がんポータルサイトはこちら
インタビュー

がん手術前のリハビリ「プレハビリテーション」による筋力や体力の「貯筋」

がん手術前のリハビリ「プレハビリテーション」による筋力や体力の「貯筋」
角田 亘 先生

国際医療福祉大学成田キャンパス 医学部

角田 亘 先生

この記事の最終更新は2016年07月27日です。

がん患者さんに対するリハビリテーションには、手術後に行うものや、抗がん剤治療を行いながら同時並行で進めるものなど様々な種類があります。近年では、がんの外科的手術を受ける前にあらかじめ体力を向上させておく、「プレハビリテーション」という概念も登場し、世界的に注目を集め始めています。国際医療福祉大学三田病院のリハビリテーション科では2016年春、消化器外科とタッグを組み、日本においては先陣を切る形でプレハビリテーションの実施を開始しました。本記事では、国際医療福祉大学三田病院リハビリテーション科教授の角田亘先生に、プレハビリテーションの効果と今後の展望についてお伺いしました。

※角田亘先生は、2018年現在国際医療福祉大学成田キャンパス医学部にてリハビリテーション医学主任教授を務められています。

近年、日本ではがん患者さんに対するリハビリテーションが広く行われるようになりました。一般的にリハビリテーションとは何らかの治療後に行うものを指しますが、がん患者さんに対するリハビリテーションの場合、その時期に合わせて以下の4つの分野に分類されます。

(1)手術や化学療法、放射線治療前に行う予防的リハビリテーション

(2)治療後(もしくは抗がん剤や放射線治療中)に開始される回復的リハビリテーション

(3)進行がん患者さんの運動能力の維持や改善などを目的とした維持的リハビリテーション

(4)積極的な治療を受けられなくなった患者さんの苦痛を取り除き、QOLを向上させる緩和的リハビリテーション

これが他の分野のリハビリテーションと大きく異なる点であり、三田病院でもあらゆるステージにいる患者さんのリハビリテーションを徹底して行っています。

特に、今年2016年3月からは、消化器外科と連携して、手術の前にあらかじめ患者さんの筋量や持久力を向上させる「プレハビリテーション」を開始しました。

プレハビリテーションとは、リハビリテーションと接頭辞の“pre-”(ここでは術前の意)を組み合わせたアメリカ発祥の造語です。世界的にも非常に新しい言葉ですので、耳慣れないと感じる方も多いでしょう。

通常、がんの手術後には、体力低下などを防いで体の機能回復を順調なものとするため、早期離床とベッドサイドからの積極的なリハビリテーションが理想とされます。しかしながら、侵襲性の高い手術を受けた後にはダメージの度合いや傷の大きさ、合併症などにより、術前の計画よりも安静期間が長引いてしまうこともあります。

プレハビリテーションとは、このような術後の筋力低下に備え、体が動く時期(術前)に運動を行っていただき、足腰の筋力や持久力を高めて術後の経過を良好なものとすることを目的に行うものです。より噛み砕いていうと、“いざというときに備え、あらかじめ筋肉(と体力)を貯えておく”というものであり、私たちはこれを「貯筋(ちょきん)」と呼ぶこともあります。

実際に術前の身体のコンディションがよいほど、術後の経過もよくなるとされる研究結果も報告されています。また、当院でもプレハビリテーションの有用性は既に数値で確認できています。

ウォーキングなどごく普通の有酸素運動や、ご自宅でもできるような筋力トレーニングを1週間~3週間かけて行っていただきます。

2~3日の運動では大きな変化はみられませんが、1週間以上継続的に実施すれば、高齢の方や体力が低下していた方には目に見える変化が現れます。日ごろ運動習慣がない方々にとっては、1週間強の簡単な運動も非常に大きな意味を成すのです。

現在三田病院では、消化器がんの外科手術を行う患者さん全例にプレハビリテーションを行っていただくという新たな取り組みを実施しています。

スケジュールとしては、まず手術が決定したその日に必ずリハビリテーション科に来ていただき、前項でご紹介した研究報告などを示しながら術前のプレハビリテーションについてお話します。

