脂肪肝と聞くと「お酒をたくさん飲んだり、ご飯を食べ過ぎたりする人がなるもの」と考える方が多いのではないでしょうか。しかし、脂肪肝にはさまざまな種類や発症の仕方があり、お酒を飲まない方や太っていない方でも発症する可能性があります。なかでもNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)は、お酒を飲まなくても肝硬変や肝がんという重度の病気に進行する可能性がある肝障害です。NASHは現在、医療者を含めた社会にまだ十分認知されておらず、見逃されてしまっていることも多いと思われます。それでは、NASHとはどのような病気であり何が課題なのでしょうか。本記事で解説していきます。
NASHについてお話しする前に、まずは脂肪肝の病態についてご説明します。
脂肪肝とは肝臓に中性脂肪が蓄積し、フォアグラのようになった状態を指します。
脂肪肝の原因は、一般的には食べ過ぎ、飲み過ぎ、運動不足、肥満などといわれていますが、なかには非肥満者でも脂肪肝を発症する可能性があります。特に危険なのは、短期間で急な体重増加が見られた方です。たとえば身長160cmで体重54kg (BMI 21)という痩せ型の場合でも、最近になって5kg以上の急激な体重増加があった場合は脂肪肝のリスクが高まります。
つまり、肥満ではない方でも脂肪肝になる可能性は十分にあり、「私は太っていないから脂肪肝にはなりません」とはいえないのです。
NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)は脂肪肝の中でも肝硬変や肝がんを発症するリスクが高い病気のことを指します。お酒を飲まない方が発症するという特徴を持ち、初期段階の脂肪肝を主な症状として、進行すると肝臓線維化やがん化が起こる場合があります。
NASHの発症に影響を及ぼす因子として挙げられるのは、下記のようなものであることが明らかになっています。
こうしたことから肥満や加齢、そして特に男性では高血圧といった要因を持っていると、NASHを発症しやすいといえるでしょう。
そのほか一部の薬剤の使用、成長ホルモン分泌不全症、膵頭(すいとう)十二指腸切除後といった要因も、NASH発症の要因になることが知られています。
また、近年ではNASHの発症にいくつかの遺伝子が関連していることが明らかになっています。
『日本消化器病学会NAFLD/NASH診療ガイドライン2014』によると、NASHの有病率はこれまでどの国や地域でも正確に把握されていませんが、近年では世界的に3~5%と推定されるようになってきています。
また同ガイドラインによると、NASHの有病率に男女で差があるかについては、研究報告が少ないため不明とされています。しかし非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の有病率と同じ(女性よりも男性でより高頻度に発症する)傾向を示しているとの報告も見られています。NASHの有病率の男女比については、今後さらなる調査が必要といえます。
同様に、年齢分布についても正確な報告が少ないために一定の見解が示されていないものの、日本においては男性では中年層、女性では高齢層に多いとする報告もなされています。
肝硬変の成因別実態2014という書籍で紹介されているデータによると、全国の26,293例の肝硬変のうち、C型肝炎が53%、アルコール性が18%、その他の肝硬変が11%であることが明らかになっています。おそらく、”その他の肝硬変”の11%のほとんどが、NASH肝硬変と推測されます。
NASHは進行して肝硬変になると肝生検を行っても脂肪滴が消失したBurn out NASHといわれる状態になり、原因不明の肝硬変(cryptogenic cirrhosis)と診断されることが多いのが現状です。したがって、NASH肝硬変の正確な統計をとることは困難ですが、恐らく肝硬変の1割程度がNASHからの肝硬変と推測されます。
犬山シンポジウム参加施設の33,782例の肝がんを集計した結果によると、2010年の肝がんの成因は、
という割合でした。この非B非C肝炎の主たる疾患はアルコール性とNASHと考えられますが、Burn out NASHに進行するとNASHと診断できなくなるので、正確な統計は困難です。おそらく、NASHからの肝がんも全体の1割程度ではないかと推測できます。
以上のように、NASHからの肝硬変、肝がんは1割程度で、多くないと考えられます。しかし、C型肝炎は診断が容易であり、診断された患者さんに対して定期的に検査、治療が行われているので、肝がんでも早期に見つかることが一般的です。NASH肝硬変、肝がんの問題点は、“たかが脂肪肝”と放置された患者さんの一部がこのような病態になることで、腹水がたまった進行した肝硬変や、手が付けられない進行肝がんで見つかることが珍しくありません。かといって、2,000万人もいる脂肪肝全員に肝がんのスクリーニングを行うわけにもいきません。このことから、いかに肝硬変、肝がんに移行する危険のあるNASH患者を見つけられるのかということが重要な課題となっています。
肝疾患では総じて自覚症状がなく、NASHにも目立った症状は現れません。気がついたときには進行してしまっているというケースも多く見られます。
肝臓の障害を表す名称として、NASH以外にもNAFLD、NAFLなどがありますが、それぞれNASHとは何が異なるのでしょうか。まずそれぞれの正式な名称を見てみましょう。
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・NAFLD(ナッフルディー) 非アルコール性脂肪性肝疾患
・NAFL (ナッフル) 単純性脂肪肝
・NASH(ナッシュ) 非アルコール性脂肪性肝炎
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NAFLDは、アルコールを原因としない脂肪肝疾患の総称です。このNAFLDの中にNAFLとNASHが含まれます。
NAFLDのうちの多くはNAFL(単純性脂肪肝)であり、NAFLは炎症や線維化を伴わない脂肪肝です。一方、NAFLDのなかには炎症や線維化を伴うものがあり、これがNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)と呼ばれます。
現在、NAFLDの分類としては、Matteoni分類が広くこの分野で用いられています。Matteoni分類ではNAFLDをタイプ1~4の4種類に区別しています。
【Matteoni分類】
この表はタイプ1からタイプ4へと数字が大きくなるにつれて肝臓の状態が悪くなっていきます。たとえば、表におけるタイプ4は肝臓の線維化が起こっている状態ですから、肝硬変や肝がんに進行するリスクがもっとも高いと考えられます。
また、Brunt分類(ブラント分類)という指標では、このタイプ4の線維化の程度をさらに細かく分けています。
【Brunt分類】
Brunt分類におけるステージ3は前肝硬変(肝硬変になる直前の段階)、ステージ4は肝硬変になっている状態です。これらの場合は、将来的に肝不全や肝がんに至る可能性が高いため、肝疾患によって死亡するかもしれない段階といえます。ステージ3になる前の段階できちんと診断して治療していくことが重要になっていきます。
日本肝臓学会が編集している「NASH・NAFLDの診療ガイド2015」には、NASHの5~20%が、5~10年の経過で肝硬変に進行すると記載されています。またそのようにして発症した“NASH肝硬変”が肝がんになる確率は5年で11%と記載されていますが、引用論文が少なく、まだ、正確な予後は明らかでないと思われます。日本におけるNASH患者は、肝硬変、肝がんで亡くなる確率が高いと思われますが、まだ予後に関しては十分な統計データが集積されていないのが現状です。
体重管理については、体重だけを見るのではなく、脂肪と筋肉の比率を重視して行うことが大切です。NASHが疑われる患者さんの中には、体重だけを見ればやや重い程度(軽度肥満)であるものの、筋肉が少なく脂肪が通常よりもはるかに多いという方が一定数います。このような方の場合は体重だけを測っても肥満に該当しないので、見落とされてしまいがちです。体重管理の際には体組成、体脂肪、筋肉量も同時にチェックするようにしましょう。
また、筋肉量が増えれば代謝も上昇し、肥満改善につながります。ですから、合わせて運動を行うことがおすすめです。
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