を採取する検査)

☆肝生検せずに診断を行う方法については記事2『自覚症状がないNASHを早期診断するために―済生会吹田病院の研究と取り組み』を参照

「お酒を飲まない人の脂肪肝は悪化しない」のは本当? NASHが進行するとどうなるのか

NASHと糖尿病の関係

NASHには糖尿病という病気が非常に複雑に絡み合っていると考えています。

過去に糖尿病学会から、亡くなった糖尿病患者の死因が発表されました。そこではがんによる死因のなかで肝臓がんがトップになっていました。この事実を私たちは非常に重要視しています。

一般的に日本人はがんで死ぬ方が多いとはいえ、上位に上がるのは肺がんや胃がん、大腸がんであり、肝臓がんは4位か5位です。では、なぜ糖尿病患者の死因では肝臓がんが首位になるのでしょうか。糖尿病患者の多くはメタボリックシンドロームであり、NASHを含めた脂肪肝を合併している方がかなり多いと考えられます。これはあくまでも推測ですが、糖尿病の患者さんのがん死因第一位である肝臓がんでは、NASH肝がんが多数を占めているのではないかということです。

※糖尿病の患者さんは肝機能異常を伴っている方が多いことを踏まえて、厚生労働省NASH研究班において彼らにアルコール性肝障害やウイルス性肝炎が多いかどうかの調査が行われました。その結果、糖尿病患者はウイルス性肝炎の罹患率が高いことが判明したのです。一方、糖尿病患者には多量飲酒者はそこまで多くないこともわかりました。

肝障害、とくに肝臓がんで死亡するケースはB型肝炎、C型肝炎、アルコール性肝障害が中心です。実は約5,000人の糖尿病患者さんのうち、肝機能障害を持つ方の割合を調べてみると約3割の患者さんに肝障害を認め、B型・C型・飲酒する患者さんを除外してもその割合は変わらないことが分かりました。そう考えると、糖尿病の患者さんは確かにウイルス性肝炎の方も多いのではないかと考えられますが、肝障害の主な原因はNASHもしくはNAFLDではないかと考えられます。

NASHと心血管病変(脳梗塞、心筋梗塞など)の関係

欧米の脂肪肝の患者さんのデータでは、NASH患者はNAFL(普通の脂肪肝)患者に比べて肝関連死のリスクが高いとされています。肝線維化の程度(どれだけ肝臓の線維化が進行しているか)による死亡率の違いに関して、肝疾患で死亡する割合に明らかな差は認めないが、心血管病変で死亡する割合は、肝臓の線維化が進んだ方のほうが多いと報告されています。

また、欧米の別の報告では脂肪肝のステージ4(肝硬変)にあたる方は線維化が軽度であるステージ1~3の方よりも死亡率が高いとされており、その死因の1位は肝臓がんなどの肝臓の病気ではなく心血管病変です。つまり欧米では、NASHの進行している方は死亡率が高く、また、その主な原因は肝臓の病気ではなく、心血管の病気で亡くなっているようです。

私たちは脂肪肝の方が肝硬変あるいは肝臓がんに進行して命を落とさないように、Brunt分類のステージ3以前の段階で拾い上げてステージ4(肝硬変)になることを防ぎ、長期的に肝疾患を治療していこうと考えています。しかし、欧米のデータでは、NASHが進行した方は心血管病変で死亡する方が多いとされています。日本人の場合も欧米人と同様の傾向がみられるのかどうか、現在吹田病院でも経過をみているところです。

糖尿病患者には本当に肝臓がんが多いのか? 世界と日本では差があるのか?

日本では糖尿病患者が多く、さらにNASH肝がんによって死亡する方が多いのではないかという説と、欧米の研究(NASH患者の多くが心血管病変で死亡するというデータ)には矛盾が生じてしまいます。

もしも今後、日本人のNASH患者の最終的な経過が欧米のデータと同じということが判明すれば、私たちはNASHが進行している方に対して、心臓や脳血管へのケアにさらに重点を置く必要があります。しかし、欧米とは逆に肝疾患の死亡が多いということがわかれば、NASHの進行やNASH肝がんに対してより注意を払う必要が出てきます。

NASHの経過に関する吹田病院の調査と研究

肝生検ベースでNASHと診断された方の死亡率がどうなるか、あるいは肝線維化の程度によって心血管病変などによる入院の割合が異なるのかを調査しています。

糖尿病専門医も糖尿病とNASHの深い関係に関心を持ち患者を診ることが大事

前項で述べたように、NASHやNAFLが判明した方の経過をみていくとき、死因としてリスクが高い病気は肝疾患なのか、あるいは最終的には心臓や脳血管の病気になるのかが日本ではまだ判明していません。

このことに関してほとんどの肝臓専門医は関心を持っているのですが、調査中のデータがエビデンスとして確立されていないので、糖尿病専門医のなかでNASHの危険性を重要視している先生は少ないと思います。

糖尿病は全身病であり、糖尿病専門医は患者さんに様々な検査をする必要があります。なかでも心血管病変に対しては、頸動脈エコーを撮影するなど的確に評価がなされています。一方、肝臓専門医が「糖尿病の患者さんのなかにNASHを合併している方がいるかもしれないので紹介してください」と依頼しても、糖尿病専門医は他に注意を払うべき疾患が多数あるため、まだNASHやNASH肝がんに関する注目度は未だ低いと思われます。もしも糖尿病専門医がNASHに対してさらに関心を持ち、肝臓専門医と連携できれば、早期に糖尿病患者のNASHを発見できるかもしれません。そのためには、糖尿病専門医や循環器病専門の先生にNASHをもっと知っていただかなければならないですし、肝臓専門医はもっとしっかりとエビデンスを出していかなければならないと考えています。

