インタビュー

IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)の手術方法-適応基準やリスク、術後管理

IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)の手術方法-適応基準やリスク、術後管理
羽鳥 隆 先生

国際医療福祉大学三田病院消化器センター 教授

羽鳥 隆 先生

膵臓にできる腫瘍、IPMNの治療選択肢は経過観察か外科手術です。現在のところ有効な薬物治療はありません。手術を必要としないIPMNでも、年単位で経過観察を続けることでがん化した場合や、通常の膵臓がんを発症した場合に、早期に発見できればこれらのがんも治すことができます。国際福祉医療大学三田病院消化器外科教授の羽鳥隆先生は、死亡率が高い膵臓がんを治療可能な段階でみつけるためにも、IPMNの診断を受けた後、異変がみられない段階での定期検査を受け続けてほしいとおっしゃいます。経過観察の重要性と、IPMNの手術方法(術式)、術後管理時の注意点について、羽鳥先生にお話しいただきました。

IPMNの治療選択-経過観察と手術

良性で手術適応とならない場合でも経過観察は継続する

IPMNの多くは発見された時点では良性ですが、症例によっては20年~30年といった長い時を経てがん化することがあります。「40~50歳で診断され、痛くも痒くもないから放っておいたらかなり進んだがんになっていました」といわれる60~70歳代の方に時々お会いします。仮に悪性のIPMNとしても他の膵臓がんに比べてややおとなしい性質を持っているので、進行する前に手術で摘出できれば「膵臓がんのなかで唯一外科手術のみにより治すことが可能ながん」です。

良性のIPMNが発見された場合は、次項に記す適応基準を満たさない限り、基本的に経過観察となります。良性のIPMNに有効な薬物療法や放射線療法というものは存在しません。

このような特徴を持つ良性のIPMNの患者さんのなかには、次のような方もいらっしゃいます。

(1)定期的な検査に来なくなってしまう患者さん

(2)がん化するのではないかと不安を抱え込んでしまう患者さん

たとえば40歳代などの若い時期に良性のIPMNが見つかった場合、患者さんはその後何十年といった長い期間、定期的に記事1『膵臓の腫瘍IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)の検査-併存しやすい膵臓がんの早期発見のために』で述べた検査を受ける必要があります。

検査を受け続けても、生涯IPMNが悪性化することなく天寿を全うされる方もいれば、発見後5年や10年といった年月が経ち、定期的な受診をやめてしまわれた後、悪性化して亡くなってしまう患者さんもおられます。後者のようなケースを減らすためにも、どうか定期検査にかかる手間を惜しまないでほしいとお伝えしたいです。

不安に思いすぎず経過観察を受け続けてほしい

不安そうにふさぎ込んでいる中高年

また、悪性化や併存する膵臓がんのリスクに関する説明を受け、大きな不安と恐怖に取り込まれてしまう患者さんもおられます。怯えてしまい、病気のことが頭から離れなくなるという心情はよくわかりますが、心配のし過ぎは心身にストレスをかけてしまいます。

近年では、ストレスと疾病、寿命などの因果関係を調べた研究結果が報告されています。たとえば、インターネットなどで病気の情報を探し続ける行為をやめてみるなど、生活のなかでIPMNから離れる時間を意図的にとることをおすすめします。

手術適応となるIPMNでも治療方針は患者さんの意思を尊重する

IPMNは分枝型よりも主膵管型や混合型のほうが悪性化の頻度が高く60%程度に認められるため、どちらかのタイプと判断された場合には手術を考えます。

分枝型のIPMNでは、経過観察中に袋状の内面が凸凹してきたり、主膵管が10mm以上に拡張してきたりした場合には、悪性化の徴候と判断されますので手術を考えます。

しかし、手術適応となるIPMNが必ずがん化しているわけではありません。

たとえば、「30%の確率でがん化する」という数値を聞き、「70%はがん化しない」と捉える患者さんもいます。また、手術にも後述するリスクがあります。

そのため、患者さんとよく相談したうえで治療方針を決めています。

腹痛や背中の痛みを頻繁に起こすIPMNは手術が必要

ただし、IPMNのうち、急性膵炎を頻繁に起こす場合は、がん化率も高い傾向があり、また、腹痛のため日常生活に支障を来すため、良性のIPMNと判断されても手術の適応としています。

