IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)とは、将来がん化する可能性もある膵臓の腫瘍です。通常の膵臓がんを併存しやすいという特徴も持つため、良性のIPMNがみつかった場合は、定期的に経過観察を行い、異変がないか確認することが重要です。
IPMNを早期に発見・診断するために有効な3つの検査と、通常の人間ドックなどでは発見に至らないケースもある理由について、国際福祉医療大学三田病院消化器外科教授の羽鳥隆先生にお話しいただきました。
IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)とは、粘液と呼ばれる液体を産生しながら乳頭状の形の細胞が膵管内に増殖し、徐々に膵管が太くなっていき、将来がん化する可能性もある膵腫瘍です。IPMNは、腫瘍ができる部位により、(1)分枝型と(2)主膵管型、(3)混合型に分類されます。IPMNのうち最も多い分枝型は、主膵管が枝分かれした分枝膵管内に腫瘍が認められます。主膵管型はその名の通り主膵管に拡張が認められ、双方が混在している場合は混合型に分類されます。
分枝型のIPMNの多くはおとなしい腫瘍であり、発見されたとしても治療を必要とせず、経過観察となります。しかし、確定診断にはいくつかの条件があることや嚢胞状(袋状)の形態をとることから、単に膵嚢胞として扱われ軽視されやすいという問題を持っています。
たとえがん化したとしても進行が比較的おとなしいという性質をもつIPMNは、適切な時期に発見することができれば、外科手術のみによって治すことができる唯一の膵がんと表現することができます。
手術のタイミングを逃すと、外科手術と併せて抗癌剤治療などを行なう必要があります。
しかしながら、IPMNはそれ自体にがん化するリスクがあるだけでなく、IPMNではない通常の膵臓がんを併存しやすいという危険性を持っています。
ご存知の方も多いように、通常の膵臓がんの治療は非常に難しく、他のがんに比べ死亡率も高くなっています。IPMN患者さんのうち、残念ながら亡くなってしまわれた患者さんの死亡原因の大半は、手術のタイミングを逃してIPMNのがんが進んでしまったことと、IPMN自体ではなく併存した通常の膵がんなのです。
ただし、IPMNの診断を受けており、定期的な経過観察を行っている最中に初期の併存がんを発見できた場合は、手術と抗がん剤を組み合わせて治癒することも可能です。実際に、この方法により救命できた患者さんもいらっしゃいます。したがって、膵嚢胞と診断された場合、IPMNであることが少なくないとしっかりと認識し、定期的な経過観察を行うことは、極めて重要であるといえます。
しかしながら、人間ドックなどで用いられる検査によりIPMNの診断をつけることは難しく、依然として膵嚢胞と捉えられてしまうケースは多くなっています。この理由は、後述するように、検査方法に限界があることと、IPMNの認識がまだ不十分であるからです。
人間ドックや健康診断を自主的に受診される方とは、健康意識が高い方といえます。そのような方が「病院へ行く必要のない膵嚢胞」と説明を受け、適切な経過観察を受ける機会を逸してしまっている現状には、悔しさの念を禁じえません。
人間ドックなど、一般的な検診では簡便で安全な超音波検査や単純CT検査により腹腔の所見を観察します。しかし、超音波検査は消化管のガスや内臓脂肪の影響を受けやすく、肥満傾向の場合など、被検者の体型によっては十分な観察を行うことができません。また、造影剤を用いない単純CT検査で、膵臓の病気を見つけることは困難といわざるを得ません。
膵臓の観察に向いている画像検査方法としては、単純CT検査だけでなく造影剤を使用して腹部を観察する造影CT検査を加えることが挙げられます。
多くのIPMNは人間ドック等が発見契機になっているため、単なる膵嚢胞として軽視しないことや、オプションでも構わないので人間ドックの検査項目に造影CT検査も組み入れることが有効であると考えます。
ただし、造影CT検査にも造影剤アレルギーやアナフィラキシーショックなどの重篤なリスクがあるため、人間ドックで扱えない場合には速やかに専門医を紹介すべきでしょう。
ただし、造影CT検査も万能というわけではありません。検査を行う技師の経験や機器の性能に左右されてしまう部分もあるため、複数の画像検査を組み合わせ、IPMNの診断や経過観察を行います。
IPMNの代表的な画像検査は、以下の3種類です。
経過観察が可能な分枝型IPMNの場合、半年ごとの定期検査(※)を行いますが、いずれかの検査が1年に1回は行うことを原則として、膵臓全体を見落としなくみるようにしています。