NASHにいち早く気づくためには? 早期診断の方法について

脂肪肝の患者さんは病院に通っているものの、その通院先は糖尿病内科、循環器内科、あるいは一般内科である方がほとんどです。原疾患もしくは心血管系疾患に対しては適切に加療されていますが、その方がNASHであるかどうかに関しては評価されていないことが多いと思います。

この状況を改善するためには、NASHを見逃さない仕組みづくりが必要です。我々としては、糖尿病の先生や循環器系の先生に進行したNASHをある程度拾い上げてほしいと願います。

一般的な血液検査結果から血小板、AST、ALTの数値をつかうことでスクリーニングが可能です。記事2『自覚症状がないNASHを早期診断するために―済生会吹田病院の研究と取り組み』で述べるFIB-4 indexは、これらの数値のみで計算でき、進行したNASHを拾い上げるために利用できます。一番簡単なのは血小板数をみることです。実際、紹介元の先生に「脂肪肝が以前からあるが血小板数が少し低下してきたので精密検査を受けてください」といわれて吹田病院に紹介され、精査してみると進行したNASHだったという方もおられます。

NASH判断のポイント① AST、ALTが上昇する

AST, ALTの数字だけでNASHを診断することはできませんが、NASHになると高値になる傾向があります。100以上に増加している場合はNASHが疑われます。ただし、肝硬変まで進行してしまうとAST、ALTは低下してくるので、数字が高くないからといって安心はできません。また、AST/ALT比が1以上であると肝硬変になっている危険があります。

NASH判断のポイント② 血小板数が減少するが、ウイルス性肝炎ほど著しく減少しない

これとは反対に、血小板数はNASHが進行すると減少します。血小板数は通常20万/μL以上ですが、18万~19万/μLになると注意が必要です。

これらの数値は当然、肝臓専門医でなくても容易に判断できます。ただしNASHの場合、血小板の数値の下がり方が他の肝疾患とは異なることに注意しなければなりません。

肝硬変になると血小板数が減少することは、医師であればだれでも知っています。しかし、一般的な目安となるC型肝炎の基準とNASHの基準は大きく異なるのです。

教科書的にはC型肝炎で血小板数が13万/μLを切ると前肝硬変の可能性を、10万/μLを切った時点で肝硬変を疑います。しかしNASHの場合は、一般に血小板数が18~9万/μLの時点で病状が進行しており、15万/μL以下に減少したときにはすでに肝硬変になっています。

非専門医はC型肝炎の基準で肝臓をみている場合が多いので、上述のような検査結果をみて「血小板数が15万/μL以上あるから大丈夫」と判断してしまう場合が多いようです。

NASHの診断では、医療者側の関心が低いことが大きな問題点で、診断がつかないまま放置されている患者さんが多く残されています。日本人のNASHは緩やかに進行することが多いので、治療介入をしなくともしばらく大きな変化がみられません。残念ながら、肝硬変や肝臓がんになってしまった状態になって初めて発見される患者さんが多いのが現状です。

繰り返しますがNASHの場合、血小板数15万/μLはすでに肝硬変と思われます。ですから肝臓専門医以外の先生も、血小板数が20万/μLを切ってくると危険性が高いことを知っておいて頂きたいと思います。

また、エコーで脂肪肝がみつかったあと血小板が20万/μLを切った、5年前の検査では22万/μLだったのに今年は18万/μLに下がったという方の場合も注意が必要です。

NASHを予防するには? ダイエットで肥満を改善し、継続的に運動することが大事

予防にはダイエットと運動が大事です。

体重管理については、体重だけをみるのではなく、脂肪と筋肉の比率を重視して行うことを推奨します。吹田病院ではNASHの疑いで肝生検を受けた方の体組成を測定していますが、そのなかには、体重だけをみればやや重い程度(軽度肥満)であるものの、筋肉が少なく脂肪は通常よりもはるかに多いという方が一定数います。このような方の場合は体重だけを測っても肥満に該当しないので、見落とされてしまいがちです。体重管理の際には体組成、体脂肪、筋肉量も同時にチェックするようにしましょう。

また、筋肉量が増えれば代謝も上昇し、肥満改善につながります。ですから、併せて運動を行うことがお勧めです。

NASHの治療―ダイエット・運動が現在のスタンダード

第一には、やはりダイエット・運動による体重コントロールが重要です。

また、薬物療法を行う場合、合併する生活習慣病をしっかり薬物療法でコントロールすることが必要です。効果があるとされているのはピオグリタゾン、ビタミンEなどの投与ですが、数ある薬の中で群を抜いて有効というわけではなく、また、NASHの治療薬として保険認可された薬剤もありません。現在はオベチコール酸という新薬に対する臨床治験の成績が発表されています。他の薬剤の研究開発も進んでおり、わが国でも治験が開始され、済生会吹田病院も臨床治験に参加しています。将来的にNASHへの特効薬が開発され、健康保険適応で使用できるようになることが期待されます。

 

島 俊英

島 俊英先生

済生会吹田病院副院長/消化器・肝臓病センター

肝疾患(肝臓がん、ウイルス性肝炎、NASH)を専門とする。日本でトップクラスのNASH研究を手掛ける済生会吹田病院副院長の現在は、臨床データや国際的な報告、公的統計データなどをもとに、NASH病態の解明および侵襲性の低い診断方法の確立に尽力している。

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