IPMNとは粘り気のある粘液を産生する腫瘍です。この粘液が膵管に詰まることで急性膵炎が引き起こされ、激しい痛みの症状が現れます。

IPMNの診断を受けており、頻繁に腹痛や背中の痛みがあるという場合は早期に主治医に症状を伝えましょう。

IPMNの手術-代表的な3つの術式

膵頭部、膵体部、膵尾部など、膵臓のどこに腫瘍があるかによって、手術の方法(術式)は変わります。代表的な術式は以下の3つです。

  • 膵頭十二指腸切除術(すいとうじゅうにしちょうせつじょじゅつ)
  • 膵体尾部切除術(すいたいびぶせつじょじゅつ)
  • 膵全摘術(すいぜんてきじゅつ)

これらの手術は、温存する周辺臓器などによって、更に複数の種類にわけられます。

IPMNの膵頭十二指腸切除術

幽門輪温存膵頭十二指腸切除術では胃をすべて温存できる

腫瘍のある膵頭部とともに、連結する十二指腸や胆嚢・胆管も切除する手術です。

かつて、この手術では胃を半分ほど切除していましたが、幽門輪温存膵頭十二指腸切除術と呼ばれる胃を温存する術式が開発されてからは、胃を切除せずにすべて残すことができるようになりました。

幽門輪温存膵頭十二指腸切除術では、十二指腸も3~4cm残すことができます。ただし、施設によっては胃をわずかに切除する方法を採用しています。

IPMNの膵体尾部切除術

膵体尾部切除術とは、腫瘍が膵臓の中心部分(膵体部)や膵尾部にあるときに行なう手術で、膵体部や膵尾部を脾臓とともに切除します。

ただし、IPMNの進行の程度によっては脾臓を温存する脾温存膵体尾部切除術を選ぶこともあります。

IPMNの膵全摘術

手術適応のある腫瘍が膵臓全体に広がっている場合は、膵臓を全摘出します。一般的な膵全摘術では、周辺臓器の十二指腸や胆嚢・胆管、脾臓も摘出することになりますが、IPMNの進行の程度によっては周辺臓器の一部やすべてを温存することも可能です。

膵全摘術後の注意点-食事制限の必要はない

美味しそうに食事をとっている中年

膵全摘術では、術後管理を行なう医師の理解が極めて重要であり、未だに食事を厳密に制限するよう指導され、食事の楽しみを奪われている患者さんがいるのは非常に残念なことであるといわざるを得ません。

膵臓をすべて摘出しても、患者さんは食事制限を行なう必要はなく、一般の人と同じ食事ができます。もちろん、これは暴飲暴食をしろといっているわけではなく、「食事の種類を制限する必要がない」ということです。たとえば、肉、野菜、穀類、デザートなど、お好きな物を食べることができます。

ただし、膵臓自体を摘出することで、食物消化に必要な消化酵素を含む膵液が出なくなるため、それを補充するための消化酵素薬を沢山内服して飲食物を消化する必要があります。

また、膵臓は血糖をコントロールするインスリンを分泌しているため、膵全摘術後は補充する必要があり、一日3~4回のインスリン注射が必要になります。こうした手間はかかりますが、きちんと管理をすれば食事の楽しみも増えますし、適量であれば飲酒もできます。実際に、患者さんは皆さんお好きなものを食べ、元気に生活しておられます。