ほとんどの患者さんは手術を行う2週間~4週間前に当科に来られますので、最低でも1週間以上のプレハビリテーションを行うことが可能です。

このような取り組みを消化器外科と連携して開始した理由は、様々ながんのなかでも消化器がんの外科手術が最も侵襲度が大きく、術後の安静期間も長くなる傾向がみられるからです。特に肝臓や膵臓を切除する手術では体の受けるダメージも大きくなるため、より強度の高いプレハビリテーションが必要となります。

もちろん、同じ消化器外科領域のがん手術でも侵襲度は違いますので、どの程度の運動を処方するかは専門家であるリハビリテーション科の医師が判断・調整します。

このように、プレハビリテーションを行うためには消化器外科とリハビリテーション科など、綿密な他科連携が不可欠です。

当科では2016年の4月1日から7月中旬までに、およそ80人弱の患者さんがプレハビリテーションを行っています。

現時点までに当科へ来られた患者さんは、「前向きかつ自主的に運動や筋力トレーニングに取り組んでくださる方が多い」という共通点がみられます。消化器がんの患者さんは手術前には体が弱っていないことも少なくないためとも考えられますが、それ以前に元々「がんを克服しよう/手術を乗り越えて元気になろう」という闘志を持っていらっしゃる方が多いことが、効果的なプレハビリテーションの実施の助けになっていると感じます。ただし、プレハビリテーションを行う患者さんは皆さんがんの手術を控えているわけですから、今後は精神的なケアも取り入れていかねばならないと考えます。

また、私たちが推奨する自主トレが、ご自宅で取り組みやすい強度のトレーニングであることも、患者さんに受け入れていただけている理由のひとつなのではないかと考えます。

今後の課題として、まずは消化器がんだけでなく、侵襲性の高い手術を行う場合は診療科の垣根を超えてプレハビリテーションを行えるよう、体制を整えていくことが重要だと考えます。たとえば、肺がんの手術なども種類によっては侵襲度が大きいものとなるため、呼吸器外科の先生方とも手を携えていきたいと考えます。

また、がんの手術前には筋量や持久力を高めておく「貯筋」だけでなく、栄養状態を整えておく「栄養管理」も大切です。

世界ではじめてプレハビリテーションを提唱したグループは、リハビリテーションと栄養管理を併せてプレハビリテーションと述べており、栄養管理は術後の状態をよりよいものとするために欠かせない要素であるとしています。三田病院においても、今後はリハビリテーション科のみならず、栄養士のいる栄養室との協働が必要になるでしょう。

また、プレハビリテーションの対象者は手術を控えたがん患者さんですので、前項でも触れた精神面のケアも大切です。たとえば、患者さんと触れ合う機会の多い看護師の方に、この役割を担っていただくのもよいかと考えます。

海外では(1)体の状態の管理(2)栄養管理(3)心理状態のケアの3つを併せて「包括的なプレハビリテーション」と定義する場合がありますが、日本でもこの3本柱を併せて行えるよう、医療者に対するプレハビリテーションへの認知・理解を広め、施設全体でがん患者さんを支えていける体制を作る必要があります。日本においてその先駆けを務めるのが、当院の役割ではないかと感じています。

以上のことをまとめますと、今後はリハビリテーション科のスタッフだけでなく、栄養士や看護師の方など、多職種と協力して「チーム医療」として包括的なプレハビリテーションを提供していくことが重要であると考えます。

この記事は参考になりましたか?
記事内容の修正すべき点を報告
この記事は参考になりましたか?
この記事や、メディカルノートのサイトについてご意見があればお書きください。今後の記事作りの参考にさせていただきます。