定期検査の頻度は患者さんの状況により変わります。例えば、家族に膵がんの方がいらっしゃる場合や糖尿病がある場合などでは、3か月ごとに検査を行う場合もあります。
造影CT検査では造影CTだけでなく単純CTも撮影するのが一般的です。検査法を「木と森」に喩えるとすれば、どちらかというと造影CT検査は「森をみる検査」と表現することができます。ただし、検査技師の技量や装置の性能に左右される難点がありますが、最新の機器を用いて行う造影CT検査は木と森の両方をみることができます。IPMNの状況把握だけでなく、併存する膵がんの有無についての診断にも役立ちます。もちろん、アナフィラキシーショックや造影剤アレルギー、放射線被爆などのデメリットもありますが、膵臓の病気を心配されているのであれば、現状では造影剤アレルギーや気管支喘息のある方を除いては検査を受けるメリットの方が大きいと思われます。
MRI装置を用いて行うMRCP検査(Magnetic Resonance cholangiopancreatography)では、膵管や胆管の状態を分かりやすくみることができます。
MRCP検査は「森をみる検査」と喩えることができます。ただし、膵管が強調された画像を得られるMRCP検査でも、細かい変化は捉えにくく、造影CT検査と同様に、検査技師の技量や装置の性能に左右される検査という難点もあります。できるだけ最新機器で検査を受けることをお勧めいたします。
内視鏡の先端につけた超音波装置を胃や十二指腸にあてて非常に近い位置から膵臓の超音波画像を写し出すEUSは、森ではなく「木や葉っぱをみる検査」と喩えることができます。
体外から超音波をあてる通常の超音波検査とは異なり非常に鮮明です。また、EUSでは必要に応じて細胞や組織を採取する検査を行うことも可能です。
ただし、この検査は近視眼的な画像を得る検査であるため、膵臓の全体像を把握することは少し苦手です。目的の病変を細かく評価することには適していますが、少し離れた部位の評価には適していません。
これら3つの検査により、IPMNの悪性度を予測することになります。
なお、3つの画像検査にはそれぞれに得手不得手があります。医師はそれぞれの欠点を補い利点を活かすという意識を持ち、見落としがないよう相補的に検査を行うことが重要です。
日本では、IPMNに対する針生検はほとんど行われていません。冒頭で述べたようにIPMNの内部には粘液が含まれており、針生検により細胞の一部を採取する際、粘液が漏れて播種(はしゅ:腹腔内にがん細胞が広がること)が起こるリスクがあるのです。
また、針を刺した部分にがん細胞がなければ、たとえIPMNががん化していたとしても正しく診断することはできません。
このような理由から日本では形態変化をみる画像検査が主流となっており、IPMNに対する針生検は、本当に必要な患者さんに限り、慎重を期して行っています。
ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)とは、内視鏡下に膵管にカテーテルを挿入し、膵管や胆管を造影するとともに膵液や細胞を採取することのできる検査です。主膵管型のIPMNであれば病変部の細胞がとりやすいものの、分枝型IPMNでは採取が困難であり評価の精度が低下するというデメリットがあります。
また、ERCP検査は検査の刺激により急性膵炎を起こすリスクもあります。このようなリスクと先述した3つの画像検査の有効性を鑑み、IPMNの経過観察においては、ERCP検査を実施しない施設が多くなっています。
分枝型のIPMNと同じく、袋状の形態をとる膵腫瘍です。
IPMNは粘り気のある粘液で満たされていますが、漿液性嚢胞腫瘍の内部はサラサラとした漿液で満たされています。ほとんどの漿液性嚢胞腫瘍は良性を示すため経過観察となりますが、ごく稀に悪性も認められるため、腫瘍の増大スピードが速い場合や膵管を巻き込んで膵管が太くなってくるような場合には、手術により摘出することをおすすめします。
ほとんど女性にしか発症しない袋状の粘液を含んだ腫瘍です。よく観察すると分枝型のIPMNとは袋の形態が異なるため、区別することができますが、判別が難しい場合もあります。日本では悪性例が20%程度認められますので、診断された場合には手術で摘出することをおすすめします。
このほか、膵充実性偽乳頭腫瘍(SPN)などの膵腫瘍も袋状を呈するため、分枝型のIPMNとの鑑別が必要です。
次の記事2『IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)の手術方法-適応基準やリスク、術後管理』では、IPMNの治療についてお話しします。
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