膵全摘術後の患者さんの食事制限は栄養失調につながりかねない

ところが、術後管理を行なう医師が膵全摘後だからと脂肪食を制限したり、血糖値を厳密にコントロールせねばならないと思ってしまい食事制限を行ってしまった場合、患者さんは重度の脂肪肝や栄養失調状態に陥ることがあります。膵全摘後の血糖値は乱高下しやすい傾向がありますので、ある程度の幅をもって対処しなくてはなりません。現在でも、多くの医師は膵臓を全摘出するとQOL(生活の質)が下がると思い込んでいる傾向があります。また、インスリン管理を重視して術後管理を糖尿病専門医に任せてしまう施設も存在します。このような医療者の理解不足は、逆に膵全摘術後の患者さんのQOLを不必要に低下させてしまう行為といえるでしょう。

インスリンを投与する点では同じでも膵全摘後の患者さんを糖尿病患者さんと同じように扱ってはいけないことを、ぜひ多くの医療者に知っていただきたいと願っています。

羽鳥隆先生が三田病院において行っているIPMN手術

以上の3つが代表的なIPMNの手術法ですが、当院ではほかにも沢山の術式を行っています。

たとえば、膵臓の中央に腫瘍がある場合は、膵臓の頭部と尾部を残す膵中央切除術を行なうことがあります。

このほか、逆に膵頭部と膵尾部を切除して膵体部を残す膵体部温存膵切除や、十二指腸をすべて残す十二指腸温存膵頭切除術や十二指腸温存膵全摘術を行なうこともあります。ただし、これら臓器機能温存手術は腫瘍の切除が不十分になってしまう危険性や手術後の合併症が多くなったり、経過観察可能例をあえて手術してしまったりする可能性もありますので、慎重に選択する必要があります。

膵臓の周辺臓器を残す手術には技術と経験が必要

手袋をした医師の手

手術を行う際には、病変のない臓器には手を付けず温存する術式を選択することが理想とされます。患者さんの思いとしても、なるべく多くの臓器は温存できる手術を選びたいところでしょう。しかし、周辺臓器を温存する膵切除術の難易度は温存する臓器により非常に高く、あらゆる施設で実施できるわけではありません。たとえば、無理に脾臓を残そうとすることで、出血量が多くなったり、脾臓の血液の流れが悪くなったりすること、また、十二指腸や胆管を残そうとするとそれぞれの血液の流れが悪くなったりすることもあるのです。

このような安全性と有効性、難易度の点から、膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術、膵全摘術の3つをIPMNに対する基本手術として実施している施設が多いと思われます。

本記事でご紹介してきたすべての術式を行なうためには、医師の経験と技術、また適切な術後管理を行える施設やスタッフ一同の経験と知識が求められます。

術後の経過観察の目的とは?IPMNは膵臓の別の部位に起こる可能性がある

膵臓の切除術を行ったとしても、別の部位にIPMNや併存がんが生じる可能性はあります。そのため、IPMNの手術を受けた患者さんは、その後も生涯にわたり経過観察が必要になります。なかには、人生で二度三度膵臓の手術を経験し、最終的に膵臓をすべて摘出する患者さんもいらっしゃいます。しかし、これはあくまで将来のリスクであり、初回の手術でむやみに膵全摘術を行ってしまうことは、過剰な治療であるといえます。

私たちは手術を行なう際、病変を切除することだけでなく、患者さんの膵臓の機能をいかに残していくか、バランスを慎重に考慮しながら切除範囲を決めているのです。

このような病気の性質から、IPMNは発症したら一生逃れることができない疾患というイメージを持たれるかもしれません。

しかし、適切な検査を受け、正しく診断を受け、経過観察を受けることができていれば、仮に再発や通常の膵臓がんを発症しても治療可能な段階で介入することができます。

通常の膵臓がんの多くは発見が難しく、既に手遅れとなってからみつかることも多々あります。IPMNは、このような死亡率の高い膵臓がんを早期に発見し、治療するためにも極めて重要な疾患といえます。最後に改めて、医療者の方には適切な検査を行なうことを、患者さんには経過観察を受け続ける重要性をお伝えしたいと思います。