なお、こちらで頂いたご意見への返信はおこなっておりません。医療相談をご要望の方はこちらからどうぞ。

    実績のある医師

    周辺で膵臓がんの実績がある医師

    東京医科大学病院 消化器内科 主任教授

    いとい たかお
    糸井先生の医療記事

    2

    内科、血液内科、リウマチ・膠原病内科、外科、心療内科、神経内科、脳神経外科、呼吸器内科、呼吸器外科、消化器内科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、小児外科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、矯正歯科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、循環器内科、糖尿病内科、代謝内科、内分泌内科

    東京都新宿区西新宿6丁目7-1

    東京メトロ丸ノ内線「西新宿」2番出口またはE5出口 徒歩1分、JR山手線「新宿」西口 その他JR複数線、小田急線小田原線、京王電鉄京王線、都営新宿線なども利用可能 徒歩10分

    医療法人社団 藤﨑病院 理事長 院長

    ふじさき しげる
    藤﨑先生の医療記事

    1

    内科、血液内科、外科、脳神経外科、消化器外科、整形外科、皮膚科、泌尿器科、リハビリテーション科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、糖尿病内科、肝胆膵外科、肛門外科、放射線診断科

    東京都江東区南砂1丁目25-11

    都営新宿線「西大島」都営バス 門前仲町行き(都07)、葛西橋または葛西車庫行き(草28) 境川下車 徒歩3分 バス、JR中央・総武線「亀戸」都営バス 葛西駅行き(亀29)、門前仲町行き(都07)など 境川下車 徒歩3分 バス

    東京医科大学八王子医療センター 消化器外科・移植外科

    しまづ もとひで
    島津先生の医療記事

    1

    内科、血液内科、リウマチ科、外科、精神科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、放射線科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、腫瘍内科、感染症内科、消化器内科、糖尿病内科、内分泌内科、代謝内科、脳神経内科、老年内科、頭頸部外科、総合診療科、病理診断科

    東京都八王子市館町1163

    JR中央本線(東京~塩尻)「高尾」南口 京王バス 医療センター経由館ケ丘団地行き 医療センター下車  京王電鉄高尾線も利用可能 バス7分、JR横浜線「八王子みなみ野」無料シャトルバス運行 バス

    独立行政法人国立病院機構 東京医療センター 一般・消化器外科 医長

    うらかみ ひでじろう

    国立病院機構 東京医療センターー低侵襲な医療を患者さんに提供することで地域医療に貢献する

    区西南部医療圏の医療を支える東京医療センターによる、前立腺がん・子宮体がん・胃がん.大腸がん・慢性中耳炎.真珠腫性中耳炎の治療をテーマにした特集です。

    内科、アレルギー科、血液内科、リウマチ科、外科、精神科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、緩和ケア内科、腫瘍内科、感染症内科、消化器内科、糖尿病内科、内分泌内科、膠原病内科、脳神経内科、放射線診断科、放射線治療科

    東京都目黒区東が丘2丁目5-1

    東急田園都市線「駒沢大学」 徒歩15分

    JR東京総合病院 院長

    こすげ ともお

    内科、血液内科、リウマチ科、外科、精神科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、小児科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、緩和ケア内科、腫瘍内科、消化器内科、糖尿病内科、内分泌内科、膠原病内科、脳神経内科、血管外科、総合診療科

    東京都渋谷区代々木2丁目1-3

    都営大江戸線「新宿」A1出口 京王新線・都営新宿線も利用可 徒歩1分、JR山手線「新宿」南改札・甲州街道改札・新南改札 徒歩5分、JR山手線「代々木」北口 徒歩5分、小田急線「新宿」南口改札 徒歩5分

    関連記事

  • もっと見る

    関連の医療相談が23件あります

    ※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。

    「膵臓がん」を登録すると、新着の情報をお知らせします

    処理が完了できませんでした。時間を空けて再度お試しください

    メディカルノートをアプリで使おう

    iPhone版

    App Storeからダウンロード"
    Qr iphone

    Android版

    Google PLayで手に入れよう
    Qr android
    Img app